表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/61

32.歓迎会の影

「ようこそ、ガルドニア王国へ。貴殿らを歓迎します」


 煌びやかな衣装に身を包んだ国王の言葉に、会場から一斉に拍手が起こる。隣には宰相、そして重臣たちが並んでいた。視線を巡らせれば、きらびやかなシャンデリアと豪奢な装飾に彩られた王宮の大広間。


 ここは、もう慣れ親しんだデルタイトの地ではない。

 ―――いよいよ、俺たちの任務が始まった。






「そういえば、あいつ正真正銘の貴族だったな」


 俺たちの目線の先。ライアスとアイリーンが客に紛れるように優雅なステップを踏んでいる。彼らが舞うたびに服に縫い付けられた宝石がきらりと瞬く。

 ガルドニア王国に到着した俺たちは、さっそく開かれた歓迎パーティーに参加していた。

 ただし、一護衛隊員や、書記官の供として。


「お前も踊りたかったのか?」


「いや、断固拒否だね。ライアスみたいに幼少期から仕込まれてるわけでもないし、踊れねーよ。隊ちょ……じゃなくてレナード。の方が、踊っといた方が良かったんじゃね? 肩書的に、これから先踊る機会あるだろ?」


「俺は一応踊れるぞ。兵団時代に習ったからな。アイリーンが踊れるのもそれだ」


 息ぴったりにターンを繰り出す2人を視界の端に収めながら、隣のカイと小声で喋る。

 こうして見ていると、2人がデルタの人間とも護衛任務中とも思えないだろう。特にライアスはトルネイ子爵家の人間だ。この貴族制が色濃く残る王国では、軍人と貴族が同じ場所に立つことは少ない。現に、ライアスは何の違和感もなく輪の中に溶け込み、貴族たちと言葉を交わしている。


「やっぱ別世界だな」


 カイが小さく息を吐いた。俺もこいつも、デルタという職業に就かなければ一生縁のなかった世界だ。

 視線だけを会場に巡らせる。色とりどりのドレス、楽団の奏でる優雅な旋律、趣向を凝らした食事。どこから見ても、平和な歓迎会だ。

 ―――表向きは。


『こちらリヒト。送れ』


 耳骨を伝って響く低い声に、俺はわずかに視線を伏せた。


「どうした」


『報告です。北側の回廊に騎士多数。警備にしては、動きが慌ただしいです』


 近くにあったグラスをもち、口に運びながら小さく呟く。


「現状は様子見。何かあれば送れ」


『了解』


 通信が切れる。

 ちょうどその時、音楽がゆるやかに終わり、会場の中央で拍手が起きた。

 ライアスがアイリーンの手を取ったまま軽く礼をする。優雅なその仕草に、貴族たちから感嘆の声が上がった。次の誘いをかわしつつ、2人がこちらへ歩いてくる。表情はいつも通りだが、目だけがわずかに真剣だった。


 ライアスが目の前のテーブルに置かれた料理に手を伸ばす。隣のアイリーンに何が良いか尋ねるようなふりで、こちらに通信が入った。


『レナード。騎士たちの配置、おかしいかも』


「何がだ」


『歓迎会にしては、王に寄りすぎ。守るってより、包囲してる』


 ライアスの言葉に、俺はさりげなく視線を巡らせた。

 確かに、楽団の背後や柱の陰に立つ騎士の数が多い。歓迎会の警備にしては、妙に固い配置だ。


「平和じゃねぇな」


 カイがぼそりと呟く。俺も、違和感がぬぐえない。

 その時だった。

 会場の奥、玉座の前で動きがあった。


「……国王陛下?」


 誰かが小さく声を上げる。

 ガルドニア王が、側近に支えられるようにして立ち上がっていた。宰相が前に出て、会場へ向けて手を上げる。


「皆様、ご歓談のところ申し訳ありません。陛下が少々お疲れのご様子ですので、ここで一度ご休憩を取らせていただきます」


 ざわり、と空気が揺れた。国王の隣に座っていた我が国のデルタイト王も、一緒に退出するようで、立ち上がる。

 会場全体が、王たちの退出を、礼をもって見送る。だが、貴族たちはすぐに笑顔を浮かべ、再び会話へと戻っていった。


「俺たちも動くぞ」


「了解」


 あらかじめ帝国王が休むための部屋の場所は知っている。大広間を出て長い回廊へ。足音が石床に静かに響いた。


『こちらリヒト。今、帝国王が北棟に向かいました』


 通信が入る。その声に、思わず俺とカイは顔を見合わせた。


「待て、休憩室のある南棟に向かったはずだが……違うのか?」


『確かに、北棟でした。騎士の数もまだ増えているので、間違いないかと』


 俺は短く息を吐いた。これは、南棟に何かあるのだろうか。陛下のそばには近衛がいる。だが、脅威の芽を放置するわけにはいかない。


「リヒト、そのまま帝国王の監視を頼む。アイリーン、ライアス、何かあったらすぐに動け」


 俺は一度、通信を切り替えた。


「近衛隊、聞こえるか」


『こちら帝国近衛。どうぞ』


 返事はすぐに返ってきた。おそらく俺たちの意図に気づいているのだろう。


「陛下の護衛はそのまま継続。こちらは南棟を確認する」


『了解しました』


 短いやり取りで通信を切る。俺はカイと共に、南棟に向かって静かに走り出した。






 南棟はパーティー会場の華やかさが嘘のように静まり返り、人の気配すらなかった。空気すらも、どこか重たく感じる。

 休憩室だったはずの部屋にも、誰もいなかった。


「特に異常はなしか……ん?」


 壁にかけられた絵が、僅かに傾いている。貴賓室の装飾は、入念に整えられているはずだが。そう思って絵をどけようとするが、全く動かない。


「何やってんだ、隊長。……あー、よくある映画だと、こういうの紋章とか押すと動いたりするよなー」


「映画と現実を一緒にするな」


 カイが冗談交じりに、壁に刻まれた紋章を指で押す。すると、カチ、と乾いた音が鳴った。

 まさか、と思いつつ絵にかけた手に再び力を込める。今度は、動いた。その奥には、小さな扉。


「……動いたじゃん」


「……」


 俺は一度、扉と紋章を見比べてから小さく息を吐いた。


「……お前って、時々とんでもないミラクル起こすよな」


「それ褒めてんだよな? ま、ラッキーってことで、行こうぜ」


 扉をわずかに開き、奥を覗く。暗くて全く見えないが、冷たい空気が流れ出てきた。微かに、鉄のような匂いもある。


「血か?」


 カイが鼻をひくつかせる。俺は頷き、両の手に炎を生み出した。


「警戒を怠るなよ」


「りょーかい」


 狭い扉の向こうへ、足を踏み入れる。石の階段が、地下へと続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ