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【運命】は必ずしも【幸福】と結びつかない〜二世代にわたって運命の番に翻弄されるαとβとΩの恋の話〜[R15 BL]  作者: 燈子
いつかアナタのモノにして〜運命を信じない年上αに恋したΩの少年の話〜
15/42

運命との出逢い




出逢った時、一目で分かった。

彼が僕の運命だと。




***




その日は朝からラッキーだった。

朝ごはんは僕の卵だけ二黄卵だったし、やけに青く澄んだ空には虹がかかっていたし、目の前を綺麗な揚羽蝶が二羽仲良く並んで翔んでいた。

そんな世界から祝福されたような朝を迎えて、僕は確信に近い予感を抱いていた。


今日はきっと、何か僕の人生を変えるような、特別なことが起こるだろう、と。


そう、例えば。

運命の相手に出会うとか。







颯斗(はやと)、ご挨拶周りの間、ちゃんとおとなしくしているんだよ」

「はぁい、分かってるってば」

「こら、みっともなくキョロキョロしない!……はぁ、いつになく落ち着きがないな」


心配そうな顔の父に手を繋がれて、僕は大きなお屋敷の広間に入った。

連れて行かれたのは『偉い大人達』の集まるパーティーだ。

頭の上の方では、父が似たような格好のおじさんやお爺さん達に挨拶をしている。


「おや、笈川(おいかわ)様。可愛らしい方をお連れで」

「うちの長男の颯斗と申します。颯斗、旭様にご挨拶なさい」

「はいっ、笈川颯斗ともうします。初めまして、あさひさま」


元気よく名乗ってにこっと笑いかければ、たいていの大人たちは笑い返してくれた。

頭を撫でてくれる他人の手が、僕は好きだった。

その瞬間、世界に僕のことを好きな人が、一人増えるのだから。


「可愛らしい御子だ。笈川様も、長生きせねばなりませんなぁ」

「いやぁ、やんちゃ坊主で困っておりますよ」

「うちの孫娘がアルファでね。年の頃もちょうど良い。今度颯斗くんを連れて遊びに来てくださいな」

「これはありがとうございます。またいずれ、ぜひ」


人の良さそうなお爺さんの誘いを、父が嬉しそうに受けているのを上の空で聞き流しながら、僕はずっと、会場のどこかから感じる甘い気配に気を取られていた。

ドキドキと、心臓が妙に高鳴っている。


きっと、僕の『運命』はここにいる。

そう思った。




だから、彼を見つけた時。

僕は迷わずに駆け出したのだ。




「っ、見つけた!」

「へ?こ、こら颯斗!どこに行くんだ!」


人混みの中、頭半分飛び抜けた長身痩躯に、一際煌めくオーラを纏う男が目に飛び込んでくる。

急激に甘さを増した香りの発生源に向かって、僕はまだ短い足を全力で動かして駆け寄った。


「つかまえたっ」

「うわっ、な、んだい君は。どこのお家の子?」


近くの男の人と話をしていた彼は、突然自分の足にしがみついてきた小さな僕に目を丸くした。

けれど僕は興奮のあまり、彼の問いかけに答えることもできず、一息に言い放った。


「はじめまして、結婚して下さい!」

「……はぁ?」


唐突に告げた僕に、彼は一瞬の無言の後、思い切り怪訝そうに鼻白んだ。


「はっ、颯斗!?お前は何をっ。も、申し訳ありません、久遠(くどう)様」


足早に追いかけてきた父は僕の体を捕まえると、慌てて抱え上げる。


「誠に失礼いたしました」

「いえ、笈川様、幼い子供の言うことですから、お気になさらず」

「ありがとうございます」


丸い顔に汗の粒を浮かべながら謝罪する父に、彼は綺麗な笑みを浮かべて首を振る。

あっさりとなかったことにされそうな気配を察知して、慌てた僕は、目の前の『運命の相手』に向かって必死にアピールした。


「お兄さん、くどうさまって言うの?僕は笈川颯斗、七歳です!結婚してください!僕をくどうにしてください!」

「はははははははやとっ!お前はもう黙りなさい!!」


悲鳴のような声で僕を窘め、黙らせようとする父に穏やかに笑いかけ、彼はさらりと話を変えた。


「はっはっは、笈川様のところのご長男は面白いお子さんですね。お姉様の凛華(りんか)様はしっかり者でしたが」

「はい、跡取りの長女はしっかり者のアルファでしたが、この子は上の子と八つも離れた子で、私も妻も甘やかしてしまったためか、どうにも奔放な甘えっ子でして。失礼を致しました」

「親に甘えられるのは幸せな子供の証拠ですよ。可愛らしい子じゃないですか」


だらだらと汗を流す父に、彼は肩を竦めてにこやかに、けれど明らかに作り笑いと分かる表情で話しかけた。

彼が完全に僕を無視して、僕を抱いている父にのみ話しかけていることがとても悔しくて、腹が立った。

だから僕は、その綺麗な顔をこちらに向けたくて、大人達の会話に、大きな声でハキハキと割り込んだ。


「オススメ商品です!ぜひお持ち帰りして下さい!」

「……私に十歳下のお子様を持ち帰る趣味はありませんよ」


ピクリと眉を動かしてバッサリと切り捨てた彼に、僕はパァッと表情を明るくする。

思ったより全然年上じゃなかった。

イケる、お似合い夫婦になれる、これはもらった!


「あ、十歳しか違わないんですね!ぴったりの年の差です!結婚しましょう!」

「はやとぉおおおおお」


しつこく続くプロポーズに、父は夕食抜きを言い渡された時の僕みたいな顔をした。

つまり、今にも気絶しそうな顔だ。

僕を抱き上げている腕にはガチガチに力が入り、一歩間違えば絞め殺されそうなほどだ。


「……坊やの勇気と度胸に敬意を表して、一応訊ねましょう。なぜ、そんなに君は僕と結婚したいんですか?」


どうにも引く気のなさそうな僕にため息をつくと、彼は年端もいかない子供の戯言に付き合ってやるか、とでも言いたげな、大人じみた顔で僕を見下ろした。

けれど。


「僕があなたの運命の番だからです!」


僕が言い切った途端、彼の顔から表情が消えた。


「ははっ、()()()()()()()()か……馬鹿馬鹿しい」


それまでの社交的な振る舞いが嘘のように、彼はいっそ年相応なほど苛立ちをあらわにして吐き捨てる。

そして、あからさまな侮蔑を隠しもせず、真冬のような冷たい顔で僕を見下ろした。


「夢見がちなお子様はもう寝る時間です。お帰りになったらいかがですか?」

「はいっ!大きくなったら一緒に寝てくださいね!っむぐ」


けれど限りなく前向きは僕は、満面の笑みのまま言い切った。

真っ白な顔をした父に口を押さえられながら、僕はキラキラの眼差しのまま、情熱を込めて目の前の彼を見上げていた。

へこたれる様子のない僕に、彼は冷たい目でにっこりと笑った。


「……笈川様の教育は随分ご立派なようで。尊敬申し上げます」


氷点下の眼差しで僕たち親子を見下ろす十歳上の運命に、僕は立ち向かうことを決めたのだ。



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