冒険者、動くマネキン人形悪役令を発見する
周囲一帯が綺麗になったが、良くも悪くもわかりやすくなった。
「これからどうするんですか、アルノートさん」
「まあ、変わらんだろ、食料調達だ。あとはその資金を集めるためのモンスター退治だが……」
「あんなのと戦うの、私ちょっと勘弁なんですけど」
「俺もだよ、というか、ここのモンスター、ちょっとヘンだよな」
「ですね、上手く言えませんけど」
通常、他の位相世界におけるモンスターとは、その場所における脅威だ。
それは多少の違いこそあれど共通しているのが常だった。
ゴブリンやらスライムやらの、弱くて群れる敵対生物だ。
しかし、ここではそうしたものはおらず、代わりに奇妙なものが出ている。
「そういうものだと把握しておこう。この世界の人間たちが脅威に思う対象は、俺たちのとは異なっている」
「脅威、だけなんですかね?」
「と言うと?」
「変な要素みたいなのが混じってる気がします」
「そうか?」
手近な建物に入る。
やけに立派なものだが、自由に入れるということは他者の出入りが許されている場所だろうと推測ができた。
その名称を示すものであろう『デパート』という文字はわかったが、その意味まではアルノートは理解できなかった。
そして、やけに冷えた店内を見渡し、言った。
「あー、ソフィアの言う通りかもしれん……」
一階部分は広く様々な品が並べられており、ひと目で高級路線の店であると分かる。
その中央付近、階段の辺りでいくつもの人型がいた。
マネキンであった。
しかしながら、六体ばかりのそれらは彼らの世界で見たような豪奢かつどこか悪趣味な衣服を着こなしており、思い思いのポーズを取っていた。
大半が口元に手を当て高笑いしているような姿勢で硬直している。
「……」
無言のまま『識別』をすれば――
それらは『動くマネキン人形悪役令嬢』と表記されていた。
「よく分からん概念が、絶対これ混じってる」
+ + +
二人は食糧調達のために来ている、そのためには金銭を得る必要がある、そのためにはモンスターを倒さなければならない。
当然、これら動くマネキン悪役令嬢人形もその対象だ。だが――
「上手くいえないが、なんか引っかかる、今この段階では倒したくない」
「え、私、いますぐぶん殴って粉々にしたいんですけど?」
「殺意高すぎだろ、なにがそんなに気に食わないんだ」
「普通に顔が変形するまで殴り続けなきゃ、って気になりません?」
「むしろあのマネキン、顔とかついてないだろ」
「そうですが――」
不満そうに拳を固めるソフィアにアルノートは頷いた。
「そうか……あの手のあからさまに目立つモンスターは、だいたい二種類だ」
「なんです?」
「隠れる必要がないくらい強いか、倒されることが目的になっているかだ」
前者の例は、先程出会ったダッシュばばあ転生トラックだった。
後者の例は、アルノートが遭遇したことがあった。
「倒した瞬間に発動する呪に近い雰囲気がある、向こうから積極的に襲ってくることはないが、条件を踏んだらひどい目に遭う」
「私のこの壊したい欲も、そのせいですかね」
「たぶん、関係ねえんじゃないかなあ……?」
大回りで階段に向かった。
動く階段の方にソフィアは興味津々だったが、そちらの周辺はマネキン悪役令嬢人形が陣取っている。
「……なんか、あれ動いたか?」
「知りませんよ」
「ポーズが変わった気がしたんだが」
「見たくないですー」
「まあ、放置するに限るか……」
「いいから行きますよ」
不審そうな筋肉魔術師を引っ張って、不機嫌な聖女は階段を登り、二階を一瞥してすぐに上へと行く。
「この階は、いいのか?」
「エルフ的に駄目なにおいです」
小物および化粧品はスルーされた。
「お、おう」
そうして三階に到着してしまった。