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37.帰還

 あの日から、数日が過ぎた。

 私は帝国の実家に戻り、視界いっぱいに広げた資料を見比べる。騎士団の動き、宰相の動向、王宮に出入りする人間―――。仲間から送られてくる情報を整理していく。だが、


「何も出てきませんね」


 通話の向こう、控室にいるらしい皆の映像に向かって話しかける。彼らもまた、私の送った資料を見て頭をひねらせていた。


『ここまで何もないと、むしろ拍子抜けだよな』


『警戒されているんでしょうか』


『そりゃ、捕まったはずの隊長とカイが戻ってれば、相手も気にするわよ』


 アイリーンの言葉に、皆が小さく頷く。今は静かに身を潜めている可能性は、高い。


「ところで、隊長の姿が見えないけれど、護衛隊の仕事かしら? カイは行かなくていいの?」


 私が尋ねると、リヒトが画面の外へ視線を向けた。


『今は騎士団長と話をされています。なので、カイはさぼってませんよ。今回は』


『おいリヒト。その言い方悪意があるだろ。まるで俺がいつもさぼってるようなこと言うなよ』


『え、違うのですか……?』


 ぎゃいぎゃいと賑やかになった通話先に苦笑する。画面に見えるアイリーンも呆れた表情をしていた。


 ―――騎士団長との話。

 話に聞くかぎり、騎士団長が隊長に危害を加える可能性は低い。それでも、何も起こらないことを私は願った。






 * * *


「帝国の護衛隊と言うのは、間違いではなかったようだな」


「王国騎士団長殿」


 薄暗い部屋の中で、沈黙の時間が流れる。

 ここ数日の間に、騎士団長と公の場で顔を合わせることは何度かあった。その様子から判断されたのだろう。


「俺は仕事としてこの国に来ました。あの場にいたのは、本来帝国王が使用するはずだった控室を調べるため。王国王に刃を向けるつもりはありません。一緒にいた同僚もそうです」


「……状況は分かった。疑ったこと、謝罪する」


 深く頷きながら、騎士団長が発する。頭を下げることは無くとも、その言葉には長としての深みがあった。


「知っているかもしれないが、王国は今、水面下で二つに分断している。国王を擁護する立場の国王派と、それを瓦解しようとする反国王派だ。正直、反国王派の全貌は明らかになっていない。だが、これだけは言えるだろう」


 騎士団長の声が、低く唸る。


「反国王派は帝国を巻き込む気だ。気をつけろ」


 その鋭く冷たい視線が、まっすぐ俺を射抜いていた。






 幾日が過ぎても、情報らしい情報は出てこないまま、帰国の日を迎えることになった。飛行艇の窓から見える王宮は、あっという間に小さくなっていく。


「お疲れ様。何もなく終わって良かったわね、イヴァン」


 隣に近づいてきたアイリーンが俺に飲み物を手渡す。短く返事を返してから、ありがたくそれを受け取る。


「それにしても……くっつくまで長かったわねぇ。見てるこっちが焦れてたわ、ほんとに」


 アイリーンの言葉に、ぐっ、と息が詰まる。口に含んでいた飲み物が気管に入り、思い切り咽た。


「ごっほ、は、アイリーン、お前、気づいて―――」


「当たり前よ。二人してお互いのこと意識してるのバレバレなのに、全くくっつかないんだもの」


 次々と過去の所業が彼女の口から溢れてくる。ルナが俺の誉め言葉に顔を赤くしていたとか、ルナがいない時の俺の不自然さとか。ルナの言動に関してはもっと知りたいが、俺の行動に関しては忘れて欲しいと思う。


「大切にしてよ。ルナのこと」


 その言葉にアイリーンを見ると、彼女は穏やかな表情をしていた。


「ああ、もちろんだ」


 つられて、ふっと口角が上がる。早くルナに会いたいと、そう思った。



 気付けば帝国の駐機場も近づいてきていた。何気なく展望台へ視線を向ける。

 そこには―――

 愛しいと思う、ルナの姿がこちらを見上げていた。

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