12.ステージデビュー!
朝、4時。日頃であればまだ誰もが寝ているこの時間だが、今日は違った。
行列がずらりと伸び、門が開くのを今か今かと待っている。 やがて、開門の時間になると、人々はダッシュで広場中央のステージ前を確保していった。
その理由が……
「皆さん、ようこそ! デルタイト帝国兵団特殊部隊、ヴァリアント・デルタ所属。VD-01のアイリーン・カリオです!」
白の簡易儀礼服に身を包んだアイリーンが元気よくアナウンスする。そのステージの前には、多くの子どもや大人、さらにはテレビカメラの姿があった。
兵団帝都基地、一般開放日。
例年10万人が訪れると言われるこのイベント。広場には屋台が並び、子どもたちの歓声が響く。
今日私たちVD-01は、ステージ企画のゲストとして呼ばれていた。
袖から見守っている私でも分かる。普段近くで見ることのないデルタ隊員の姿に、皆の視線が集まっていた。
まずはアイリーンによる簡単な紹介。デルタ隊員の仕事内容や、日頃使っている装備の話。途中で、私たちの乗ってきたVANTもステージに持ち込まれた。操縦席ではカイが観客に向かって手を振っている。後程アクロバット飛行の披露にも参加する予定だ。
観客の期待値も高まって来たところで、いよいよメインイベント。ライアスとリヒトがステージ上に進み出た。
「さあ、皆さん! 派手にいきますよ! 瞬き厳禁です!」
アイリーンの合図で、ライアスが掌から青い稲妻を走らせ、リヒトが水流を自在に操って応戦する。火花や水しぶきがステージに向けられたスポットライトにキラキラと反射し、ステージ上に光のカーテンが広がった。
子どもたちは目を見開いて「うわー!」と歓声をあげ、大人も思わず拍手する。迫力はあるが、怖さはなく、まさにパフォーマンスと呼べるものだった。
「ライアスに任せて正解だったな」
隣の隊長の言葉に苦笑する。実は、もともとこの模擬戦はカイとリヒトがやる予定だった。でも、カイの場合、制御が甘すぎてすぐに大規模な魔法になってしまうのだ。普段ならいいが、今回はステージから魔法が出ないように! という制限もついている。昨日急遽変更したが、これで良かった。
2つの魔法がぶつかって、スモークのようにステージ上が隠されたところで、模擬戦は終了。拍手が鳴りやまない。最前列の子どもは手を叩きすぎて真っ赤になっている。
アイリーンの方では、最後の質問コーナーに入っていた。
「デルタ隊員って、どうやったらなれるんですか?」
「浮島のエスティアって、やっぱり景色良いんですか?」
「恋人はいますか?!」
公私問わず次々にあがる質問にもひるむことなく答えるアイリーンは流石だった。まあ、恋人云々はさらっと流していたけれども。
そして、次にやって来た質問に私は思わず肩を跳ねさせることとなった。
「“始まりの魔女”の魔法ってどんなのですか?」
その質問に、アイリーンの顔がこちらを向く。しかし、目線の向く先は隊長。
―――私ではなく、なぜ隊長に?
そう思っている間に、隊長とアイリーンは良い笑顔で頷きあっていた。
「では、実際に始まりの魔女に、実践してもらいましょう!」
とん、と軽く背中を押される。
「行ってこい」
じっとこちらを見つめる隊長の視線は、大丈夫だと言っているようで、その目に少し安心する。
意を決してステージ上に歩いていくと、後ろからサポートとしてリヒトも付いてきてくれた。アイリーンの誘導に従って、ステージ上でリヒトと向かい合う。こんなにも多くの人に見られる中で魔法を使うのは、こそばゆくて慣れない。手が震えそうになる。
「副隊長、いきます」
リヒトが出した水流は、先ほどの模擬戦の何倍もの量と勢いをもってこちらに向かってくる。観客からもどよめきが起こった。
―――ここで怯んだら、副隊長の名が廃るわね
光球を展開すると、紫の光がステージ全体に渦を巻くように広がる。水流は光球に触れた途端、まるで霧のように舞い散り、そのまま光球に吸い込まれていく。
魔法を吸収した光球の表面はうねるように伸び縮みし、ゆっくりと明滅を繰り返す。ステージの影が揺れ、観客の顔に反射した光は、海の底に届く太陽光のように揺れた。
束の間の静寂が生まれる。
―――何か、失敗した……?
そんな不安が首をもたげた瞬間、ワッと会場が拍手に包まれる。安心して、ほっと息を吐いた。
未だ、この魔法の属性は明らかになっていない。それでも私は、皆を守れるこの魔法が好きだ。
ステージ上の3人で礼をすると、より一層拍手の音が大きくなる。歓声は辺り一帯に響き渡っていた。
そのまま、私たちの出演は大盛況のうちに幕を閉じた。




