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異世界超能力者  作者: 天羽ヒフミ
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第九話 差別

救世主、天草四郎との対立があった後からまた騎士団員の態度が変わった。

アルバートさん達が計らってくれたのだろうか。

それはわからないが、全員が今までの態度に謝罪してきたのだ。

わざわざ頭を下げてでだ。

この手のひら返しのような態度には女神様もびっくり。

私もこの態度の変わりようには驚いていた。


しかもだ。

誰も嘘をついていないのである。

テレパシーで強く伝わってくるのは、後悔や情けなさといったネガティブな感情のみ。

本当に心から私に謝罪してくれていることが分かった。

素直に喜ぶべきことなのか、それは分からないがとにかく私の存在意義は守られたようだ。

それだけは確かなので彼らの謝罪を受け入れることにした。

人間、時には折れる事はとても大事な事だ。


「驚いたな…。僕は特に指示を出したわけではないんだが。」

「それはテレパシーで確認済みです。…どうしたんでしょう。」


訓練場にてアルバートさんと共に首を傾げる。

ジェームズさんは訓練の指導を行なっていた。

私はここしばらくは雑用を中心にこなしていたが、今は騎士団員達の態度が戻ってからは再び身体強化や模擬戦闘などのお手伝いをしている。

そんな今だが超能力で身体強化中でお手伝い中である。

最初の頃とは違ってもう加減は完全に把握済みだ。

片手で出来るようになり、アルバートさんとも会話する事が出来ている。


「もしかして…シロウ殿が何かしたのか…?」

「天草くんのことですか?」


天草四郎。

数日前にこの世界に転移し、私を化け物扱いした挙句に殺そうとしたとんでもない人物。

本人は殺しかけたことに無自覚というのが一番恐ろしい。

何が悪いことだったのか分かっていない、善悪の意味すら知らぬ幼き子供のような少年だ。

彼がどのような人生を歩んできたのかは分からないが、これだけは分かる。


お前、人間として最悪だわ。


暴言は吐かないようにと両親にキツく言われていた私だが、あの出来事からこれくらいは許されると思うのだ。

まぁ、暴言を吐くと言ったところで本当に本人に言うという選択肢はないが。

だが彼が何か騎士団員にした、というのなら一体何を…?


「関わりたくないので聞きますが彼はどうしているんですか?」

「今は、魔法騎士団から魔法の勉強をしているそうだ。…と言っても、なかなか上手くいっていないようだが。」


魔法騎士団。

ゴブリン騒動の時にジェームズさんの口から聞いた言葉だ。

もうこの世界に来て短くはない時を過ごしていると思うのだが、その言葉の意味を私は未だ知らない。

模擬戦闘の前に丁度いいタイミングだ。

私はそのことを尋ねてみることにした。


「あの、魔法騎士団ってなんですか?」

「あ…。すまない!すっかり説明を忘れていた。…いや、忘れてくれていた方が良かったかもしれないな。」

「えっと…。」

「優れた魔法使いの騎士団の事だよ。王家直属で、我々王国騎士団と表面上は協力関係にある。」


表面上。

その言葉で何となくだけれど察してしまった。

あのアルバートさんが『表面上』とわざわざ言っているのだ。

関係は芳しくない、と考えるのが妥当だろう。

恐る恐る青い瞳を見上げて見つめる。

青空のような透き通っている瞳は微笑みを浮かべて細めた。


「ルリは察しがいいな。我々は戦闘に優れているが魔法は一般人程度。つまりは、見下されているんだよ。」

「そ、そんな…。だって、魔法って。」

「魔法はルリの思っている通り、当たり前に存在するもの。だが、扱いが上手い者と下手な者がどうしても現れてしまうんだ。」

「その…努力ではどうにもならないんですか?」

「そうだな。現実というのは時に残酷だ。魔力は生まれつき決まっているし、扱える魔術も大方決まっている。だから、差別というものが発生してしまうんだよ。」

「そんな…差別だなんて。」


超能力しか使えない私からすれば、魔法は奇跡のようなものだ。

扱いが上手いだろうが下手だろうが関係ない。

それが出来る、ということだけでとても凄いし素晴らしいことだと思うのだ。

…でも、その考え方はおかしいのかもしれない。

価値観が、やっぱり違うのかしら。

超能力のコントロールはしっかりしつつ、考え込んでしまった。


「差別はルリの世界にはあったかい?」

「ありましたよ。…沢山、ありました。でも、この世界は違う。納得いきません。」


キッパリと自分の思う事を述べた。

えぇい、価値観がおかしいだろうが関係ないわ。

私の価値観で言わせてもらおうじゃない。

差別だなんて現代の日本じゃ古すぎるわよ!


「ハハハッ!ルリは面白いなぁ。良い子だ。」

「…良い子ではないですよ。良い子だったら、私は天草くんを許していたんですから。」


少し声を小さくしてそう言った。

私は悪い子ではないだろうが、少なくとも『良い子』ではない。

良い子であろうと努力はしているが、時より良くない事はしてしまう。

人間は常に何かしら悪い事をしている生き物だから。

完璧な人間なんていないように、私はただの普通の子だ。


「君は良い子だよ。だって彼を傷つけなかったじゃないか。」

「超能力は人を傷つけるものではありませんから。」


例え、もう一度殺されそうになって怒りを覚えたとしてもこの力を向ける事はないだろう。

人に刃物を向けてはいけないように。

この力を人に向けて良い理由はどこにもない。


「……魔法騎士団はそうじゃないんだ。だから言わなかった…忘れるようにしてた。伝えたくなくて。だってあの連中は魔法で平気で人を傷つける。」

「………は?」


そんな連中が居て良いのかしら。


目を見開いた。

魔法だって人を傷つけるためにあるものではないだろう。

奇跡に近い力はきっと何かを守るためにあるのだと思う。

だから当たり前に存在している。

理由がなければ当たり前に存在するよう女神様が創るはずがない。


「国防の為の力だったのだけどね…。人間とは本当に愚かよ。」


予想通りの答えだった。

女神様は冷たい視線と声で呟くようにそう言った。

いつもの明るさは何処かに消えてしまっている。

深層のエメララルドグリーンの瞳は目を細めていた。

魔法騎士団。

そこに居る天草四郎。

危険因子が二つ揃ってしまっていることに気がついた。


「騎士団員が態度を変えた理由は天草くんでほぼ確実ですね。魔法騎士団にいるのでしょう?」

「…そうだろうな。反省は良いことだが、喜ぶべきことではない。困ったものだ。」


天草くんに一体何をされたのか。

もし魔力で何かされたのなら、この女神様が見逃すわけがない。

魔力探知が秀でているかどうかは知らないが、天草くんの魔力を探知出来るのだから。

だからこそあの時に事前にバリアを強化できたのだ。


「……瑠璃。手伝いが終わり次第話があるわ。私は魔法騎士団の監視を直接する。」

「え、えぇ…分かったわ。」


小声で返事をする。

ピリピリとした空気が一瞬だが流れた。

この女神様が直接監視するほどの事態だなんて、重い空気と共に押し黙ってしまう。

千里眼で把握してるはずの彼女がわざわざ出向くのだ。

相当のものだと考えて良いだろう。

返事をどうにかする以外、私に出来ることはなかった。


(テレパシーで伝わってきた後悔や情けなさ…あと恥じらいもあったわ。…まさかね。)


超直感が発動していることに気がつく。

天草くん。私を化け物扱いしただけじゃ飽き足らず──。



また『言葉』で人を傷つけたのでは、ないでしょうね。



身体強化を止める。

次は模擬戦闘だ。

準備に時間がかかるので私は指定位置で待機をしてる。

…あぁ、こんな能力なんていらないと心底うんざりしながら思う。

あれだけアルバートさん達に怒られていたというに彼は全く反省していないということになる。

あの謝罪の意味は?

そんな人物が、救世主?

何かを救うというの?

救えるというの?

漢字を間違えているのではないのかしら。


目を閉じて能力を抑えるように努める。

大丈夫。もうコントロールは出来る。

今は人外に悪意に当てられていないのだから、関係ない。

深呼吸をして力を抑えた。


「では、模擬戦闘始めるぞ…ってこの気配は!?」

「どうかしたんですか。ジェームズさん…って、え?」


指定位置に居る私は何も気配を感じることが出来ない。

ジェームズさんが慌てた様子で上空を見ている。

…もしかして、私は今危険な状態なのだろうか。

意味がないかもしれいけれど、やっておこう。


念の為にバリアを素早く張り、強めに力を流し込んだ。


すると──違和感があった。


バリアが何かの力を吸い込んでいる。

それを糧にし、さらに強度が勝手に上がっていた。


(何よこの力…超能力ではないわ……。)


わけが変わらない力を取り込んだことが不気味に思えて仕方がない。

今のところ身体に異常はないけれど。

この正体不明の力は何…?

怖くて両手で胸元を掴む。

私が怯えているのに気がついたのか、ジェームズさんが駆け寄ってきた。


「ルリ!平気ですか…!」

「ジェ、ジェームズさ、ん…わ、私……。」


駆け寄ってきてくれた彼の為にバリアを解除した。

自分の身体が震えていることに気がついた。

決して寒いわけではない。


──正体不明の力が、怖いのだ。


安心させるように彼は私の肩を抱いてくれた。

深紅の瞳が辛そうに細まっている。

その瞳には私の顔が反射されていた。


あぁ、なんて情けないの。


反射された自分の顔を見てそう叱咤した。


「我が騎士団の恩人に向けて、随分なご挨拶だな。アーノルド・ゴア。」


目を見開いてしまった。

震えが思わず収まってしまうほどに。

温厚なアルバートさんから殺気が放たれていることに気がついたのだ。

彼は私を庇うかのようにして目の前に立ってくれている。

逞しい背中と赤い髪を見つめていると、恐怖が少し吹き飛んだ。


──いつも私の心を守ってくれる背中だ。


大丈夫よ、私。

自分に鼓舞して、アーノルド・ゴアと呼ばれた人物を見つめた。

その人物は私と同じ黒髪だった。

確かこの世界において黒髪は珍しいものだったはずだ。

私は異世界からの人間なので例外だが。

長髪の髪と金色の瞳に整った顔。

そして黒いローブ。

映画に出てきそうな魔法使いの装いだった。

金色の瞳が弓形に細められる。


「これは失礼しました、アルバート殿。そこに居る化け物の確認をしたかったのです。…なるほど、魔力を取り込んで自らの力に変換する。女神の加護も受けて居るようですね、化け物の分際で。」

「魔法騎士団長、それ以上の侮辱は我が騎士団への侮辱と看做すぞ。」

「侮辱?化け物を化け物と呼ぶことが何故侮辱になるのです?」


天草くんタイプの人間ね…。

会話を聞いていて彼の人物像が大方理解できた。

この人が魔法騎士団が一人、しかも団長。

そして天草くんか、王族から私の話を聞いたのだろう。

化け物と連呼しているのが証拠だ。

それでその化け物の耐久テストの為に魔法をぶつけてきた、と。

流れとしてはそんなところだろう。


ではこの正体不明の力が魔力というものなのか。


…正直、力を行使する時に違和感があったのであまり良い感覚とは言えない。

身体に害があるものではないということが分かって僥倖と言えるものではあるけれど。

肩を抱いて守ってくれいてたジェームズさんの手をそっと握ってから離れる。

大丈夫、と口パクで伝えて。

私はアルバートさんの隣に立った。


「初めまして、土御門瑠璃と申します。私の名前は化け物ではなくて、ルリという名前がありますのでよく覚えておいてくださいね、アーノルドさん。」


絶対に力なんか使うものか、という決意を元に私は口にする。

そしてわざとらしい笑みを浮かべて見せた。


「ルリ…。」

「アルバートさん、いつもありがとうございます。私なら平気ですよ。」


心配そうにする彼に満面の笑みを浮かべてから私はアーノルドさんに向き直った。

魔力を吸収する加護があるのならなんてことはない。

恐る必要は、ない。

ただ、確認したいことがあったので尋ねてみることにした。


「天草くん…シロウくんは、彼はここで何をしましたか。」

「シロウ殿がここで?私は何も知りませんよ、あのただの魔力持ちなど。」


王家の命令でなければあんな小僧の指導もしていません、と付け加えていた。

…彼のことを許したわけではない。

けれど彼すら見下すのか、この人は。

私は静かに怒りを覚えた。


この人は私が女神の加護を受けて魔力を吸収していると勘違いしているようだが違う。

私は超能力で他人のエネルギーを吸収することが可能なのだ。

これは小さい頃に貧血で倒れた私に父が、「超能力で治るなら使ってみなさい。」と言ったことがきっかけで発動した能力だった。

そのお陰で貧血は治り、また幽霊と遊びに出掛けたのを覚えている。

倒れたのに無理をするなと後で父には怒られてしまったけれど。

どこまでが奪えるエネルギーなのか、どの種類のエネルギーまでなのかはあまり使わない為に判明していない。

だが少なくとも魔力は奪えるみたいだ。

天草くんの時はバリアで弾いてしまったから全く気が付かなかったけれど。

今回は吸収も可能なバリアを張ってしまったからこうなったのだ。


アーノルドさんと対峙していると、女神様からテレパシーが飛んできた。


『あのクソガキがそっちに向かったわ!テレポートで逃げなさい!』


声がブチ切れていた。

何かあったのは明白だが、それを気にしてる暇はなさそうだ。

私は両手を挙げて降参のポーズをする。


「誠に申し訳ないんですけど、今日はこれで失礼します。アルバートさん、給金引いてて良いですからね。それでは、ご機嫌よう。」


一礼し、自室へとテレポートした。

透視で誰もが唖然として私を見ていたのが確認できる。

驚かせてしまったのは申し訳ないが、この手段しかなかったので許して欲しい。


(うわ、本当に来たわ。危機一髪とはこのことね。)


訓練場を透視していると、天草くんの姿が見えた。

瑠璃〜!と言いながら訓練場に許可なく侵入している。

私の名前をファーストネームで、しかも呼び捨てで呼んでいい許可を出した覚えなど一度もないのだが。

怒りのボルテージが少し上がった。

彼に関してはなんだが怒ることばかりだ。

疲れるのでいい加減にしてほしい。


「良かった、無事ね。」


こちらも許可なく侵入してきたが、女神様ということで目を瞑ろう。

それに彼女の警告がなければどうなっていたことやら。

考えるのも悍ましい。


「警告感謝するわ。会っていたらと思うとゾッとする。」

「そうでしょうね。それで話というのはあのクソガキがしたことよ。」


冷たい声が響き渡る。

深層のエメララルドグリーンが細められていた。

やはり何かしでかしていたのか、彼は。

思わず唾を飲み込んだ。





「あのクソガキ、王国騎士団を魔力の少ないクズの連中と呼んだのよ。」




時が、止まった気がした。


あの落胆した騎士達の理由が、ハッキリとわかった。























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