『合い言葉』は『自転車』
パスワードが一向に思い出せん!
普遍的な言葉にしたはずだ。どこにでもあるものにしたはずだ。ローマ字入力だったはずだ!
どうしていつもの名前と誕生日を組み合わせた簡易的なものにしなかった?
会社の講習で、セキュリティの重要性を説かれたその日に設定したからか?
だとしたら、その日に酒を飲んでから設定した自分を殴りたい。
いや、そもそも資料の仕上げを家でやったことが間違いだった…!
今は会社のデスク、今日の会議にはこのファイルの中身が必要だ。
ん?このテキストファイルは…?
『ヒント』
そうか!これはパスワードのヒントだな!いや、ややこしいことしてんじゃねぇよ!
すかさずクリック。
『乗り物』
の、乗り物~!?いくつでもあるだろが!
いや待て、これを設定したのは酔った俺だ。ならば、普段一番使うものを設定するに決まっている。
となれば、必然…!
「DENSYA、っと」
電車通勤、路線名まで書くか迷ったが、これでいいはずだ。よし、なんとか…
『合い言葉が違います。入力可能回数あと2回』
なってねー!じゃあ、なんだよ!ん?このテキストファイルスクロール出来るな……。
『自分で運転するもの』
昔のメールみたいなことするなー!
それ以上はスクロール出来ないことを確認。
二択だ。社用車を乗り回すことを考えれば自動車か、休日や近所の買い物に使う自転車。
だが、もはや勝利確定。あと二回の挑戦権で、候補は二つ。余裕が生まれた。
そうだな、これは会社用のファイル。仕事で使うのは社用車、つまり…
「JIDOUSYA、っと」
『合い言葉が違います。入力可能回数あと1回』
うーん、二択を外すとは幸先悪いな。しかし、すでにウイニングラン。落ち着き、キーボードに指を走らせる。
「JITENSYA…うん、綴り間違いもない」
コーヒーを啜る、エンターキーを押す。
『合い言葉が違います。ファイルを24時間ロックしました』
コーヒー噴いた。たちどころに浮かぶ数多の疑問符。
「どうしたんすか、先輩」
「あ、ああ、じ、実は、な……じ、自転車が…」
「自転車?ああ、そう言えば先輩、酒入るとじでんしゃて濁りますけど、あれって方言っすか?あと、昨日送られてきた会議のファイル、パスが設定されてるっすけど、確認したいんでパス教えて欲しいっす」
「『合い言葉』は『ジデンシャ』だ!!」
「うわ声でか」




