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第零話 魔王襲名

いつも通り、白くて広い伽藍洞みたいな部屋で目を覚ます。窓の外には、変わらぬ風景が写っている。残念ながら、窓の外には木なんて生えていない。都会のビルしか見えない窓から目線を外し、ふと自分の手から伸びるチューブをたどった先の点滴装置…それが赤いランプを光らせていることに気づく。あれは…あぁ、交換か。手探りでナースコールの機械を手繰り寄せる。こんな朝早くから鳴らすのはいくぶん申し訳ない。どうせあと30分もすれば医師が検診に来てくれる。それまで待てばいいか…と風邪気味の頭で考える。ちょっと点滴が止まるくらい大丈夫だろうと。


 あとは簡単だ。実はその点滴は昨晩からとまっていて、病気で耳が聞こえづらくなっていた自分はそれに気づかず、同室の患者はおらず、夜勤の看護師もたまたま気づかなかった。

仕方ないことだ。彼らの激務度合いはよく知っている。連続夜勤で注意力が落ちていたとしても、落ち度はあまりない。相手が自力で動けず事あるごとにナースコールを押すようなクソガキならなおさらだろう。


そして、オレは死んだ。正直、やっとかと思った。あのときナースコールを押さなくてよかった。押していたら、余計な手間をかけさせることになった。幸いにも痛みはなく、眠るように死んだ。



そして現在、俺は病室と対局の真っ黒な部屋にいる。真っ黒な部屋に、何故か場違いな丸テーブルと座布団が置かれ、テーブルの向かいに何かが座っている。ナニカ、と形容するのには理由がある。それは、私の目には「ヒトガタの黒いモヤ」にみえた。状況が飲み込めずにいると、そのモヤが口を開いた(熟語的表現)。

「立ち話もなんだ、座ると良い」

「……失礼します」

「こちらの都合で呼び立ててしまって申し訳ない。早速で悪いが、君に頼みがある」

「えぇと、あなたは……?」

「すまない、どうやら少し気が急いていたようだ。まずは説明から始めよう。私は…そうだな、君たちの世界てきにいえば……悪神?闇神?とでもいえばいいかな?」

「……邪神的な?」

「ひとまずはそれでいい。私は君たちの世界とはまた別の世界の神、というよりも管理者といった存在だな。」

「なるほど?」

「君の世界には、人間しかいないようだが、我々の世界には、様々な種族が存在している。別にどれが劣るとかどれが優れているとかではなく、平等な命として存在する。まあ種族差はあるがね」

「はぁ。」

「今までは、彼らは時に争い、時に協力しといった感じで暮らしていた。管理者的には特に干渉しなかった。」

「……」

「だが近年、ヒトの時代で言えば400年ほど前から、ある1つの種族を除いたすべてが団結するようになった。その1種族…魔族に対抗するために。その結果、魔族は徐々にその力を削がれていき、あと数世代で絶滅してしまう。そんなところまで追い詰められてしまった。」

「それは……」

「我々管理者からすると、種族の絶滅というのは都合が悪い。そこでだ。君に頼みたいことはほかでもない。君に、魔族を守ってもらいたい」

「魔族を…まもる?」

「他種族を滅ぼしたりする必要はない。ただ魔族を守るだけでいい。もちろん、それに足るだけの力は授けよう。なにか要望があれば聞くが?」

「出来れば、病気にはなりたくないです。」

「分かった。君の状態を固定し、病気などにかからないようにしよう。というわけでだ、やってくれるか?」

「...はい。やります」

「ありがとう、では早速準備に移る。と言っても私ができることは送り出すことだけだ。あまり干渉はできない。ほとんど君に任せることになるが……まぁ、せっかくの人生だ。ある程度の範囲で、好きに生きると良い」

「……ありがとうございます」

「気にするな。それでは、良き人生を」




次に目覚めたとき、俺は断崖絶壁の上にいた。赤子の姿で。

「いや死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!」

危うく人生終了RTAの記録保持者になるところだった。

とはいっても、赤子故にできることなどない。いつも通りのんびり景色を眺めていると、何かが羽ばたくような音が聞こえた。


やがてそれは、こちらを見つけ、側に降りてきた。背丈が2mほどで、背中からコウモリのような羽をはやし、頭からは一対二本の角を持つ、the魔族といった風貌の男であった。

「            」

なにか言っているようだが、あいにく言葉がわからない。あ、抱きかかえられた。近くで見ると顔怖いな……。なんか頑張って変な方向に目を向けて…変顔のつもりかな?ついふっと笑い声が漏れる。それに気づいた男は、輪をかけて大きな笑い声を上げる。笑った顔は、そこまで怖くなかった。


 その後俺は、その人…魔王グライアスに拾われ、義理の息子として育てられた。グライアスは仕事が忙しく、直接関わること自体はそこまで多くなかったが、俺にとっては良い父親だ。


そして、数十年後

「我が息子 レアスを、次代魔王に任命する」

「謹んで拝命いたします」

俺は、魔王になった。





俺は、いや我は第13代魔王、レアスである。

一人称は威厳のために変えた。実は先代の一人称は素だとぼくだったりする。あの人は穏やかな人だったからな…。


魔王を継いでから早50年。先代を看取り、今となっては一人前の魔王となった我には、2つ悩みがある。


気づいたのは魔王就任5年目のことである。

激務につぐ激務。我のからだは疲労によって弱り、結果病で倒れた。


幸い症状は軽い風邪。大事を取り、スケジュールをこじ開け1日休んだのだが……

治らなかった。強い体を持つ魔族の中でも強靭な肉体を持つ魔王たる我をもってして、風邪ごときに苦戦を強いられたのである。

これは新たな流行り病だろうかと疑い始めたとき、我は思い出した。我は神より恩寵を授かった身。本来風邪などひかぬはず。ならば何故!?

ここで、もう一度神の言葉を思い出してみよう。

「分かった。君の状態を固定し、病気などにかからないようにしよう。というわけでだ、やってくれるか?」

そういえば、はるか昔。転生する直前に、私は風邪をひいていた覚えがある。まさか、それが!?

そういえば今にして思えば赤子のときはよく咳をして心配されていた。ふと軽い頭痛を覚えることが幾度となくあった。まさか!固定化とは、「健康な状態」を固定するのではなく、「転生時の体調」を固定するということか!

たしかにそう考えれば辻褄が合う。つまり、そこから見出される結論とはーーー


この風邪は、一生治らない


我は頭を抑えた。肉体的頭痛と精神的頭痛の両方を一度に受けたためである。


翌日、我は魔王としての仕事を再開した。幸い症状自体は軽い。休んだことで昨日よりは良くなった。治りはしないが改善はするようだ。



だが、目下我を悩ませているのはもう一つの悩みの方だ。

その悩みの原因は、眼の前にいる一人の少女である

「魔王様、この捕虜はいかがしましょうか?」

「誰が聖女なんて厄ネタを捉えてこいなんて言ったこのバカタレがぁ!」

「そんな、捕まえてきたのに何で殴るんですか」

「貴様が阿呆だからだぁ!この※※※※※※(自主規制)」



眼の前の少女は、どこか気の抜けたような顔でこう口に出す。

「その…なんか、ごめんなさい?」

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