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異世界超能力者  作者: 天羽ヒフミ
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第六話 誕生日と暴走

この世界に来て早くも一ヶ月。

価値観も何もかも違う世界でやっていけるのか、多少の不安はあったもののどうにかして私は生きている。

意外と私という人間は環境適応能力が高い方なのかもしれない。

訓練のお手伝いはというと、週休二日制でやらせてもらっている。

この手伝いがあるから、私はここに居ても良いのだと勝手に存在価値を見出していた。

……まぁ。

このネガティブな考え方は良くないと思うのだけれど。

でも、今の自分に出来る精一杯の考え方だった。


「おはよう、ベアクール。」

「あら、おはよう。今日はお寝坊さんなのね。」

「今日は祝日だからお休みだって、昨日アルバートさんが言っていたじゃない。」


あれから当たり前のように私の周りについてくる女神様。

もうそのことには慣れたから良いのだけれど。

彼女のことは無視して、ベットから降りて洗顔をする。

この世界にも目覚ましがあったので助かった。

アルバートさんにそのことを聞いたと時は速攻で買いに出かけたものだ。

今日は必要ないから目覚ましはかけていないけれど。

寝間着から地味目の色合いをしたワンピースをクローゼットから引っ張り出して着替えた。

無駄に長い黒髪を櫛で解かして、いつもより遅い時間だが身支度を整えた。


「建国記念日だったわね。そんなもの、もう飽きてしまったわ。」

「貴女の誕生日を祝う日じゃないの。」

「瑠璃にも分かる日が来るわ。」


国民が知ったら卒倒するだろうセリフを難なく言う女神様。

誕生日が飽きる日なんて来るのだろうか。

十七歳の私にはまだ実感が湧かない。

まだまだ人生経験というものが足りないのだろう。


「今日は何をするの?」

「そうねぇ。いい加減、このお城から退去した方がいいと思うのよ。」

「は?」

「いつまでも、お世話になるわけにはいかないわ。」

「はぁ?」


コイツは何を言っているのかしら、とでも言いたげな表情をする女神様。

なんなのだろう。

まるで喧嘩を売られた気分だ。

買う気分ではないから買わないけれど。

随分と失礼な表情のような気がする。


「貴女、馬鹿だったの?」

「いきなり人を罵倒とは何よ、失礼な神様ね。」

「魔王から国を守った人間が街中で生活をするつもり!?」


なんだそんなことか、と思う。

確かに魔王の出来事は私の中では誇りに思っていることだ。

しかし、大したことをしたかと言えば全くしていない。

誇りに思っていることと、やったことは私にとっては別物だ。

この世界の人間はたかが超能力に大袈裟だと思う。


「私にとっては大したことではないわ。」

「そう言うと思っていたけど、それでもよ!」

「今は訓練のお手伝いで給金も頂いているし、生活に困ることもないわ。何の問題があるというの?」


最初は断っていたのだが、訓練開始二日目からのことだ。

アルバートさんに押し付けられるように給金を渡されるようになったのである。

衣食住も提供して貰っている身で、お金まで頂くのは贅沢ではないかと思っていた。

だがそこで閃いたのだ。

上手くやりくりすれば、ここでお世話になる必要もなくなる。

少しの罪悪感にも似たものをずっと感じていたので、これで気にしなくて済むようになると。

もちろん、アルバートさんにはそんなつもりはないと思うのだけれど。


「だから、今日は住居探しよ。」


祝日にすることではないだろうが、思い立ったが吉日というやつだ。

私は実行を決意した。






「納得いかないわ。」


お城を出て早々、女神様は不満を漏らした。

正直、先程から喧しいと感じているがどんな天罰が待っているか分からないから黙っている。

別に貴女が住むわけではないのだから、何故不満に思う必要があるのか分からない。

私は基本、お城から出ることはない。

だから街中までの道のりはとても新鮮だ。


勘違いしないで欲しいのは、何も引きこもっているわけではないということである。

お城には大きな庭園がある。

そこには色とりどりの花が咲いており、まず見ていて飽きることはない。

話し相手も退屈することはない。

メイドさん達やアルバートさんやジェームズさんがいる。

特に二人はほとんど毎日のように登城しているので、話し相手に困ることがないのだ。


よって退屈することがない。

そんなことを思いつつも、現代っ子だった私はスマホが使えないという状況は少々不便に感じることはあるが。

食事も提供されているので、わざわざ街中まで買い出しに行く必要もない。

以上のことからお城の周辺から出る必要性がないのだ。

だから、お城から出るということがほとんどなかった。


「道案内頼むわよ。」

「女神をこき使うだなんて信じられないわ。」

「だって、せっかくの休日に誰かを誘うわけにはいかないじゃない。きちんと身体を休めないと。」

「瑠璃って変なところで気を遣うわよね。」

「私にとっては当たり前のことよ。」


溜息を漏らしながら女神様に言う。

……もちろん、今言ったことは本当のことだが本音は違う。

私が喪女ということを思い出して欲しい。

休日に誰かを誘うだなんてそんな高等技術を持ち合わせていないのである。

それに、私の周りに居る人々はやたらと顔面偏差値が高すぎる。

地味な私がその中に混じるだなんてことを想像すらしたくなかった。


「今日はやめておいたら?祝賀祭が行われているはずよ。」

「それが何?」

「人混みが凄いということよ。」

「なんだ、そんなこと。別に気にしないわ。」

「人の話を聞かない子ね!」


どうやらこの女神様は、親切に道案内も物件も紹介してくれないらしい。

ならば超能力を使うまでだ。

───と、その時だった。


「今日くらい超能力を使うのはよしなさい。私の誕生日なのよ?」


その誕生日が飽きたと言っていたのは、はたして誰だったか。

自分の記憶力を疑ってしまう。

それに超能力と誕生日は関係ないと思う。


「それとこれとは別なのよ。全く、乙女心というものを分かっていないわね。」

「誕生日に乙女心も超能力も関係ないような……。」

「何か言ったかしら。」

「いえ、何も。」


今にも怒り出しそうな雰囲気だったので、流石に発言を自重した。

女神様が怒り心頭だなんて考えたくもない。

今日は建国記念日だというのに、国が滅ぶ最期の日になってしまうかもしれない。

超能力で止めれば良いじゃないか、と思うかもしれないがそんなことに使いたくはない。


触らぬ神に祟りなし、というやつだ。

……この人、本当に神様だけど。


でもまぁ、超能力を全く使わない一日というのも偶には良いかもしれない。

訓練のお手伝いは例外として、自分の為に毎日のように使っているわけではないけれど。

便利なものだけれど、あくまでも私の身体の一部に過ぎないから。

なんてことのないものだ。


「じゃあ、祝日らしく祝賀祭でも楽しんでこようかしら。」

「それでこそ、私の認めた友達よ。」


その言葉を私は無視をした。

私は決してこの女神様の友達ではない。

関係性を強いて言うなればただの知人だ。

他人が見たら酷い人間だと思うかもしれない。

臆病者めと思うかもしれない。

けれど。



───沢山の違いでお互いが傷ついてしまうよりはずっと良いと思うの。



友達とは価値観が違うのは当たり前のことだ。

十人十色という言葉があるのだから。

だが、人外は違う。

人間ではないものはどうしても価値観以上のものが違うのだ。

それを幼い頃に経験し、深く傷ついた。

だから私はこの女神様とは友達になるつもりは一切無い。

知人程度の関係くらいなら良いと思ってはいるけれど。


返事をしない私に女神様は疑問を投げかけない。

もしかすると、私の心情を見抜いているのかもしれない。

最後まで友達だと言った本人は、何も言うことはなかった。





女神様の案内で街中までやってきた。

祝賀祭と言うだけあり、人でとても賑わっている。

途中、歩きながら不動産屋さんのようなものがないかついでに探してみたが彼女に止められてしまう。


何故。


睨みつけるように見つめてみると、祭りの日に無粋な真似をするなということらしい。

変な拘りを持つ女神様だなと思った。

でも、私は効率的な方法をしてみただけだ。

一々と立ち止まって探すよりはずっと良いはずなのだと思うのだけれど。

やはり神様とは考え方というのが合わないな、と内心一人で納得した。



街中は様々な花で彩っていた。

祝賀祭というよりも、花祭りと言った方が妥当かもしれない。

日本でもこのような祭りはあっただろうか。

祭りのことも、花のことも詳しい方ではないのでよく知らない。

元の世界にほんの少し思いを馳せた。

そんな中、一つの花を見つけた。


いや、正しくは一種類の花の色違いを大量に見つけた。


これは元の世界でも見たことがある。

マリーゴールドだ。

確か、花言葉は色によって違ったはずだ。

どんな花言葉だったか記憶を辿ってみる。

花の知識が疎い私がどこまで辿り着くかは分からないが。


「どうしたの?瑠璃。」

「これ、マリーゴールドよね。」

「えぇ、そうよ。もしかして、貴女の世界にもあるの?」


どこか嬉しそうに女神様は話しかけてくる。

まるで無邪気にはしゃぎ回る子供のようだ。

今日は彼女の誕生日だけれど。

今の会話でそんなに嬉しそうにする場面があったのだろうか。


「その通りよ。花には疎いけど、マリーゴールドは知っているわ。」

「フフフ。マリゴールドは国花なのよ。私の花なの。」

「……あら、そうだったの。」


嬉しそうな表情をしている理由が分かった。

彼女を象徴とする花なら納得だ。

日本の国花は確か菊だったか。

少し、不躾なことを思ってしまたったかなと反省する。


「花言葉を思い出そうとしていたのよ。色によって様々あったはずなのだけれど。」

「花言葉?なぁに?それ。」


その言葉に思わず固まってしまった。

もしかして、いや。

もしかしてもなく、この世界には花言葉が存在しないのだろうか。

この女神様が頓珍漢な発言をしているのだ。

その可能性は極めて高い。


なら誕生花は?


もしかしてその概念もないのだろうか。

聞いてみると、ないようだった。

花言葉や誕生花について簡単に説明すると、更に喜んでいた。

この国にもそんな概念があったらどんなに良いかと。

女神様は大層喜んだ後に、少し寂しげにそう言った。


『マリーゴルドの誕生花の言葉って知ってる?』


ふと、幼い頃の記憶が頭をよぎる。

あの子は同い歳くらいの女の子の幽霊だった。

私より博識でとても優しい子だったということくらいしか覚えていない。

とにかく良い子であったということだけはハッキリと覚えている。

その少女は自分の誕生花がマリーゴールドだと言っていた。

疎い私が教えてもらった唯一の誕生花の言葉。


それは───。


「誕生花にも言葉があるのよ。『信頼』、『変わらぬ愛』。これがマリーゴールドの誕生花の言葉よ。」

「……。」


柄にもなく、女神様は深層のエメラルドグリーンの瞳を見開いて言葉に詰まっているようだった。

こんな彼女を見るのは初めてかもしれない。

いつもコロコロと表情が変わり、明るい彼女。

私とは違って壮絶な美人。

神様だからなのか、いつも壮絶上から目線の彼女が。

そんな彼女が固まっているのだ。

そこまでの言葉だっただろうか、と考えてみる。

……私にはついぞ分からなかった。


「そう…。信頼と変わらぬ愛ね……。とても、良い言葉だわ。」


何と表現すれば良い分からない表情をしていた。

悲しそうな。

切なそうな。

嬉しそうな。

どう一言で表現すれば良いか分からない表情だった。


私にとってはなんて事のない言葉だったけれど。

長い歴史を持っている彼女にとっては違う言葉に聞こえたのかもしれない。

テレパシーを使えば一発で心が分かる。

でもそれは、あまりに無粋な気がした。

超能力はそんなものの為に使うべきではない。

そんなことに使うくらいなら、人のために使うべきだ。

それに。


その想いと言葉は、彼女だけのものにすべきと思った。

だって今日は女神様の誕生日なのだから。

意図しなかったが私からのちょっとしたプレゼントだ。

そして一言くらいは言っておくべきと考えた。


「誕生日、おめでとう。」


知人の誕生日を祝うくらい、許されるだろう。






建国記念日の翌日の朝だった。

その知らせを聞いたのは。


「報告です!南西の森の方から結界が突破されてゴブリンの大群が押し寄せてきています!」


一人の騎士が息を切らしながら訓練場までそう伝達してきた。

肩で息をしている。

彼の表情からして状況が切迫していることが伝わってきた。

私は騎士ではないけれど、その場に居る人間として真剣に状況を聞いていた。


「結界を突破しただと!?あの魔法騎士団総出で張った結界だぞ!?」


ジェームズさんが声を荒げる。

魔法……騎士団?

もうこの世界に来て一ヶ月以上経つというのに聞いた事のない単語だ。

王国騎士団以外にも騎士団が居るという事だろうか。

いや、今考えるべきことはそこじゃない。


「ゴブリンって漫画とかでしか見たことがないわ。」

「マンガというものは分からないけど、本当に居る者たちよ。魔王の手下であり、悪しき者達の一員。」


女神様が厳しい表情をしている。

綺麗なエメラルドグリーンの瞳が細められていた。

状況は芳しくないようだ。


ゴブリンとは簡単に言うと、邪悪な妖精小人のことを指すらしい。

確かに、私が読んだ事のある漫画などにもそのような風貌であったことを覚えている。

厄介なことに集団で行動するという性質があり、人間を囲んで襲ってしまうのだという。

最悪、死に至るとか。

それらのことを女神様は簡潔に説明してくれた。

結界が破られたと聞いた。

それって。


……もしかして、私が魔王を倒したせい?


少し、冷や汗をかいてしまった。


「落ち着け、ジェームズ。騒いだところでどうにかなることではない。急いで南西の森へ向かう。我々が対処せねば。」

「……申し訳ございません、総騎士団長。取り乱しました。」

「構わん。総員、訓練やめ!迎撃準備に取り掛かれ!」


アルバートさんがジェームズさんを宥めた後、号令を発する。

私にも何か手伝えることはあるだろうか。

私だけ何も出来ないだなんてそんなこと、仲間外れにされた気分で嫌だった。

視線を女神様に移す。


「ゴブリンって超能力が効くかしら。」

「…意外ね。もしかして貴女、戦闘狂?」

「そんなわけないでしょ。いいから答えてちょうだい。」


分かっているくせにわざと答えを引き延ばしている。

このからかってくる態度は嫌いだ。

思わず睨んで催促した。

すると、ニヤリと笑いながらこう答えた。


「魔王の手下だったと言ったでしょう?貴女なら余裕よ。」


女神と名乗って良いものなのかどうかと思うくらいの凶悪な笑みだった。

見てはいけないものを見てしまった気がする。

彼女の表情を私は何も見なかったことにしよう、と瞬時に心に決めた。


「ルリ。もし良ければ力を貸してくれるか?一人、子供が行方不明だそうだ。」

「えぇ、もちろん。私に出来ることがあるのであれば。」


私はアルバートさんのお願いに即答した。

そのお願いは私にとっても好都合だ。

超能力がゴブリンに効くのであれば私の出番だと思う。

テレポートで自室に移動し、クローゼットから汚れても良いスカートを引っ張り出して着替えた。

───よし。

魔王の時とは違って気合いを入れた。







場所さえハッキリと分かっていればテレポートでも行けるのだが、生憎と私はこの国についてまだ疎い。

南西の森、そして禁忌の領域という情報だけではテレポートは不可能だった。

超能力は万能というわけではない証拠だ。

そんなわけで念動力を使って空中を浮游しながらついていくことにした。

馬に一緒に乗せるぞ、というアリバートさんの好意は丁重に断った。

速く走るのが困難になるだろうし、私が馬酔いしてしまいそうだったからだ。

それなら自分の力を使った方が速い。

女神様も共に私と一緒に飛んだ。


「あまり血生臭いことはしたくないの。ゴブリンってテレパシー通じるかしら。」

「魔力と呪いの塊みたいな連中よ。無駄だと思うわ。」

「やるだけやってみるわ。」


小声で会話する。

皆には彼女を視認することは相変わらず出来ないから。

騎士団の移動手段になっている馬達に負担にならない程度に筋力に強化を使いながら、南西の森へと向かった。





到着するとそれはもう悲惨なことになっていた。

生い茂っていたはずの木々や植物は枯れ果て、既に腐敗している。

地面によく目を向ければ、所々に血痕と思わしきものが残っていた。

つまり、ここに人間が居たということである。

アルバートさんからの情報は正しいものだった。


(早く救い出さないと……!)


事態は一刻を争うことになった。

私はすかさずテレパシーを飛ばす。

この声が聞こえたら、返事をしてくださいと。

少しの時間が経った後、聞こえてきた。


『たす……け…て……!』


小さな男の子の声だった。

弱々しい声だった。

男の子が危険な状態であることが分かる。

どうやら間違えて禁忌の領域に入ってしまい、迷い込んでしまったらしい。

けれどここには確か、強力な結界が張っていたとかなんとか……。

ダメだ、雑念が入り過ぎている。

今考えるべきことではないわ、と自分を叱咤した。

聞こえてきた方向に集中する。

透視も使って視界でも把握できるようにした。


「見つけました!十二時の方向を真っ直ぐです!」


近くで指揮を執っていたアルバートさんに報告する。

すると彼はすぐさま再び馬に乗り上げ、アルバートさんを先頭に騎士団員達は同道し始めた。

私は女神様も置いていかれないように飛んで着いて行く。

素直に私の言ったことを信じてくれたことが少し嬉しかった。

彼らの役に立てている気がした。






透視で見ていたから男の子の状態は把握していた。

すぐに男の子は見つかったものの、頭から血を流しており意識を失っていた。

息はしている。

頭といっても額辺りからだ。

そこからなら大量に出血しやすい。

既に私は把握していた。

だからすぐさま治癒の力を使い、治した。

彼は死なない、私が治したのだから。

もう無傷といっても過言ではない。



あぁ───でも。



先程から沸々と湧き上がるこの怒りはなんだろうか。

男の子が禁忌の領域に入ってしまったから?

違う。

よく見れば、男の子の周りの植物たちも全部腐敗してしまってるから?

違う。


そうか、と冷静な部分の私が答えを導き出す。

無垢な男の子をこんなになるまで傷つけたことに私は怒っているのだ。


あぁ。ダメよ私。

もう克服したはずの悪癖が出てきてしまっているじゃない。

私の悪癖。

小さな頃から、私は頭に血が上ると何も考えることが出来なくなるのだ。

理性は残っているというのに何も考えることが出来なくなるだなんておかしな話だけれど。

だから───。






見つけたゴブリンたちを全員、捻り殺していた。





指一つ動かすことなく。

私は、またやってしまった。

もうこの悪癖は小さい頃に克服したはずのことなのに。

もう平気だったはずなのに。

私は、またやってしまったのだ。


自分の未熟さが腹立たしい。

そうして自分に怒りを向けることでしか、起こしてしまったことへの感情の処理が追い付かなかった。

騎士団員の人たちは囲んできたはずのゴブリンが、一気に押し寄せようとした瞬間に全員が捻り殺されていることにとても驚いていた。

せっかく私との模擬戦闘で身体能力が向上し、成果を出せる日が来ていたというのに。

私が全て台無しにしてしまった。


私に向けられたのは恐怖の目。

また、その瞳を向けられるのね。


そんなアルバートさんは少し悲しげに見つめていてのが視界に入った。

青空のような綺麗な瞳には感情を無くした表情の私が写っている。

この場で視界に入った人間で恐怖の眼差しで私を見つめていないのは、彼だけだった。








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