冒険者の、あんまり冴えてないたった一つのやり方
「よかった、もう大丈夫そうですね」
ヒロイン・ハナコは心からの笑顔だった。
裏などまったくないその表情は、しかし、モンスターだった。
「ありがとうございます、大変助かりました」
「うす」
「いやソフィア、助けられたの俺だけど、その態度はどうなんだ?」
「べーつに、いいじゃないですかー」
無い小石を蹴っていた。
「拗ねるな、ああ、それと、ハナコさん? 申し訳ない」
「なにがですか?」
「気づかなかったとはいえ、おそらく俺たちは出会い頭に貴女を攻撃してしまった」
「あ、そんなことですか、気にしてませんよ」
朗らかな保証に、よし、と心の中でガッツポーズを取る。
敵対ルートから一歩外れた。
ソフィアは唇を尖らせて、つまらなさそうな顔をしていた。
「不幸な出来事も、きっといい明日に繋がっているんです!」
「たしかに、そうかもしれません」
「へー、ふーん」
「これからいい関係を築ければいいと思います!」
「すばらしい考えだと思います」
アルノートがヒロイン・ハナコからまったく目を離さない様子を認めて、ソフィアはゴツゴツと彼の脇腹を殴っていた。
「ああ、そういえばわたし、記憶がないんですよ、ここがどこかも分かりません、もしよろしければ、一緒に行きませんか?」
ここだ、と彼は確信に似た思いで考える。
ここでの選択が、何よりも重要だ。
「申し訳ありません、それはできません」
「ああ、それは――」
ざわり、と世界そのものが牙を剥く感覚に背筋を冷やしながらも彼は言う。
「一つ目は、貴女が俺たちよりも強いことです。むしろ俺たちが足を引っ張るでしょう。二つ目は、俺たちもまたこの世界に不慣れです、案内役にはなれません。三つ目に――」
拗ねて定期的にアルノートの足を踏むソフィアを引き寄せ、抱きしめた。
「ふあ!?」
「妻以外の女性とあまり親しくすることは、良くないですからね、ずいぶん拗ねさせてしまった」
無論のこと、結婚したという事実はない、デタラメだ。
胸に抱き寄せた聖女の疑問の叫びを、アルノートは強く抱きしめて抑えた。