7.広がる世界
この日、研究所を通して、帝国王からデルタに通達が降りた。
『ヴァリアント・デルタ全隊員は魔力出現を行うこと』
研究所での試験が一段落し、新たなことが分かった。
まずは魔力炉。魔晶石を身につけ続けることで、心臓のあたりに魔力を生み出す炉が徐々に生成されていく。
続いて魔力量。人によって多い、少ないの差はある。多い人ほど体内に収まり切れず、目の色や紙の色として表に現れやすい、
最後は―――
静かに息を整える。指先からふわりと桃色の光を帯びた風が生まれ、砂が舞い上がる。
誰かが息を呑む。
「……成功だ」
小さな歓声。渦巻く風の中央に立つアイリーンはほのかに桃色に染まった目を細めて嬉しそうな笑みをこぼした。
完全な球体の水が、青の光を反射しながらリヒトの周りをまわっていく。
「思ったより扱いやすいですね」
彼はまるで水を操る指揮者のようだった。
バチッ―――
空気が震える。
目も髪も、一瞬で黄金に染まる。
「……うお、やば」
未だに身体中からバチバチと放電しているカイ本人が、一番驚いている。
変化がない。でも、耳を澄ませばパチパチとはじける音が続く。
「静電気? 面白い」
髪を逆立てたライアスが淡々と分析する。
拳をぎゅっと握り、ゆっくりと開く。
ぶわりと熱が膨れ上がり、隊長を包む空気が歪んだ。
しかし次の瞬間、わずかに閉じた指先に呼応するように、炎は音もなく収束した。
「……制御はできるな」
その瞳は、いつの間にか赤に染まっていた。
―――属性。
どうやら魔力には種類があるらしい。風、水、雷、炎、土。今のところ確認されてるのは5つ。
個人で魔力の色が異なっていて、それがその人の属性を表している。風は桃色、水は青、雷は黄色……というように。
デルタ・ワン(私達の隊)はバランスが良いようで、土以外の全ての属性がいることになる。同じ属性同士のライアスとカイだけは、お互いに同じ雷属性。
「お前も雷かよ」
「奇遇だな」
バチッ―――
黄色い閃光が交差する。
焦げた空気の匂いが一瞬で広がった。
でも、弾けるだけで、どちらも倒れない。
「……当たってるよな?」
「当たってるな」
「でも痺れねぇ」
「むしろ気持ちいいくらいだ」
完全に黄色に染まったカイの目が大きく見開かれる。
「すげー!!」
まるで少年のようにはしゃぐ彼を見て、ライアスも珍しく口角が上がっている。
「耐性、あるらしいな。同属性干渉時の反発減衰……面白い」
初めてみる属性魔法に胸の高まりが止まらない。
私たちは魔力切れでふらふらになるまであらゆる魔法を試した。
ただ楽しくて、ただ嬉しくて。
世界が広がっていくようだった。
* * *
王城・執務室。
「魔力が安定供給可能であれば、エネルギー転用も視野に入るかと」
机の上に並べられた魔晶石の小さなペンダントを前に、ノルンは淡々と報告した。
帝国王は指を組み、静かに頷く。
「隣国への依存を断てる、か」
低い声。その声には疲れがにじみ出ており、長年の隣国との駆け引きの難しさが感じられる。
「はい。しかし、長い年月がかかる見込みです。現状、初期配布用として500個の魔晶石をデルタ及び兵団の精鋭に配布しています。さらに追加で5000個ほどは完成しており、王城倉庫で管理中です。量産体制は整いつつあり、1週間あればさらに1万個の生産も可能です」
ノルンは手元の資料を指さしながら、慎重に説明する。
「なるほど。……急ぎは禁物か。制御の確実な者から運用するのが安全であるな」
帝国王の眼差しは、隣国や国境の情勢を見据えつつ、淡々と次の戦略を描いている様子だ。
「はい。魔晶石の乱用や無管理は事故に直結します。魔晶石の配布の際は、段階的な管理と記録を徹底いたします」
ノルンの声には、責任感と研究者としての矜持がにじんでいた。
「……ああ、そうしてくれ。最近、何やら隣国が特にきな臭いからな。この辺りをこそこそ嗅ぎまわっているものもいるようだ」
帝国王の声は低く、しかし鋭く光を帯びていた。
「我々はこの力を、単なる兵器としてではなく、帝国の未来を支える戦略的資源として扱う。理解しているな?」
「はい。全力で運用します」
ノルンは答え、深く頭を下げた。
机の上の魔晶石は、光を受けて淡く輝き、まるで次の時代の幕開けを告げているかのようだった。




