第6話:富樫 金光〜レイドとスキル一覧〜
「カポーン」
外史は、1人寂しく温泉に入って、効果音を自分で口にしていた。
でも無いと、少し遠くから聴こえてくるキャッキャウフフと騒いでいる女子の楽しそうな声が聴こえて、外史も年頃の男の子だ、空想と妄想で、軽く興奮して来る。
「いかん!あの2人は絶望したと云うのに!」
外史が使った、『ホット・スプリングス』のスキルスクロール、そして、所持していた『ピュリフィケーション』のスキルスクロール。
結論、『ピュリフィケーション』のスキルスクロールは温存する事になった。
何故ならば、『公平に』『ホット・スプリングス』の魔法を分け与える事が、現段階でほぼ不可能だと予測されたからだ。
よっぽど上手く配分すれば、愛美か鏡花のどちらかは得る事が出来そうだったが、両者に、と云うのは恐らく不可能だったからだ。
勿論、ルアが犠牲になれば、愛美と鏡花の両方が得られるかも知れなかったが、ソレをすれば、ルアは泣くかも知れないと判断して、皆が少しずつ我慢すると云う選択肢を選んだ。コレは、皆の総意を得た上で、外史の責任を以て、今後も不公平の無いようにとの結論とした。
故に、それぞれは以下のスキルを持っている。
東角 外史:『魔法の砲弾』『暗黒球星砲』『完璧な回復』『跳ね除け』『温泉』『雷撃打撃』『浄化』
愛内 愛美:『ブラックホール・キャノン』『マジック・ミサイル』『パーフェクト・ヒーリング』『ノックバック』『ライトニング・ストライク』
柏木 由香:『パーフェクト・ヒーリング』『マジック・ミサイル』『ブラックホール・キャノン』『ピュリフィケーション』『ノックバック』『ホット・スプリングス』『ライトニング・ストライク』
由本 鏡花:『ノックバック』『マジック・ミサイル』『パーフェクト・ヒーリング』『ブラックホール・キャノン』『ライトニング・ストライク』
神田 琉亜:『ライトニング・ストライク』『マジック・ミサイル』『パーフェクト・ヒーリング』『ブラックホール・キャノン』『ノックバック』
ルアは結局、戦力と云う理由で、『マジック・ミサイル』を選び、『ホット・スプリングス』を泣く泣く諦めた。ルアは空気を読める女の子なのである。ギャルだけど。
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外史が温泉から上がろうとした頃だった。
「……ッ!」
少し遠くから、コチラへと近付いてくる何者かの気配に気が付いた。
どうやら、人間のようだ。
「立ち止まれ!!」
外史は咄嗟にそう制止した。
『誰か居るのか!!』
ソチラの方からも、声が聴こえた。どうやら、女性陣の居る方とは逆の方向だ。尤も、そうなるように備えたのだが。
「近付くと撃つ!」
外史は手早く服を着て気配を慎重に読む。
……どうやら、4名。1人は男なのは確定。リーダーなのだろう、声を掛けてきたのは間違い無く男だ。
『敵対の意思は無い!情報交換を願いたい!』
「名を名乗れ!!」
『富樫 金光だ!
他に女子が3人居るが、先にソチラも名乗ってくれ!』
「東角 外史だ!
武器を収めてなら、近付いて来ても構わない!」
『判った!感謝する!』
すぐに、富樫は姿を現した。3人の女子を連れて。武器は構えていない。
「おおっ!コレ、温泉か?
湯気が見えたから近付いてみたんだよ。
入らせて貰えないか?せめて、女子だけでも」
「女湯は、奥にある。武器をこの場に置いていくなら、向かって入っても構わない。
が、条件として、出来る限りモメないと云う条件を出す!」
「3人とも、それで構わないか?」
女子3人は頷く。そして、1人が割と確りとした剣を持っていた他は、ロクな武器を持っていなかった。富樫が盾を持っていたのがせいぜいだ。
そして、一刻を争うように奥の温泉に向かった。
「俺も、ココの温泉に入らせて貰って構わないか?」
「条件がある。
恩恵と、スキルを持っていたら教えてくれ」
「ああ、恩恵は『成り金』。スキルって、魔法でも良いなら、『ライトニング・ストライク』。
なぁ、入っても良いか?」
「構わないが、タオルはあるか?
僕の使用済みで良かったら、貸し出すが」
「風呂上がりに貸して貰えないか?
流石に垢を落とすのに使われたら、次に東角が使う時に嫌だろ?
それにしても、用意が良いな。
タオルか……。購入を考えなかった訳じゃ無いが、値段を見て断念したよ」
「『成り金』なんて恩恵なら、モンスターを狩った時にそれなりにドロップするだろ」
「そう思うだろ?
ところが、トリコーン・ラビット1羽狩って、銅貨1枚。
ゴキブリンは、群れる上にシャーマン種が居たら魔法使って来るだろ?
犠牲者出したくないから、避けてて狩れないんだ。
1回狩った事はあるけど、1体につき銅貨3枚が良いトコだぜ?
俺、ありがたいことに女の子3人と組めたが、そのせいでリスクは犯せないし、下手に手を出せないし、蛇の生殺し状態だよ!」
「それな!
──で、女子3人の恩恵と所持スキルを教えて貰えないか?」
「……ソッチも手の内を明かすならな!」
富樫は服を脱いで温泉に飛び込みながら話をする。
「カァーッ!極楽、極楽♪♪」
「僕の手の内を明かすなら、それ相応の見返りが欲しいなぁ……」
「だから、俺の手の内、明かしたろ?」
「ソレは温泉の入浴と引き換えだった。
僕の求める見返りは──高いぞ?」
「……それ相応の情報を握っているのか?」
「それは教えられないね!」
実際、外史の握っている情報は計り知れない価値があるだろう。
「でも、俺はパーティーリーダーじゃないんだ。
役目も、盾役で基本、モンスターと遭遇したら、接敵状態だから、指示出せないしな。
だから、リーダーと交渉してくれ」
「リーダーはどの娘だ?」
「……髙木 美香。恩恵は『超人的魅力』、スキルと云うか、魔法は『マジック・ミサイル』を持っている」
「……やっぱり、王都と云えど、そんなに沢山の種類のスキルスクロールが出回っている訳じゃ無いのか……」
「そうだな!しかも、大抵のスクロールは金貨100枚って値段だし。
初期資金尽きる、っての!」
「それでも、『成り金』の恩恵で、毎晩宿には泊まれるだろ?」
「いやぁ。王城の傍の小屋が2つあって、辛うじて男女で別室になっている程度の雑魚寝だぜ?」
「そうか……。因みに、『成り金』のスキルレベルは?」
「Lv.5。因みに、体感している効果としては、パーティーメンバーが敵を倒した時も、お金をドロップする程度。しかも、Lv.4から。
Lv.3迄は効果の実感無し!」
「だろうなぁ……」
恩恵『成り金』のLv.3迄は、最大ドロップ金の限界上昇。トリコーン・ラビットを倒してばかりでは、効果は表れない。逆に、例えばスキルLv.1でゴキブリンを倒していたら、銅貨1枚しかドロップしなかったであろう。
「まぁ、リーダー同士で話し合って、情報交換するのが、適当だろうなぁ……」
「そうしてくれ。
あと、小屋に戻ったら、ココの温泉の事、言い触らすのは……ダメか?」
「別に構わないが……効果時間、切れるぞ?」
「えっ!?コレ、魔法かスキルで作った温泉なのか?」
「ああ。……コレは、リーダーの恩恵とスキルの公開に対する情報な!」
「なら、東角がそのスキルを持っている事は──」
「面倒になるから、言うなよ?
ついでに提案しておく。
僕達のパーティーとレイドを組まないか?」
「『レイド』?……奴隷ならお断りだぞ!」
「違うって……」
外史は説明の面倒さに匙を投げた。ヲタク文化に理解を示さない男子も、世の中には居るのである。
「レイド組むなら、それなりの条件、提示出来るのになぁ……」
「『レイド』って、そんなに有効なものなのか?」
「まぁ、魔王討伐の際は、殆どのクラスメイトとレイドを組む事になるだろうがなぁ……」
「……って事は、序盤に組んでおいた方が有利なのか?」
「多分、今直ぐは大したメリットは無い。
けど、恩恵のレベルを上り詰めると、圧倒的に有利になる!」
「ほー……。
申し訳無いけど、レイドの説明を噛み砕いて簡単に頼む!」
「だ、か、ら!パーティーとパーティーの連携の事なんだよ!
パーティー組むには7名の上限があるけれど、レイド組むには7パーティー迄の上限があるんだ。
つまり、最大49人で7パーティー各7名のレイドが組めるんだ。
因みに、恩恵のレベルが上がったら、最終的にレイド全体に影響する能力が授けられる」
「成る程!ソレは、俺ら、レイド組んでおいた方が有利だな!
俺は賛成に票を入れる事を約束する!」
「ソレはありがたい。
でも、レイドリーダーが髙木になりそうで、ソコが考えどころなんだけど……」
「あー……確かに、髙木がレイドリーダーになっておいた方が、一見、恩恵『カリスマ』で有利そうに思えるな。
……ん?待て。東角、確かお前の恩恵って、『ハズレ』だったよな?」
「ああ、正確には、当初は、だな!」
「うー……情報料とするべきモノが、残りの女子の情報しか無くなる!」
「ソレって、リーダーの情報漏らすの、ダメだったんじゃないのか?」
「髙木も自分の責任で温泉に入りに行ったんだし、女子の入浴料としては、髙木の情報くらい、支払うべきだろ?
文句言うようなら、俺がパーティー抜けて、全情報垂れ流しでソッチのパーティーに入れてくれないか?」
「別に良いけど……。女子に手を出さなければ」
金光がニヤリと笑った。
「やっぱ、ハーレムパーティーって良いよな。
でも、手を出すには相応の覚悟が要るけど。
東角も、未だ手は出してないのか?」
「嫌がると思ったら、手を出せないさ。
覚悟も出来てないし、どの娘を選ぶかも考えてないし。
パーティー組んで、この世界で生きて行く為の運命共同体だ。
……でも、正直、誰かに迫られたら断れないけど、別に僕を選ぶ必要が無いと思うし」
「……ちょいと風呂出て、着替えながら話させて貰うわ」
金光は温泉から上がり、タオルで身体を拭きながら。
「女子ってな、感情的なんだ。
ワンチャンある時も偶にはある。
でもな。そのワンチャン逃すと、その娘とは二度とチャンスは無いんだよ。
その辺りの割り切り方は、男子の身から考えれば、残酷にも思えてしまう程だよ。
俺はまぁ、男子で盾役ってさ、身体を張る仕事で頼られて。
まぁ、ぶっちゃけ、恋愛には至らない程度の好意を持たれているような錯覚を憶えるよ。
でもな。ソレはタイミング一つ、ワンチャン逃せば二度とチャンスは無い。
そもそもな。生活を支えるだけの収入とか、普段の行ないとかで評価されて、積もり積もってワンチャンが来るんだ。
そして、女子は、嫌いな男には、どこまでも冷たくなれる。
最悪、ワンチャン逃したのが原因で、嫌われる事もある。
……俺はな。1回思い知ったから、相手にもよるけど、ワンチャン来たら、次は逃さない覚悟だぜ?
そして、ハーレムパーティーは、事、一般的な大和撫子なら、誰かに手を出した時点で他の全員を失う。
だからこそ、俺は蛇の生殺しでも、ハーレムパーティーを組める、ある種の『気持ち良さ』を長く感じていたいから、俺の方から誘う事は無い。
そして、誰かに求められたら、他の娘全員を諦める。
つーか、ホントは誰かに一途なのが女子にしても好印象なんだろうけど、でも、環境が変わる度に、ナンバーワンの娘に一途で、その時の環境のナンバーワン以外は眼中にない、ってのは、男の方から見たら、クズだろ?
だって、その時の環境に応じて、ナンバーワンの娘にしか想いが無くて、結局、一番条件の良い娘だけしか、付き合うつもりも無いんだから。
男としたら、相思相愛の娘と結ばれるなら、あとはチャンスがあったら結ばれるだけで、気持ちだけは想い合ってる娘でも、チャンスが無かったら諦めるだろ?
じゃなけりゃ、相手の気持ちを無視して、『この中だったら、ナンバーワンのこの娘じゃなきゃ付き合う価値無い』だなんてのは、例えば自分に対して想いを寄せていてくれて、ずっと一途で、そんな娘の想いを無視するなんて、断る絶対的な理由が無い限り、その娘が可哀想だろう?
例えば、理由も判らないのに、一目惚れして、恋い焦がれて、想いを寄せている娘が居たら、他の娘からアプローチされても、その想いを寄せている人に失礼だから、アプローチして来た娘がどんなに美人でも、断るだろう?
一目惚れってーのは、ソコまでの強い想いであって、ソレはナンバーワンの娘だったら誰でも良いから付き合いたいって下世話な話とは、全く違うだろう?
そりゃ、紳士的であろうとした結果、想いを寄せられた娘の事を断るのは、残酷なんだろうけどね。
男も女も、複数の相手から想われる人って云うのは、男なら紳士的、女の子なら淑女的であったりとか、何らかの理由があるものだよ。
日頃の行いとかさ。無意識のレベルの立ち回りとかさ。
でも俺は、パーティーメンバーには手を出さない!
最初から、一番危険な立場を任せられる為にハーレムパーティー状態になって、俺が俺のするべき事をして行った結果、頼もしさに惚れられても、俺はパーティーの皆を平等に危険から護らなくちゃ、盾役じゃねーしな。
誰かを贔屓にして他の娘を危険に晒すようじゃ、盾役失格なんだよ!」
着替えながら話していた金光は、金銭的な事情でだろう、盾一つだけを武装に、外史相手に構えて見せた。
「でもな。ワンチャン来たら、揃ってパーティー抜ける。
その娘を護って、そうだな……何か商売でも始めるか!
でも先ずは、稼ぐ事。
稼げない男は、主夫になる覚悟が無いと、逆玉に乗る資格も無い!
俺は主夫って柄じゃねぇからよ。稼げなかったら、男としての価値は無い!
そんでもって、別に好きな娘が居る訳じゃ無い。
今の俺の稼ぎとか、生活スタイルに合わせられる娘とかに告られたら、2人で生きる!
そんでもって、似た境遇の相手を見付けたら、組んでも良いな。前提条件として、俺の相方を最優先に護る事さえ許されれば。
──だからよ。東角も似たような関係の娘を、確保してくれたら、組みたいって気持ちはある!
正直、男とは組みたくない、って女子も居るし、その点、東角はソコソコ上手く立ち回れてるんだろ?
1人位は、本気で想ってくれてる娘、居るって思う方が頑張れるぜ!」
「うーん……。
僕達の場合、少し状況が違い過ぎてさ。
共依存、ってーの?みたいな状況でさ。
正直、状況に関してはクラスメイトの中で一番先行してると思う。
そもそも、ゴキブリンは特にシャーマン種の存在に依って、序盤の敵としては強過ぎて、その先に行けない位だ。
でも、僕達は明日から、遠征して少し強いモンスターと戦いに行く!
少し自信があるんだ。もうちょっと強い敵でも、未だ余裕かな、って位に。
でもまぁ、女性陣が話に加わらないと、取り敢えずお話しにならないね。
コレがリーダー同士なら、相談の余地があったんだけど」
「申し訳無い。
でも、このパーティーは俺がリーダーじゃ、成り立たないんだ。
ただ……少しばかり、女性陣は長湯になるかなぁ、と思う。
……なぁ。何か欲しい情報、個人情報以外で無いか?
俺の方は、聞きたい情報が幾つかあるんだけど。
あ、そうだ。クラスメイトの女子で、6人パーティー組んでいる娘が居るんだけど、女子って他に保護されていない娘は居ないか?」
「僕達の方は、4人の女子と合流してる。
……で、4・3・6の13人か。女子はそれで全員だよな?
男子は……保護するつもりも敵対するつもりも無いな。
──で、その6人、問題は無いのか?」
「ほぼ全員、顔に傷負っちゃって……」
「あ、それ治せるぞ」
「……は?」
「但し、レベル上げ以外の訓練してたら、訓練の効果消しちゃうから、タイミングを見計らってになるけれども」
「ふーん……。割と早く、3パーティー目のレイド組めるんじゃね?」
「そうかもね」
2人はその後、湯冷めするまで無難な会話を続けて、女性陣が温泉から引き上げて来るのを待つのだった。
2話に分ければ良かった……。