龍は情報を整理したい
この世界について
「さて、名乗るという点であれば自己紹介は済んだわけだが……まず何から聞きたい?」
名前を付けてそそくさと自分のベットに戻ろうとするロイを隣に座らせてノワールは言った。ノワール自身も情報を整理したいところではあり、すり合わせが必要なのだと感じていたのだ。
「そう改めて聞かれるとどこから聞いていいのか悩むが……そうだな、ノワールのこれからの目的や目標、行動指針を先に聞いていいか?」
「行動指針………ううむ、なかなか難しいところからだの。まず、我のこれから為さなくてはならないのは違反者の炙り出しと粛清だ」
「違反者?」
「そうだ。そもそもだがロイ、貴様は龍の一族についてどういう認識でいる?」
「龍……教会の話だと、邪悪な一族で財宝と力に目がなくて危険な種族だと聞いた」
「何じゃその情報は。どっから来たどっから」
「違うのか?」
純粋な疑問として聞いてくるロイに思わず眉間を押さえる。もしかしたら同族にそんな偏屈がいたかもしれないが、基本的に龍には使命がある。守らなくてはならない誓約がある。すべての龍がそんな財や力に神経を注ぐわけではない。
「まず第一に、我らは太古――世界創造の際に生まれた種族でな?めったなことでは死なないし消滅もせん。また、寿命もほぼないに等しい」
「寿命がない……」
「そうだ。そして数も少ない。おそらく人間の想像している龍のほとんどが竜だろう。竜はトカゲだのなんだのが進化して今の姿になったものだ。根本から違う」
「じゃあワイバーンも……?」
「あれらはトカゲだろう!我らと一緒にせんでほしい!」
「そ、そうか……」
思わず熱がこもれば、若干ロイが引き気味になってしまった。だが、これは大事なことだ。人間で言えば猿と同じカテゴリに入れられるようなものなのだから。
「コホン。話がそれたが、我ら龍は特別性でな。言うなれば生命を見届ける役割を与えられている」
「生命……」
「人間、魔物、神、植物……姿形こそ異なるがすべて等しく生命。すべてを見届け監視するもの。それが龍の一族だ」
「……」
我らの存在を語るとなると壮大になってしまう故に、ロイは考え込むように黙ってしまった。
まぁ、そうよな……世界がどうとかルールがどうとかアカシックレコードがどうとか……知らないよな。
「まぁ、ともかく。龍としては見届け監視するという使命を負っている。とはいえ一個体にすべてを見る能力はない。だからそれぞれ担当を分けることにした。記録、観察、守護とそれぞれの役割を持ち運用をした。そのうちの我は守護の役割を与えられたのだ」
「守護?」
「簡単に言えば、世界を揺るがす事態を治める役割だ。世界の構造上、衰退を防ぐために神が必要だった。神が他の生命の進化を促し、循環を行い己自身も力をつける。それが推進力となり世界の停滞を防ぐ。とはいえ過ぎた力は世界を壊しかねない。だから理というルール作り、それに触れたものを排除することで世界の滅亡の原因を取り除く。それが守護――理の龍の役目になる」
「そういえば、太古の誓約がどうとか言ってたな」
「よく聞いていたの。誓約は創造主と交わした見届ける約束よ。人や魔人、魔物や動物、それらの運用自体は神が執り行い――それらの神を龍が監視する。神が理を犯せば龍が粛清を行い、龍が誤てば創造主に討たれる。そんな感じで世界が回っている」
一人で管理できない故の分業化ですな、とあっけらかんと言えばロイはなんとも言い難い表情を浮かべた。理解し難いことを、人間から見たら敵だった龍の口から言われたら信じ難いのも無理ない。人知を超える世界の運用なんぞ人間が知る必要などない。故に理解しなくても問題ない。普段なら。今はちょっとは理解してほしいかも。
「なんだか、神の言う事と違って俺には判断がつかないが……一旦話を続けよう。お前が理の守護者だとして、お前の言う違反者って誰のことだ?」
「えーと、まずお前」
「え?俺?」
「そんで魔王」
「え?魔王も?」
「あとイェレーナとあの……名前忘れた邪神名乗ってるやつ」
「神と邪神も!?」
ロイが思わず腰を浮かすが、がっしりとつかんで再度座らせた。まぁ、まぁ。我は話の通じない龍じゃないよ。
「どうやらイェレーナも邪神もお前も魔王も、ぶっちゃけ粛清対象なのか被害者なのか現時点でははっきりしてなくてな……」
「え、えぇ……」
「なにせ……どうやって神本体を降臨させたのか、権能をたかが剣ごときに宿らせたのかがわからん。本来創造主ぐらいしかできないはずなんだが」
「え……神降ろしって理に反するのか」
「降臨ダメ絶対。……しかも創造主がお前と魂の回廊を繋げてしまったし。おかげでお前を本気で粛清しようとすれば我も死んじゃうし」
「そうなのか?」
「そうそう。だからまずは各地を確認するのと神を尋問するのが直近の行動指針になるかの。もし余裕があれば監視の龍と記録の龍を訪ねるのもありかもなぁ」
大体大まかに自分の目的を伝えると、ロイは再度考え込むように押し黙る。そういえば我、自分の目的はっきりしてたがロイの目的を知らない。まぁ、別に別行動することに問題はないし回廊がつながっているからどうということはないが……。強いて言えば――
「そういえばな、別に魂の回廊がつながった者同士が近くにいなくてはならないとかなんだとか制約はないんだが……」
「なんだ?」
「ほら……ないとは思うけど肉体が塵芥というか吹き飛んだ場合、魂が無事だから肉体を再生成することが可能なんだが――いかんせん残った片方の近くで生成してしまってな?」
「そ、それはすごい能力だな…?というか塵芥になっても生きていられるのか」
「まぁ、両方いっぺんにチリになったり死んだりしなきゃ大丈夫っていうものだからな。じゃなくて、例えば物語とかの終盤――お前で言うとこの魔王戦で負けると、別行動中の我の近くまで来ちゃうから……なるべく一緒に行動したほうが都合がいいかも?」
「え?あぁ………そういう……」
「ほら……萎えるじゃん?ラスボスまで頑張ったのに始まりの村まで戻される的な……」
「そ……の例えはわからないが、確かに不便だな」
ロイは困ったようにこちらを見る。ロイの目的と我の目的が一緒じゃないとか?まぁ数百年単位で考えてるからこちらの目的は後回しでも構わないのでロイに付き合ってもいいなとは思っているが。というか国を作るとかでもなければ目的に反さないし。
「俺は……魔王討伐のため神に力を借りようと女神教の聖都に行くつもりだったんだが……もし目的のために別行動したいのであれば言ってくれ。一人には慣れてる」
あらま、一人に慣れてるってこの子はぼっちなのかな?それはつまらんだろうと推測し、どちらにせよ土地勘がないので同行するかと考える。
「土地勘がないし、我の目的は急を要するものでもない。あの魔物――魔人も目的の一つだし、お前に同行しよう」
「そうか……。ちなみに、だが……魔王を討つために俺は動く。それでも問題ないか?」
「神を降臨させようとしたら一緒くたに消滅させるだけよ。もし必要なら我も今回は力を貸そう。おそらく創造主が我の制約に縛られた体を変えたのは、干渉させるためだろうし。とはいえ龍の頃の半分も力がないがな!!!もしかして我か弱いかも!!」
「そ、そうか……それは……頼もしいな?」
微妙な反応はそれはそれで傷つくもの。とはいえ神より弱いかもしれない今の身体だ。慎重にいくのもいいだろう。
その時、コンコンと控えめなノックが部屋に響いた。
「ど、どうぞ!」
ロイが慌てて立ち上がりドアに向けて声を掛ける。失礼します、と入ってきたのは着替えを持ってきた修道女だった。手には夕食の乗るトレーがある。
「夕餉の支度ができましたので、お持ちいたしました。教会故、簡素なものにはなりますがお召し上がりください」
「あ、ありがとうございます」
ロイは感謝を伝えながらトレーを受け取る。修道女はノワールをちらりと見た後、ロイに向けてふわりと微笑み失礼しましたと去っていった。そんなこと気にも留めず、ノワールはロイの手にある夕食を見た。
「これが人の食事……!」
初めて見るものに感動し、眺めているとロイがその様子にきょとんとした反応を返した。
「見るのは初めてなのか?……そういえば、人の食事食べられるのか……?」
手にある2人分の食事をテーブルに置き、ロイが振り返る。龍は基本魔力を食べて過ごすため、食事という概念はないが……せっかくの人間の身体。食べてみたいと思うのは好奇心の成せるチャレンジだろう。
「無論食す必要があるかないかで言えばないが、こんな機会めったにないだろう。私もいただくとしよう!」
「ああ、ならこちらに置くから座って食べろ」
「ここにか!よし!ところでこれはどうやって食べるんだ?」
こうしてその日はロイに食べ方や食器の使い方などを教わり、大満足で眠りについたノワールだった。
最初から龍は知っているのです




