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第二話 もちろん私が同行します。お嬢様のメイドですから



「お祖父様のように、私もなってみたくて」


 お嬢様のお祖父様。

 かの方は、平民の暮らしぶりや話を直に聞く事で領地に適切な先行投資を行い、領地経営を成功させた立役者であり、領地における税金の考え方を根本から変えた人もである。


 偉大な方だ。

 少なくともこの国で、その人の事を知らない人はいないだろう。



 そういえば、かの方の生前、お嬢様はとても懐いていらっしゃった。

 まだ幼かったお嬢様は、いつも楽しそうにかの方のお話を聞いていらして、私もそんなお二人の仲睦まじい姿を、すぐ近くで見ていた。


 そんな方の背中を追いたいというのなら、貴族令嬢が行うには到底常識外の「平民街で暮らす」などという事にも、一応の納得はできる……のだけど。

 

「お父様とお母様には、そういう方向で既に了承いただいて、近いうちに王家からそのための領地を、一方的な殿下側からの婚約破棄の慰謝料に貰えないか、話をしに行くつもりなの」


 これは「流石はお嬢様」と言っていい筈だ。

 そのための領地を王家から貰うだなんて、行動の規模感がかなり大きい。


 でも言ったなら、うまくやってしまうのだろう。


 お嬢様はいつもそうだ。

 それができるだけの能力と、胆力を持った人だから。


「それで、お父様が出した条件が、今言った『王家との交渉は自分でする事』ともう一つ。平民街で暮らすとはいえ、貴族なのだから『メイドと護衛騎士を一人ずつは連れて行く事』なのよ。だから――」

「もちろん私が同行します」


 即答すれば、彼女は大きく目を開いてパチクリと瞬きをした。


 しかしそれも一瞬だ。

 すぐにフフッと可笑しそうに笑う。


「私もまずはフーに打診しようと思ってこの話をしたのだけど、まさか先に言われるなんて」

「当たり前です。私はお嬢様のメイド、それ以外の仕事をするつもりはありません」


 キッパリとそう言うと、彼女は軽やかな声で更に聞いてくる。


「でも、おそらく私がこれから行く事になるのは、王都から離れた一領地。のどかな土地で、もちろん都会ではないわ」

「そんな場所に行くのなら、尚の事ついていかなくては」

「私も自分の事は自分でするつもりだけど、連れて行く使用人は貴女一人よ? もしかしたら負担が大きいかも」

「問題ありません。こなします」


 すべて即答したところ、彼女はクスクスと更に笑う。



 お嬢様が楽しそうなら、それでいい。

 私の口角も自然と上がった。





 お嬢様はきっとやるだろう。

 なら私はどうしたらいいか。

 優雅な所作で音もなく紅茶を飲むお嬢様の隣で、私は今後について考える。


 田舎の領地に行くにあたって必要なもの。

 この王都から持っていく必要があるもの。

 お嬢様のためになるもの……。



 幾らか候補はあるけど、一番はまず服だろうか。


 平民たちに紛れたいという事だから、今までの服は着られない。

 平民街でも違和感のない、しかしちゃんとお嬢様に似合う服を選ぶ必要がある。


 お嬢様のための行動は、何をするにしても楽しい。

 選ぶ楽しみが増えた事自体は少し嬉しく思いながら、私は数日間を過ごした。 



 そして。


「フー、アリステリア様についてクレーゼンに行くんだって?!」


 男の声に、振り向いた。


 そこには、日焼けした肌に一目で鍛えていると分かる体躯。

 焦り顔をした、短髪の男が立っていた。



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