第7話:髙木 美香〜3パーティー目〜
「「「ゴメンナサイ」」」
外史達が利用している宿屋の一階に設けられた食堂兼酒場で、全員が銅貨1枚のお茶を配膳されたテーブルで。
金光達側の女子が、特に外史に対して、長湯した事への謝罪が述べられた。
「うん。気持ちは判る。
でも、不用心だった事も、反省して欲しいな」
「「「申し訳ありません」」」
結局、女子は『ホット・スプリングス』の効果時間である1時間の間、湯に浸かっていて、数少ないタオルで身体を拭くのにも時間が掛かり、口角を上げて目が笑っていない不気味な笑顔の外史に対して、頭が上がらない。
「だから、『早く上がろう』って言ったのに」
愛美がそう云うが。
「結局、同じ時間まで温泉に浸かっていた4人も、一応同罪な」
「「「「……」」」」
「まぁ、東角。責めてやるな、って。
王宮でも、湯浴みは週に一度、1人15分制限だったんだから」
「僕はソレすら無くて、今日久し振りの入浴だったんだがな」
「……判った。要求を聞こう」
金光は話題を変えるべく言った。それに対し、外史は。
「まず初めに、3人の恩恵とスキルの情報を。
髙木さんは一応聴いているが、確認の為に」
「判りました。
憶えてくれていると思うんだけど、名前は髙木 美香。恩恵は『超人的魅力』、スキルは『マジック・ミサイル』」
「恩恵のレベルは?」
「Lv.5です」
「確か、『魅了』の魔法が常に掛かっているような恩恵だったか。
まぁ、洗脳みたいな真似でもしなければ、ちょっとした親近感を抱く程度で、『魔物』も攻撃を躊躇う事がある、だったか」
「えっ!?そんなあやふやな恩恵なの?!」
「ただ、洗脳の真似事でもしたら、心酔させる事が出来るから、敵には回したくない恩恵だな。
次!」
「あ、はい!
名前は……?」
「憶えて無い。名乗ってくれ」
「……剣 舞です!
恩恵は『剣舞』、スキルはありません!この剣が唯一にして最大の武器です!」
「剣を持って舞ったら、投げ銭を貰える恩恵だったか。
銅貨1枚でも、見た者には強制させるから、大道芸人になったら、安定して稼げるな。
次!」
「えぇぇぇぇ……恩恵が微妙過ぎる……」
「『ハズレ』の俺と比べて、どっちが欲しかったか迷う事だな。
はい、次!って言ったぞ?!」
「はい!
小栗 直美。
恩恵は『経験値平均化』、レベルは6です!
スキルは『回復魔法』の魔法です!」
「ようやく、役に立つ人材が1人出て来たか。
──で?金光から髙木──面倒だ、美香と呼ぶぞ!
で、美香は金光から、レイドの提案の話を、ココに来る途中で打ち合わせていたよな?」
「え?……あ、美香と呼んで頂戴。
レイドに付いては、詳しく説明の上で多数決……じゃ、ダメかしら?」
「レイドに付いては、パーティー同士で連携を組めば恩恵のレベルがかなり高くなった時に、恩恵がレイド全員に適用される事がある、と云ったところだ。
即座に多数決を取るぞ。
レイドを組むのに賛成の者、挙手!」
金光、美香、舞、直美の4人全員が手を挙げた。
「決まりだな!」
金光が、レイド結成を確信してそう言った。
「ああ、決まりだな。
多数決で、レイドは組まない!」
場が凍り付いた。最初に解凍されたのは金光だった。
「待てよ!俺達全員、賛成したぞ?!」
「ああ。僕達は1人も賛成しなかったね。
因みに、最大限の要求を次に挙げる。
小栗──いや、直美!コッチのパーティーに移籍しないか?!」
「何でだよ!」
金光が怒鳴って、宿主に「静かに!」と注意された。
「えーっと……小栗さ──直美さんが唯一、居てくれると助かる人材だから、ですね!」
由香が冷酷にもそう告げた。
「恩恵も素晴らしい。是非とも、スカウトしたい人材だ」
外史もそう言う。
「あの……出来ればパーティー纏めて、レイド?でお世話になれませんか?」
直美には、3人に助けられた過去がある。一緒だからやって来れた関係でもある。
「んー……、例えば、こんなお願いを聞いてくれるなら、考えても良いかなぁ……」
そう言って、外史は1つの提案をするのだった。
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場所は、王城脇の、『勇者一行』の女子用の宿舎……と云うか、ボロい小屋。
美香、舞、直美は泊まりに来たつもりを見せ掛けて、ソコに居た6人の女子に声を掛けた。
幸い、寝付く前の打ち合わせをしていたところに押し掛けた事になる。
「照内さん、ちょっと提案があります」
照内 千尋は6人のリーダーだった。
「何の用だ?
申し訳無いが、明日の為の打ち合わせ中なんだが」
「私達と……レイドを組みませんか?」
「レイド?……奴隷になれと言うか!」
「違います!」
美香が慌てて否定した。
「パーティーとパーティーの、連携の事を『レイド』と云うそうです」
「……伝聞形?」
「あ、ハイ。聞いた話です。
取り敢えず、温泉にでも浸かりながら、ゆっくり話しませんか?」
「温泉だと?!」
「あと、顔の傷。治せるそうです。
但し、レベル上げの成果は影響ありませんが、訓練の経験は、リセットされてしまうそうです」
「ソレはまるで、似たようにスカウトして来ようとした、あのクズ男と同じ言い分だな」
「あ、ハイ。多分、スキルとしては同等のものと思われます」
「……指揮権は?」
「パーティーリーダー同士で作戦立案、パーティー毎に運用で」
「……温泉、かぁ……」
このクラスには、女子にデブは居ない。
不細工と誂われる者は居るが、基本、皆可愛い。
美人となると、明らかな美人は少ないが、地味過ぎる美人も少し居る。
「ソコに、男は居るのか?」
「信頼出来る人が、2人だけ。
周囲の警戒をしてくれるそうですが、まず間違い無く、覗きをするような人では無さそうです」
「2人か……。イザとなれば、排除しても……」
「「「それは止めて下さい」」」
「何故だ?」
「……本当に、私達が信じているから、としか言えません」
「……髙木、お前は『超人的魅力』の持ち主であったな?」
「はい。実態は微妙な恩恵らしいですが」
「1つのパーティーのリーダーは髙木だな?
もう1人は誰だ?」
「名前は東角 外史。彼への信頼性は、疑うつもりがあるなら、温泉と云う提案も取り消しすことも吝かでないとまで言われています」
「待て。……温泉を発見した訳ではなく、スキル、否、魔法で温泉を作り出す性質のものがあるのか?」
「はい……。私達も、出す所は見ませんでしたけど、消える所は居合わせました」
「……ん?温泉と云う湯の溜まる窪みを作り出す魔法なのか?」
「はい。窪みの消える時に入浴の際は陸上に追い出されました」
「フム……。埋まってしまう訳でも無い、と。
そして、長湯をしたと考えても、1時間程度が効果時間の上限なのか?」
「恐らく……」
美香は推測と沈黙を以て肯定の返答とする。
「……未だ用意もしていない、と云う所か?」
「はい。同意の確信も無いようでしたし……」
「すると、断られても、東角は然程の問題ともしない、と云う事か……」
「現在進行形で、崖下の比較的護りやすい場所を確保し、『魔物』を排除して待っている約束となっています」
尚も千尋は疑っている模様。
「確認の為に申しておきますが、外史──東角君は『信頼出来ないと少しでも考えているなら、連れて来なくて結構』と申し上げろ、と」
「そうか。
私個人は、誘いに乗っても構わないと思う。が、誰か、意見はあるか?」
1人が挙手し、千尋は意見を促す。
「男子に気付かれぬ内に行ってしまいましょう!」
「ソレだ。疑問の余地は。
東角は、他の男子の扱いを、どう考えている?」
「『漢なら、自力で結果を出せ!』とだけ」
「まるで、勇者の存在を無視しているかのような事を言うものだ。
他に意見は無いな?
良し、持ち運べないものを除いて、荷物は出来るだけ持って、行こうとしようか」
静かに頷く5人だが、週イチの湯浴みのみだった彼女等は、『温泉』と云うフレーズだけで、ウキウキとしているのだった。
全員、基礎レベルは30に迫っていたが、顔に負った傷で『歴戦の勇士』の如き雰囲気でも、心はまだまだ乙女なのだった。