表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/13

第10話:皐月 如月〜恩恵『加工能力』〜

 朝食に菓子パンが配られた。

 ソレを泣きながら食べる娘が何人か居た。

 外史パーティーでは由香が泣き、愛美がその背を(さす)った。

 美香パーティーでは直美が泣き、美香が背中を擦る。

 千尋パーティーでは、卯月と牡丹が涙を流すが、コレまで女子パーティーだけで活動していたせいか、気丈にも笑顔で泣いていた。


 そして、何故か如月が、赤い龍虎の対峙する模様のガラスコップを持って来て、自慢気な顔をした。


「そんなに成果を焦らなくてもいいって!」


 如月は俺に一度渡したガラスコップを奪うように取り戻し、地面に向けて叩き付けた。


 パリーン!と云う音は鳴らなかった。見ると、ガラスコップは割れていない。


「強化ガラス!」


 如月はそのガラスコップを掲げて、そう自慢気に言った。


「えっ?!強化ガラスのコップを作ったの?!」


珪砂(けいしゃ)硼砂(ほうしゃ)硼酸(ほうさん)、アルミナ!

 色は酸化鉄!」


「……材料が判ったから、作ってみました、って事か?」


「半径10メートルで、ようやく1個!」


「……その範囲内から、少しずつ集めて、ようやく作ったって事か?」


 如月が何度も頷く。


「取り敢えず、1人1個として作って、使ってみようか」


「売る!」


「儲けよう、って事か?」


 再び如月は何度も頷く。


「でもなぁ……、この世界の金貨ですら、混ぜ物多過ぎて、弥生のスキル換算が低過ぎたからなぁ……」


「ん!この世界の物を買う!」


「あー、この世界の物で、価値のある物が手に入るなら、弥生の恩恵で売って、欲しい物を買えば良いのかもなぁ……」


「ん!」


 如月が外史にコップを差し出す。


「……ん?試しに売ってみるのか?」


 如月は首を縦に何度も振る。


「……良いのか?

 安く買い叩かれるかも知れないぞ?」


「実験!」


「ああ、実験にするには、良い材料かもな」


「ん!」


「ちょっと待ってろ。

 おーい、弥生ー!」


「はーい!」


 弥生がサッサと駆けてくる。


「──何でしょう?」


「この強化ガラスのコップ、売ったら幾らになる?」


「んー……ん?7,000mpmで売れますよ?」


「……妙に高いな。何でだ?!!」


「んー……デザイン?」


「そうか……。

 如月、売って良いか?

 その代わり、半額は如月の判断で使って……良いよな?」


「ん!」


 如月は一度頷く。


「待って下さい!

 この恩恵、スキルスクロールも買えます!」


「──恩恵のレベルは?」


「う……今朝のでLv.3に上がりました」


「なら……『魔法の砲弾(マジック・ミサイル)』に『浄化(ピュリフィケーション)』、『浄水(ピュア・ウォーター)』、『風の刃(ウィンド・カッター)』辺りが買えるかな?

 弥生、1,000mpmでその辺のスキル・スクロールは買えないか?」


「ハイ!1,000mpmで買えます!他にも『着火(ティンダー)』なんかも買えますけど……」


「んー……。

 弥生、手を」


「あ、はい」


 外史と弥生が手を繋ぐと、「ふあああ!!!!」と弥生が驚きの声を上げる。


「後で、買い上げる品目は告げる。

 如月、3,500円位で買える代物なら、何でも買って良いぞ?」


「んー……。ンッ!」


 如月が、外史の方を向いて目を閉じ、唇を突き出した。


「ん?そんなもんで良いのか?

 ……チュっ。

 じゃあ、弥生。半分以上は残しとけよ!」


 この後、外史は3パーティーのリーダー会議だ。

 如月は頰を少し赤らめ、弥生に向かってピースサインを示した。


「……負けた」


 弥生は、果たして如月に負けたのか?

 それとも、外史が贈ってきた、『100万mpm』に負けたのか。

 その答えは、『両方』と言わざるを得なかった。


 果たして、そんなにレベル差があるとも思えない外史が、そんなにもの『mpm』を贈れたのかは、弥生の想定の外にあった。


 そう、外史が最近、特にパーティーを組むようになってから鍛えていた要素、『権限レベル』の高さ故である事に。

 MPを何百回も回復しながら弥生に贈っていた等、この世界がゲームの世界の再現によって成り立っていると云う情報の有無が、大きな差になっている事に。

 そして、外史はそのゲーム世界の最前線で戦っていた攻略情報を持っていた事に。


 そんな事は、弥生1人の想定では、収まらないのも仕方があるまい。


 そして、弥生は自分の持って居る恩恵が、実は凄いチートなんじゃないかと、薄々と気付き始めて居たのだった。──但し、外史と組む事によって。


「──負けない!!」


 弥生はそう言って、如月に対して指を突き付けていた。

 だが、『負けない!!』と思っているのは、如月も同じ。


「電子図鑑!」


 反論、にしては妙な言葉を、如月は弥生に告げた。


「……?」


「3,500円!!」


「あー、あなたの取り分ね。

 ……電子図鑑?!!」


 そして、如月としては身近だったものの材質が何であるかの情報は、非常に重要な要素であるのだった。


「──って云うか、あなた、代わりに大事なものを奪っていったのではなくて?!!」


「ソレはソレ、コレはコレ」


 要は、如月が外史に求めた対価と、同じように弥生にも対価を求める。と云う事らしかった。

 幸い、電子図鑑の値段は、相応に弥生のショップにその位の金額で在った。

 ソレを引き渡すと、如月はピースサインを弥生に主張して去るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ