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第2話:愛内 愛美〜勧誘〜

 さて。イチ冒険者……その実態は無職にして……外史はトリコーン・ラビットを狙って狩り続ける覚悟を決めていた。しばらく、その肉の他には野草や樹の実を少し食べる程度の生活を、少なくとも一ヶ月は続ける覚悟で。


 ゴキブリンも少々現れるが、外史は当初、ゴキブリンとの対戦を避けていた。ゴキブリンは、群れる習性を持って居るが故に。

 そして、ゴキブリン・シャーマンは範囲魔法の他に、『必中』の性質を持つ『マジック・ミサイル』を使う可能性があるが故に。


 トリコーン・ラビット狩りは、そう難しい事では無かった。勝手に恩恵のお陰で外してくれる攻撃を気にせず、『マジック・ミサイル』を打ち込むだけの、簡単なお仕事だ。

 むしろ、解体が大変だった。が、外史は多少のグロ耐性があった。

 故に、トリコーン・ラビットの肉は、美味しい食材だった。


 恩恵のレベル──つまり、『ハズレ』レベルが2に上がった時、外史はゴキブリンを、ゴキブリン・シャーマンの不在を確認して、狩るようになった。


 恩恵『ハズレ』のレベル2の効果は、『範囲攻撃のハズレ』と云う効果である。

 そして、ゴキブリンを狩るようになってから、外史の経験値はうなぎ(のぼ)りで上がり、恩恵『ハズレ』のレベルはあっという間にレベル3まで上がった。

 恩恵『ハズレ』のレベル3の効果は、『必中攻撃のハズレ』能力だった。

 コレは、外史の『マジック・ミサイル』の『必中効果』を無効化する性質は無かった。つまり、一方的に当て放題なのである。──当たっても効かない敵は居るが。

 だが、『マジック・ミサイル』の効かない敵は、こんな城下町近くの森で出現する筈も無い。


 ソコに至って、外史は城下町に戻る決意をした。

 因みに、トリコーン・ラビットの肉は、時によっては偶々持ち合わせていた虫眼鏡で火を起こし、焼いていたが、殆どは生肉を食べていた。

 何しろ、『アタら無い』のだ。腹を下す心配は無い。


 だが、予想以上に厳しい生活になった事に、外史は(すさ)んだ顔立ちになって来た。一般人が見たら、怖いと思ってしまう人が居る程度には。


 だが、冒険者としては、当たり前に持って居る迫力程度だった。


 この時点で、外史のレベルは、Lv.32である。

 勇者召喚された者達の中では、トップに君臨する。


 その上、攻撃が『必中効果』があっても(あた)らないのだ。

 喧嘩になれば、ワンサイドゲームだ。

 尤も、外史は必要が無ければ喧嘩などしないが。


 そして、冒険者ギルドに鞄いっぱいのトリコーン・ラビットの皮や角を持ち込むと、外史はこんな事を聞かれた。即ち──


「冒険者ギルドへはご登録済みですか?」


 と。

 外史は困った。そして、笑ってお茶を濁す事にした。


「いやぁ~、それどころじゃなくて忘れてました!」


 途端に、笑いが巻き起こる。外史にすれば、「ひとネタウケた、ラッキー♪♪」である。


「登録されていないのでしたら、半額での買い取りになりますが……」


「アレ?仮登録して、売り捌いた後に本登録って、出来なかったっけ?」


「登録には金貨一枚程掛かりますので、トリコーン・ラビットの素材だと、相当の量が必要になりますが……」


「皮100枚程と、角300本くらいあるんだけど……」


「申し訳ございませんが、その量をお持ちになられているようには見えませんが……」


 受付嬢が、申し訳無さそうな表情でそう言う。


「え?この(かばん)、『インベントリ化』しているんだけど」


「……は?」


「……え?」


 2人は暫しの間、見詰め合った。


「そ、そんなに貴重な物を──!

 価格は、その鞄込みの値段で構わないでしょうか?」


「まさか。こんな貴重な物を売る訳にはいきませんよ」


 法螺(ホラ)である。

 プレイヤーには、所持する袋や鞄状の物を、一つインベントリ化する能力がある。

 ソレは、未所持の状態の時に一つインベントリ化出来ると云う話で、売った金で適当な袋や鞄状の物を購入すれば、所持数は最大一つと制限があるが、回数については、無限大──失礼、語弊があった。グラハム数回程度の超巨大数回もの回数のインベントリ化能力を持っている……筈だった。試すにはリスクがあるので、外史はそのリスクを避けていた。

 ゲーム内の設定全てがこのリアルな世界で完全に適用されるとも限らないのだ。


 よって、鞄は譲れない。

 だが。


「では、仮登録と云う事で、裏手の買い取り所に回って、この仮登録証を持って素材と代金を引き換え願います」


「はい、ありがとうございます!」


 そうして素材を売り捌きに裏手に回った外史だったが。


「何だ、毛皮はどいつもこいつも、ハズレばかりだな。商品になる物は……今のところ、ゼロだな」


「やっぱりそうかぁ……。

 で、角は?」


「角はなぁ……ハズシようが無い物だからなぁ……。

 特に傷も無し。

 合計で金貨一枚……まぁ、登録料にしかならんだろうから、銀貨一枚をオマケしとくよ」


「良かったぁ……」


 外史にしてみれば、銀貨一枚のオマケで食べられる真っ当な食事と云うのが有難かった。何しろ、その後はまたサバイバル生活が始まるからだ。


 この後は、『ハズレ』のスキルレベルが上がっても、『パーティーメンバー』に恩恵が影響する様になるだけだ。

 だからといって、下手にパーティーを組む訳にはいかない。

 何故ならば、『ハズレ』のスキルレベルがLv.7になった途端に、そのスキルは『アタリ』になってしまうからだ。

 今までハズレていた攻撃がアタルようになる。

 この環境の違いは、外史1人ならば対処出来るが、パーティーメンバー全員は無理だろう。

 そして、食事も相当気を付けなければならない。──アタルからだ。

 生肉なんて、とんでもない!!薄く切った肉を十分に火を通しても、尚アタル。

 但し、コチラからの攻撃もアタルのだから、威力があって詠唱が短い、アタリづらい魔法がアタルようになる。例えば、『暗黒球星砲ブラックホール・キャノン』とかが有効である。

 だが、ソコに至る迄も苦難の道だ。──が、手に入るなら、手に入れて損は無い。

 問題は、資金が無い事だ。


「……アタルのが、こんなに怖い事だとは予想していなかったなぁ……」


 外史は、ウェルダンで焼いた肉でもアタル事に、頭を悩ませていた。

 このままでは、ロクに栄養も取れないまま、吐くか下るか、と云う状況に思われた。

 だが、『ハズレ』の恩恵を未だ甘く見ていた事に、気付くまであと少し。


 果たして、外史は狩ったトリコーン・ラビットの肉を、ウェルダンで(凄く良く)焼いて、一口パクリと。

 良く噛んで、『食べた感』を感じる事に専念していた。

 すると……──


「おっ、戻りも下りもしない!」


 何と、トリコーン・ラビットの肉ばかりを食べ過ぎた余り、身体がトリコーン・ラビットの肉を食べる事に適応しているのだった。


「おっ、コレは美味しい!」


 一食、トリコーン・ラビットの肉を凄く良く(ウェルダンで)焼いた肉だけで済ませ、食後も少し様子を見てから、何事も無い事を確認すると、次の狩りに向かった。


 ゴキブリンも、慎重に狩る。そして、その日は7羽狩ったトリコーン・ラビットを、1羽だけ食べて、他は血抜きだけしてギルドに持ち込む。

 そして、換金する際に『捌き方』を教えて貰い、1羽として失敗する事なく、換金して貰えて、指導料を差し引いて銀貨7枚近くを入手する事に成功した。勿論、食べた1羽以外は、肉も売ったが故の代金である。

 トリコーン・ラビットは、繁殖力が非常に強く、放置すると()え過ぎて、薬草含む雑草の全て迄食い尽くして、亜砂漠化すると云う事態に陥る為、初心者用の獲物として推奨されており、群れる事も無く、大した強さの無い、安全な獲物であり。

 皮は皮革製品の材料となり、肉は食肉用、角は薬の材料に、骨も出汁を得るのに使えると云う無駄の無い獲物だと聞いて、外史は前回、骨を全て土に埋めて処分した事を後悔した。

 兎も角、トリコーン・ラビットは、外史のしばらくのメインとなる獲物であった。

 アタリのスキルレベルは、Lv.1では必中攻撃のアタリ、Lv.2で範囲攻撃のアタリ、Lv.3で一般攻撃のアタリと云う効果を得て、Lv.4〜6でそれぞれパーティーメンバーにも効果が適用されるが、外史は未だパーティーを組む気は無かった。

 そして、Lv.7に至る事でスキルは更に進化し、『当外自在(とうがいじざい)』と云うスキルに化けた。

 その名の通りに、アタリ・ハズレは外史の思うが(まま)と云う事態だった。

 但し、このスキルにもスキルレベルがあり、Lv.6でカンストする。その向こう側があるものか、外史は流石にソコまでは知らなかった。


 兎も角、この『当外自在』のスキルレベルがカンストしたら、ありとあらゆる攻撃等のアタリハズレが自由自在となる。パーティーメンバーにも、ソレはLv.4から段階的に適用される。

 外史は、『当外自在』のスキルがカンストしてから、パーティーメンバーを募る予定だった。


 だが。

 1人、気になる娘が居た。

 外史と同じく、主にトリコーン・ラビットを獲物にして、何とか糊口(ここう)(しの)いで居るらしい、クラスメイトの地味目な美人、愛内(あいうち) 愛美(まなみ)だ。

 見るからに、食うに困っている。

 地味目と表したが、地味過ぎるが故に、パーティーを組むのにも苦心している──否、失敗してソロの活動をしているらしかった。

 ある日、外史は勇気を出して愛内さんに声を掛けてみる事にした。


「あの……」


「ヒャッ、ヒャい!」


 声を掛けられただけでも困惑している。パーティーを組めなかったのは、地味さだけでなく、コミュ障を(こじ)らせているからかも知れなかった。


「その……、パーティー組みませんか?」


「……!」


 愛内さんは、顔を赤らめて、返答に困っている様子だった。


「ゴメンナサイ。急にこんな事を言われても、困るよね?

 今はそのままで良いから、もし気が向いたら、声を掛けてよ。いつでもパーティー組むのは歓迎するから」


「あっ!あの……!」


 愛内さんは、何かを言いたいらしかった。

 外史は、気長に、愛内さんが言いたい事を聞こうと思った。


「えーと……その……。

 ぱ、パーティー組むの、……その、……今からじゃダメでしょうか?」


「勿論、大歓迎だよ!

 ところで、恩恵は何を与えられたか、聞いても良い?」


「ま、『魔法威力倍増』です!」


「フム……。スキルレベルは幾つ?」


 外史は『魔法威力倍増は、スキルレベルに従って倍率を上げていって、Lv.7以降は倍率の低下で手加減出来るようになるだけだから、大当たりとは言えないにしろ、有用と言える恩恵だな』と考えており、自分の経験から、Lv.7に届いて困っている可能性はあるなと予想していた。


「れ、Lv.3です……」


「……え?

 ……折り返してからのLv.3?」


「お、折り返すって、何ですか?」


 どうやら、折り返す時点にも届かない状態で、Lv.3であるらしかった。


「因みに、憶えた魔法は?」


「ぶ、『暗黒球星砲ブラックホール・キャノン』です!」


「──は?」


 外史が、今一番欲しい魔法であり、直撃すればトリコーン・ラビットなぞ、肉片すら残らず消し飛ばす威力を誇る魔法であった。


「それで、どうやって狩りを?」


「と、トリコーン・ラビットの首から上だけを消し飛ばして、その……毛皮は難しいけど、お肉は焼けば食べられるし、売ってもパン一つとか野菜一つ位は買えるから、それで食べ繋いで……」


「……うん」


 取り敢えず、外史のような肉食人では無いらしく、その発想に、見習うべき事を見い出してから。


「……魔法を使う能力を分け合う方法があるのをご存知かな?」


「……え?」


 どうやら知らないらしい。


「僕からは、『マジック・ミサイル』を与えるから、僕に『ブラックホール・キャノン』を与えてくれるかな?」


「ど、どうやって……?」


「うン?

 こうして手を繋いで向き合って、右手からは渡そうと思う魔法を分け与えるイメージを持って。

 左手からは、僕が贈る魔法を受け取るイメージで。

 やってみて。僕もやるから」


「は、ハイ!」


 外史は左手は流れ込んでくる事に任せ、右手で『マジック・ミサイル』の使う権能を流し込んだ。


「あっ!流れ込んでくる……!」


 彼女はそう言うが、ソレは外史も同じである。


「それにしても、愛内さんみたいな美人を、1人で行動させるなんて……。勇者が聞いて呆れるよ!」


 外史は強くそう言った。


「ふぇっ……!私なんかが、美人……?

 あ、あの!……愛美と呼んで頂けませんか?」


「うン?そうなると、僕も外史と呼んで貰う事になるけど、そんなに急に距離を縮めて大丈夫?」


「ふぇっ……?!そ、その……外史君、どうぞよろしくお願いします!」


「ああ、トリコーン・ラビットをそんな器用な狩り方をする愛美さんには、僕も期待しているよ」


「かっ、(からか)わないで下さい!

 狩りの成功率、1割か2割がいいトコなんですから!」


「ハッハッハ。これからは『マジック・ミサイル』があるから、安心しなさい。

 但し!──しばらくの間は、魔物に攻撃させる事も許さないつもりでいてね。

 今、僕の恩恵が、微妙に危うい状況だから。

 ──リスクを恐れるなら、パーティー解散をしても構わないよ」


「みっ、見捨てないで下さい!」


 愛美は悲痛な声を上げた。

 もしかしたら、パーティーを組めなかった過去は、彼女のトラウマだったかも知れなかった。


「見捨てない。断じて、見捨てないよ。

 でも、安全マージンを取るなら、ヒーラーの存在が必要だなぁ……」


「……あっ!」


 愛美が、何かに気付いた。

 そして、外史の袖を掴んで引っ張った。


「ソロのヒーラーの宛があります!行きましょう!」


「……何故にヒーラーがソロ?」


 兎も角、外史は愛美の導く儘について行くのだった。


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