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8.蒔かれた光

「―――次はこっちの番だな。倒れんなよ、リヒト!」


 訓練場の中心で、2つの影が向かい合う。




 カイの掌から稲妻が走り、地面を裂く。リヒトは瞬時に後退し、水球を放って反撃。稲妻と水球が空中で交わり、火花と水しぶきが舞った。


「舐めてもらっては困りますよ! カイさん!」


 距離を詰め、互いに魔法を連続で打ち合う。稲妻が水を裂き、水が稲妻を跳ね返す。衝撃波で土煙が舞い、訓練場は光と水の渦に包まれた。

 最後にリヒトが宙に飛び、雷光を一斉に放つ。カイは水の盾で防ぎながら反撃の水流を跳ね上げ、二人の力がぶつかる瞬間、周囲に衝撃が走った。


 訓練場の中心には、二人の魔法の残像だけが漂う。




「くっそー、今日こそお前を感電させてやれると思ったのに!」


「軌道を読み取るのが簡単でしたから。お相手ありがとうございました」


 2人の構えが解かれた途端、周囲で観察していた研究員たちの詰めていた息が漏れる。自然と、拍手が上がっていた。


「やー、流石デルタ隊員! 魔法をもうこんなに使いこなすなんて! やっぱり実践に勝るものはないねぇ」


 2人を中心に、ノルンや研究員たちが集まり興奮を隠さずに盛り上がる。その向こう側でも、アイリーンとライアスが実践訓練を行い、研究員たちの視線を集めていた。


「フォルテ隊員」


 その言葉に振り向くと、私を担当してくれている研究員が測定器こちらに構えて立っていた。


「ぼーっとしていました。すみません。始めましょうか」


 地面に置かれたこぶし大のボールに意識を集中させる。1個、2個……5個まで浮き上がったが、6個目はぐらりと動いてそのままだった。

 もっと魔力を出せるように、ぐっと視線を6個目のボールに向ける。力を込めすぎて、視界がチカチカと明暗を繰り返した。


「数は先日と変わりませんね。でも、5個も制御できるのは流石です。フォルテ隊員、次の浮遊距離の確認に移りましょう」


 ふっと息を吐くと、ボールは一斉に地に落ちた。深く深呼吸し、今度は1つだけ浮かせると、そのまま上空へと上げていく。


「1メートル突破。1.5メートル……あぁっ。2メートル、はいかなかったですが、少しだけ距離が伸びましたね」


 そう言って研究員は微笑み、私の制御の上手さを褒めてくれた。でも、胸の中は少し重たかった。


「私ができるのはこの浮遊だけですから。出来ることをしているだけです」


 そう言って笑顔をつくった私を、遠くから隊長が見つめていることには気づいていなかった。










「こんな時間に練習してたのか」


 基地の光に照らされて、地面に隊長の影が伸びる。私は浮かせていたボールを手に戻すと、そちらを振り向いた。


「お疲れ様です。隊長は、これからどこへ?」


「散歩だ。あとはまあ、お前の魔力の光が見えたからな」


 その言葉に、少しだけ頬が熱くなる。自然と、視線が横を向いた。


「……見られていましたか」


「派手じゃないが、よく目立つ光だ」


 少しだけ沈黙が落ちる。夜風が、地面の砂をさらった。


「……今日の訓練、前回から伸びませんでした」


 自分でも思ったより、淡々とした声が出た。ぎゅっと、手の中のボールを握る。

 皆の色鮮やかな魔法が、脳裏に蘇る。


「正直、悔しいです」


 返事はすぐに帰ってこなかった。


「……悔しい、か。いいんじゃないか」


 隊長から聞こえた意外な言葉に顔を見やる。その瞳は遠くを見ていた。


「落ち込むのではなく、悔しいと思える人間は強い。そこで止まらないからな」


 それに、と続く。


「派手さは要らない。お前の魔法は制御に特化している。制御は、戦場で一番信頼される力だ」


 その言葉に、胸の奥がぎゅっと締まる。

 ……こんな力でも、役に立つ日が来るのだろうか。


「……はい、わかりました。焦らず、積み重ねていきます」


「ああ。明日も早い。ゆっくり休めよ」


 おやすみ、と宿舎の方へ戻っていく隊長の後ろ姿を見送る。

 基地の静かな夜風が、少しだけ心のもやを吹き払ってくれるようだった。




 * * *


 深夜。

 国家機密保管庫の棚は、空だった。


「……全て、持ち出されています」


 兵団員の声が震える。

 ネックレス型に加工された魔晶石。その箱ごと消えていた。

 内部犯か、外部侵入か。調査は始まったが、答えは出ない。


 その夜、帝国を守る全ての人間は厳戒態勢に入った。





 だが―――

 帝都から離れた街の外れ。そこに集まった黒衣の男たちは、木箱を開いた。

 中には、淡く光る魔晶石。


「これを街道沿いに。あとは市場の裏路地にも撒け」


 低い声が命じる。


「壊さず、目立つ場所へ。拾わせるのが目的だ」


 男の一人が、ネックレスを指先で弾いた。

 カラン、と石畳に落ちる。

 夜の闇の中で、それは不自然なほど美しく光った。

 やがて、次々と石がばらまかれていく。


 広場の噴水の縁。

 孤児院の裏手。

 人気のない街道。

 森へ向かう小道。


 まるで種を蒔くように。


「明日には、面白いことになる」


 誰かが、くくっと笑った。




 空には雲がかかり、月は見えない。

 静かな夜。

 誰も知らない。

 明日の朝、帝国のあちこちで“光る石”が拾われることを。

 そして―――


 それが、魔法の暴走の始まりになることを。

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