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第5話:神田 琉亜〜釣り師〜

 しばらく、外史達4人はトリコーン・ラビット狩りに専念した。

 そして、ある日唐突に、外史が「ゴキブリンを狩ろう!!」と言い出した。


 女の敵、ゴキブリン。その名を聞くだけで女性陣3人は背筋が凍るが、何時(いつ)までも先送りにしておく訳にもいかない。

 それに、トリコーン・ラビットばかりを狩る生活も、ひと月は続けていたのだ、ステータスを見ても、Lv.30超えと、最初は順調に、次第に1日1レベル、遂には昨日は3人ともレベルが上がらなかった。

 ソコまで至って3人は気付いたのだが、外史はしばらく基礎レベルが上がっていないのでは無いだろうかと予想し、3人は視線で会話し、状況を把握した気でいた。

 実際には、スキルレベルは経験を積むに従って上がっていたので、外史は『アタリ』のスキルレベルがLv.7に到達し、『当外自在』のスキルに到達したが故の判断だった。

 未だ、通常攻撃のアタリハズレが、外史に関して自在に変更出来るだけであり、ココから『当外自在』のスキルレベルを一気に上げて、3人の安全を早めに確保しておきたかったのだ。が、この城下町近くの森では、トリコーン・ラビットとゴキブリンは嫌になるほど居るが、他の魔物(モンスター)は殆ど居ないのだ。居たとしても、直ぐに討伐依頼が出て、処分されてしまう。


「あ、トリコーン・ラビットを狩らない訳じゃ無いよ。

 飽くまでも、ゴキブリンも発見次第、狩ろうって云う話だ。

 それも、『マジック・ミサイル』の魔法の射程ギリギリの遠距離戦でだ。

 接近を許してしまった時には、近距離戦の実戦訓練と思って戦おう!」


 それならばと云う事で、3人は覚悟を決めて外史の提案に応じる事にした。

 そして、冒険者ギルドで討伐確認魔法機を借りた。その預かり金として金貨1枚を借りる時は支払い、報告の際に返す時にはその預かり金である金貨1枚を返して貰える上に、国の支援金から討伐報酬を貰えるので、経済的に無駄な狩りにはならない状況を用意して、ゴキブリンの出現する、割と森の深部へと颯爽(さっそう)と出掛けた。


 ──のだが。

 事態は、風雲急を告げる事態へと陥った。


 ……ッキャーーー!!!


 ソレは、間違い無く女性の悲鳴だった。

 しかも、結構近い。

 そして、(やぶ)の中からその声の主が現れて、尚且(なおか)つ、その背後にゴキブリンの群れが追って来ていた。

 その数、6体。しかも、ゴキブリン・シャーマンが1体、杖を掲げて魔法を放とうとしていた。


「助けT──」

「『マジック・ミサイル』6連!!!!!!」


 魔法の連続詠唱・並列運用は、4人が最近になって獲得した能力だ。ソレを、外史は知られてしまう(・・・・・・・)事も覚悟の上で、瞬時に判断して撃ち放った。勿論、接近戦の、ほぼ奇襲に近い形での初戦闘と云うリスク回避の為だ。

 助けられた少女──クラスメイトの神田(かみだ) 琉亜(ルア)は、ピンチから救ってくれた事に、『アカン、惚れてしまう』とか場違いの考えをしていたが、実際、外史はそのマジック・ミサイルで、敵ゴキブリンの急所を貫き、一撃でそのゴキブリン6体を葬り去った。


「周囲警戒!!!!!!!」


 3人はハッと気を引き締め、それぞれ別の方向を探って、周囲の魔物の気配を探った。この、魔物の気配を探る能力は、魔法さえ使えれば僅かな魔力の消費によって、誰にでも出来る事だと、外史から報せられていた。よって、多少の練習で全員が体得していた。


「前方、異常無し!右方は?」

「右方、異常無し!左方は?」

「左方、100m先にトリコーン・ラビットの気配1つ、接近の様子無し!後方は?」

「後方、異常無し!取り敢えずの安全を確認!」


 全員が、取り敢えずの安全に脱力して緊張を解いた。


「──で、神田さんは何故、コイツラに追われて?」

「東角君、ありがとう〜!

 ──いや、あのね。パーティーの『釣り役』を任されたんだけど、ゴキブリン6体を確認、シャーマン個体1体の模様、って報せたら、アイツラ、逃げやがって……。

 あ、皆〜、無事だったの?

 やっぱり、頼りになるかもと思って男子にパーティーに加えて貰ったんだけど、一番危険な『釣り役』任されるし、イザとなったら逃げ出すし、ロクなものじゃないわぁ〜。

 もうアタシ、あのパーティーから抜ける!

 ……アレ?鏡花ちゃん、他の男子とパーティー組んでなかったっけ?」

「そうなの〜!でも、不満が溜まりに溜まったから、抜けてこのパーティーに入れて貰ったの〜!」

「って云うか、何か、問題児が揃ったようなパーティー編成ね?

 えーと……愛美ちゃんは魔法の威力強過ぎて?お金稼げないから、パーティーに要らないって外されて、由香ちゃんは回復魔法が欠陥のある回復魔法だったから、パーティーに居ない方が良いって外された、んだっけ?

 何でそんな人ばかり集まったの?

 ……ん?男子1人居ると思ったら、ハズレ恩恵を賜わった東角君じゃない。

 アレ?前と比べると、随分と精悍(せいかん)としていて、カッコい──」


 ソコまで言いかけて、ルアはボンッと顔が真っ赤になり、沈黙した。


「──で?パーティーリーダー、一応僕なんだけど。

 何か、このパーティーに移ってくる前提で話されていた気がするんだけど?」


「東角君、さっきの発言は無かった事に……!」


「で、なんだけど。

 何か、半ばハーレムパーティーみたいなノリで、ポンポンと不満ある女子を、リーダーの判断を無視して参入させているみたいだけど、一応の許容人数位は決めておきたいんだけど……」


「そうね。ルアちゃんを入れる事を前提としたら、あともう1人位が限界じゃないかと、私は個人的に思っているんだけど……」


「更に2人加わったら、パーティーを2つに分けても良いかもね」


「んー……、システム的な話をしたら、実はパーティーには計7人と云う制限がある。

 だから、計8人になったら、4人ずつの2つのパーティーにして、レイドを組むって云う手があるけれど、レイドに影響を与えるスキルレベルって云うのは、かなり先の話になると思う。

 で、レイドの限界が7パーティー。

 んー……その辺の話は後にして、狩りを続けようか。

 あ、ルアって呼んで良いか?ルアはパーティーに入れるって事で問題無いんだよな?」


「そしたら、アタシは外史って呼ぶよ?いいの?」


 外史からしたら、ルアはギャルっぽく、平気で『外史』と呼んで来ると思っているのであって。


「別に構わないけど?」


 その提案を快く引き受けるのである。


「で、ルアの恩恵って、何?

 あと、魔法かスキル持ってたりする?」


「え?え?」


 外史からすれば、この異世界感で感覚が半ば麻痺していて、更に美人3人と組んでいるとあって、余裕もあった。

 だが、ルアからすれば、普段、休み時間には本を読んでいた外史を勝手に知的な小心者の文学少年であり、平気で名前呼びされる事に、違和感──ある種の興奮を憶えるものであり、思わず顔がカーッと赤くなるのであった。


「恩恵は、『経験値上昇』。

 スキルは、『雷撃打撃ライトニング・ストライク』。

 ねぇ、外史はアタシを『ルア』って呼ぶの、恥ずかしくないの?」


「──別に恥ずかしく無いな。

 で、恩恵のスキルレベルは幾つ?」


「はぁ!?

 普通、女の子を名前呼びするのって、凄く親しい関係の娘じゃなくて?

 ……恩恵のスキルレベルはLv.5よ」


「上々だな。

 あと、女子を名前呼びするの、この3人で慣れた」


 恩恵の経験値上昇は、Lv.1で2倍、Lv.2で3倍、Lv.3で5倍、Lv.4で他のパーティーメンバーの経験値が2倍、Lv.5で3倍と云った具合である。勿論、ルアの基礎レベルは『39』と女子の中では最も高かったが、外史には敵わない。だが、外史もLv.49で中堅と言えるLv.50を直前に、しばらく上がっていないのだった。──敵が外史の基礎レベルと比べて弱過ぎるのだ。

 だが。


「フム……、しばらくゴキブリン狩りをしてから、皆のレベルが上がりづらくなったら、遠征しても良いな。

 ただ、魔法アタッカーが3人かぁ……。

 出来れば、物理アタッカーが1人欲しいなぁ……」


「あっ!アタシ、『釣り役(フィッシャー)』でも良いよ!危険は承知だけど……、この時点でゴキブリン・シャーマンを見て逃げ出さない人、多分他に居ないよ?」


「フム……、敵をコチラに有利な戦場に呼び寄せて、皆で倒すのか……。悪く無いな。

 良し、その提案、採用しよう!

 問題は、『ライトニング・ストライク』の扱いかぁ……。

 ソレ、狙った敵の近くの敵に当たるのだったらまだマシで、狙った敵の近くの味方に当たる可能性があるから、欠陥スキルなんだよなぁ……」


 でも、と外史は『ライトニング・ストライク』の裏技的活用法を思い出そうとしていたのだが。


「あ、外史君。私、ちょっと事情があって、『浄化(ピュリフィケーション)』の魔法を手に入れたんだけど!」


「そうか……」


 由香が口を挟んだ事に対して、外史はインベントリ化した鞄から、1つの『巻き物(スクロール)』を取り出した。


「前にソロでゴキブリン・シャーマンを倒した時に手に入れた、『温泉(ホット・スプリングス)』のスキルスクロール……。

 コレを僕が憶えて、えーっと……」


「ちょっと待って」


「……ん?」


 外史の発言に待ったを掛けたのは、愛美。


「そんな大事なスキルスクロール、隠し持っていたの?!」


「うん。今が活躍するべき大チャンスだろう?」


「温泉にタダで入れるスキルがあったら、もっと早く入りたかった!」


「……あ、ソッチの意味か。

 正直、スキルスクロールの存在が、単独でチートに近い恩恵みたいなものに与れるから、今まで中身を確認してなかったんだよ。

 ホラ、何のスキルも無い人を迎え入れた時に、物凄く有効だろう?

 しかし、温泉には確かに入りたいな。

 どうする?このスクロールの権利は譲れないけど、女子は女子だけで入浴する浴槽が必要だから、少なくとも由香の『ピュリフィケーション』とルアの『ライトニング・ストライク』との交換は確定だろう?」


「待って。どうやったら、最大人数に『ホット・スプリングス』のスキルを与えられるか……。

 ねぇ。他にスキルスクロールを持っていたりしない?」


「ん?一応あるぞ。確か……。

 あった、あった。

 でも、『ピュリフィケーション』だぞ?」


 状況を理解した愛美と鏡花が、目線で火花を散らす。


「あとだなぁ……。

 『魔物(モンスター)』も冒険者も来ない場所に温泉作る場所なんて、そうそう無いし、取り敢えず、さっき見付けたトリコーンラビットを狩らないか?

 スキル交換とかは、後回しにして、早上がりしてゆっくり温泉に浸かった方が建設的だと思うが?」


 女子4人が、状況を理解して、外史に対して敬礼した。


「「「「イエッサー!!!!」」」」


 どうやら、今日は温泉がメインの目的になりそうだった。

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