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6.理論になる日

 研究所は、ルナが目覚めたその日から、さらに慌ただしく動いていた。

 機械の音、測定器のディスプレイ、魔力の波動を読み取る装置―――

 全てが連動するように、淡い紫の光を反射しながら忙しなく動く。


「フォルテ副隊長、次は魔力を抑えるイメージでお願いします」


「ええ。……こう、かしら」


 その傍ら。私は自分から溢れる魔力を制御する練習を今日も行っていた。


「いいですね! だいぶ安定してきています。所長、魔力波形はどうですか?」


「えーっとね、今ルナちゃんが抑えようとしたら、波も幅がちゃんと小さくなってたよ。やっぱり、練習

 を重ねたら慣れてくるもんだねぇ」


 初めは私の身体から漏れる紫の光―――魔力に触れた様々なものが浮いたり、転がったりして大変だった。珈琲の入ったカップでも近くに置いたあかつきには、私が思っていなくても勝手に転がって中身がこぼれてしまい、大惨事だ。

 でも、少しずつ制御の仕方も感覚が身に付いてきて、今では、軽いものであれば1メートルくらいは浮かせることができる。


「だいぶ分かってきたことも多いけど……でもやっぱり、ルナちゃんだけ魔力が発現したことは謎だよねぇ。私も脇腹を蔦で刺したらイケたりしちゃう?」


「駄目ですよ!」


「所長はやりかねない。……見張っとかないと」


 ノルンの冗談に周りにいた研究員たちが一斉に言葉を投げかける。というか、おそらくこれは冗談と取られていない。


「ちぇー。でもさぁ、正直もっとデータ欲しいじゃん? ルナちゃんだけじゃ比較できないし」


 その言葉に沈黙した研究員たちのようすを見るに、データが足りないのは本当のことらしい。


「やっぱり、帝国王に資金援助お願いして、もっと高性能の機械買おうかぁ。どうせ、森林の事含めて報告しなきゃいけないしねぇ」


 以前から帝国王への報告に関しては話にあがっていたが、今はまだ情報が不十分ということで待ってもらっていたらしい。しかし、先延ばしにするにも限度がある。


 結局、2日後に報告会を行う。そして、その中で私も魔法のデモンストレーションとして参加することが決定したのだった。





 * * *


「―――我々VD(ヴァリアント・デルタ)付属研究所はこの度、新しいエネルギー及び、それに伴う現象の発見に至ったことを報告いたします」


 王城の中心部、大広間。いつも会議の場として使われているこの場所は、いつもであれば百数人の人で埋め尽くされている。しかし、本日の報告会は慎重に選ばれた人員のみで実施されていた。


「1か月ほど前に発生した、森林内の紫水晶と水晶製の薔薇の樹についてはご存知かと思います。その調査の際、こちらにいるVD(ヴァリアント・デルタ)所属、フォルテ隊員が薔薇の蔦によって怪我を負いました。その後、療養課程の中でフォルテ隊員自身から紫色の光のようなものが出ていることが確認されました」


 それがこちらです。というノルンの言葉に合わせ、体内から魔力を押し出すイメージで深く呼吸をする。きらきらと、私の周囲に紫色の光が流れていく。


 ざわりとさざめきが広がる。帝国王の御前だというのに、大臣たちは皆ぽかんと口を開けてその光をじっと見つめていた。


「同時に、森林から回収した蔦からも、同様の光が時折発生することが確認されています」


 その言葉に、今度は皆の目線がノルンの隣に置いてある蔦のサンプルに集まる。


「また、この光の制御訓練を行った結果、フォルテ隊員はこのような現象を起こすことができるようになりました」


 ノルンのアイコンタクトで、手袋を外し、手のひらにハンカチを乗せる。ハンカチを紫色の光が包んだかと思うと、やがてふわりと浮き上がった。


 おお、と感嘆の声が聞こえる。私がじっと見つめる先で、ハンカチが空中で折りたたまれていく。最後、手のひらの上に再びハンカチが戻って来たとき、それは花の形に折り込まれていた。


「…まるで絵本に出てくる魔女であるな」


 それまで沈黙していた帝国王の言葉が大広間に響く。その表情は面白いものを見た、と興味にあふれていた。


「そうですね。フォルテ隊員は、この世界における“始まりの魔女”と言える存在かもしれません」


 そのように言われると、少し恥ずかしくなる。思わず、視線を下に向けてしまった。


「新しいエネルギーと現象―――我々は魔力、魔法と呼んでいますが、未だに解明できておりません。発現条件も同様です。しかし、解明した暁には、今後の帝国の発展に役立つものになると確信しております」


 さらなるご支援をよろしくお願いします。

 そう言って報告会を終えたノルンが満面の笑みで私のところに訪れたのは、その僅か1時間後のことだった。





 * * *


「2人目の発現者が出たのですか?」


 朗報! といつものようにドアのノック音より早く飛び込んできたノルンの言葉は驚きのものだった。


「ほら、兵団にさ、森林の水晶近辺の警備、お願いしてたじゃん? そしたら、そこの警備担当の一人がこっそり水晶の欠片持って帰ってたんだって。んで、毎日肌身離さず持ち歩いてたら何と! 魔法が起こるようになった!」


 ようやく先程珈琲を飲んで落ち着いていたというのに、話しながらまたもや興奮してきている。どうどう、と落ち着かせながら先へと促す。


「しかし、あの薔薇の蔦をよく持ち歩けましたね? いつか動き出しそうで、私は恐ろしいですが……」


「ああ、それがね、ほら、あの樹を取り囲むように、巨大な水晶がドーンって立ってたじゃない? あれの欠片だって。つまり、魔力発現の条件は、薔薇の方じゃなくてもOK! これで研究が一歩どころじゃなく、かなり進むよ! いやー、わざわざ人体実験してくれた兵団員君には感謝だねぇ」


 ま、本人は1年減給らしいけど。と軽くこぼすノルン。


「これからは巨大水晶を割って、それで実験していくことになるかな。触っても大丈夫だって分かったし。ルナちゃんみたいに、体内に入れるのはだいぶリスクがあるからしないけど、研究員はしばらく身につけて生活する予定」


 ほら、これがその結晶。そう言って渡された結晶は、小さな6角柱に削られ、ネックレスのペンダントトップになっていた。


「結晶の薔薇とか巨大結晶って長くて言いにくいじゃん? だから、研究所内ではまとめて魔晶石って呼んでるの。明日から実験始めるから、ルナちゃんも暇なとき遊びに来てね」


 珈琲を飲み干したノルンは、ひらひらと手をふると、来た時と同じように軽快に扉から出ていった。




 * * *


「―――いよいよ、実験を開始するよ。最初は人数を絞って、段階的に装着。毎日魔力波形を測定、体調変化も細かく記録。異常があれば即中止すること」


 日頃の軽さが嘘のように研究者の顔をする、ノルン。周囲の研究員たちはごくりと唾をのむ。


「危険がないと断言はできない。だからこそ、管理できる場所でやる」


 ぴりぴりとした空気の中で、それでも皆、新しい発見に胸を躍らせていた。


「装着希望者は挙手。強制はしない」



 一瞬の沈黙。そして―――



「……私にやらせてください」


 最初に手を挙げたのは、記録担当の若い研究員だった。几帳面で、いつも静かにデータをまとめている彼だ。


「魔晶石の初期データをまとめたのは私です。ここまで来たのなら、最後まで見届けたいです」


 覚悟のこもった声。誰もが緊張の面持ちの中で、ノルンはにっと笑う。


「いいねぇ。そういうの好き」


 こうして、小さな実験が始まった。






 ―――そして5日後。


「所長」


 落ち着いた声。


「今朝から、平均体温が0.3度上昇しています。あと……」


 彼は自分の手元を見つめる。

 持っていた紙が、僅かに震えた。


「机の上の書類が、触れていないのに動きました」


 研究室が、静まり返る。絶えず動く測定器の音だけが、やけに大きく響いていた。


「……再現性、あり」


 ノルンの瞳が、獲物を見つけた研究者のそれに変わる。




 ―――魔法は、奇跡ではない。


 検証できる。

 再現できる。

 蓄積できる。


 それは、理論になる。


 今この瞬間、空想は現実へと組み込まれた。

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