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11.始まりの魔女

 爆音が夜を裂いた。街外れの上空を、青白い雷が走る。

 その一部がVANTに当たり、機体が大きく傾いだ。


「くそっ、このままじゃ近づけねぇよ! 副隊長!」


 カイの怒号に、タイミングを見計らってドアをスライドさせる。風が機体内に吹き込み、隊服の裾がバサバサと激しく音を立てた。息がし辛い中で、機体の縁に立ち、地上を見下す。




  ―――計測に問題なし。


  朝の研究所で告げられた言葉が、静かに思い出される。


『吸収の魔法を使っても、副作用はなし。魔力量も変化なし。分解でもされてるのかな?とりあえず、定期的に検査はするけど、使用制限は無いよ』




 ねらいを定めて目標に手を差し出した私の横で、隊長が言う。


「遠慮するな」


 短い命令。

 私は頷き、手の先に意識を集中させる。 紫の光球がひとつ、またひとつと浮かぶ。

 光球は隊列を組むようにVANTのまわりを取り囲み、迫る雷をしゅるりと吸い込んでいく。衝撃はなく、ただ吸い込まれて消えるだけ。


「サンキュー、副隊長! よっしゃ行くぜ!」


 カイの声に合わせて機体が降下する。紫の光球も滑るように動き、地上から見ればまるで光が降り注ぐ神秘的な光景に映っていることだろう。

 だが、雷は一筋では終わらなかった。地上から、幾条もの閃光が一斉に昇ってくる。


「来るぞ、全方向だ!」


 機体が急旋回する。視界が大きく傾いた。私は縁を掴む手に力を込めて体勢を立て直す。

 外に意識を向けると、先ほどよりも多くの光線がこちらに飛んでくるところだった。


 ―――まだ、足りない。


 紫の光球を、さらに展開させ、散開する。雷が光球に触れた瞬間、音もなく消える。

 正面を裂いた閃光も、後方をかすめた残滓も。それに伴って、機体の揺れがようやく止まった。


「……道確保。このまま突っ切ってやるよ」


 舌なめずりをしたカイが呟く。滑らかにVANTが滑り降り、僅かな土埃を上げて着陸した。


「ルナ、左は任せて!」


 風の層で、崩れてきた瓦礫が食い止められる。


「一般人退避完了!」


 道が、できる。隊長の前を先行して中心へ向かった。荒れ狂う雷に対し、光球を前方へ押し出す。

 最後の雷が消え、見えてきたのは膝をつく人影。抵抗する気もなく、呆然とこちらを見ているのみだった。声をかけてから、持っていた手錠で慎重に拘束する。


「発生源の人は?」


 隊長の声に、後ろを振り向く。崩れかけの鉄筋を熱で固めて、通路を確保してきてくれたらしい。


「現在は攻撃停止。抵抗の意思はなさそうです。拘束していますので、このまま医療班へ引き渡します」


「ああ。事情聴取含めてあとは兵団に任せよう」


 次、行くぞ。という声に、 一息つく間もなくVANTに飛び乗る。




 小規模の洪水、竜巻、火災に植物の異常繁殖……帝国内をあちこち飛び回って、私たちは一つずつ場を収めていった。光球はその都度、対象の魔法を吸収し混乱を切り開いていく。


 立入禁止の線が張られ、瓦礫の撤去が進む。遠巻きに集まった市民のざわめきは、ひそかに熱をもって膨らんでいた。


「今の見たか? 紫の光で……魔法、全部消えたよな」


「あの女の人、デルタだろ? すげぇ」


 デルタ隊員が立ち去った後も余韻に浸って立ち尽くす。

 光球が夜を切り裂き、混乱を静かに鎮めていく様子は、見る者の心にも静かな秩序を呼び起こしていた。

 その耳にかけられたいくつもの端末で撮った動画は、瞬く間に拡散され、様々な声がネットで共有されていく。


『何属性の魔法なんだろ』

『わかんないけど、凄くない? めっちゃ魔法吸ってるww』

『え、怖くない? 全部吸われてるじゃん』

『でもデルタの人なんでしょ? 安心感しかない。みんな助かってるし』


 そんな中で、ある一つの名がささやかれ始めた。


 ―――始まりの魔女。


 誰が言い出したか分からない。しかし、名と動画はたった一日で帝国の中に刻まれていった。






 私は装備を外しながら、小さく息を吐いた。


「……終わりましたね」


 怒涛の一日だった。肩の力が抜けた途端、今すぐにでも眠れそうな疲労感が襲い掛かってくる。

 しかし、役に立つことがようやくできた。悪い疲労感ではない。


「フォルテ」


 ともすれば、飛行音に紛れて消えそうな声で隊長が私を呼んだ。

 顔を向けるも、何も言わない。ただの聞き間違いか、と思ったとき、その言葉は聞こえた。


「……これからも頼りにしている」


 私は一瞬だけ目を瞬いた。胸の奥がじわじわと温かくなっていく。帝国民にお礼を言われたとき以上に、その言葉は嬉しかった。


「任務ですから」


 夜空に、紫が滲む。 その名が、刻まれたことも知らずに。

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