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異世界超能力者  作者: 天羽ヒフミ
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第五話 理由

とんでもない事実をベアクールから聞かされた。

なんと私がこの世界に転移してしまったのはトラックのせいではないらしい。

この女神様が転移させたのだという。

トラックが原因か、何者かによるものか、世界のなんらかの力が働いてそれが原因ではないかと思っていたけれど。

まさか神様によるものだったとは思いもよらなかった。

ずっと疑問に思っていたことを解決することは出来たけれど、そのお陰でまた疑問が増える。


何故?


ただの普通の高校生である私が異世界に転移だなんて。

私が出来ることは超常現象を引き起こすことくらいだ。

ここには魔法の概念がある。

それはきっと超常現象よりもずっと奇跡に近いものだろう。

そんな国の神様だというのにただの小娘を転移させる必要性があったのだろうか。


「貴女の世界は例外だけど、この世界は違う。定期的に世界に危機が訪れるの。今回の規模は大きなものなのよ。」

「危機…?」

「そう、悪き者達に支配されそうになるという時期がね。」


先程までコロコロと表情を変えていた女神様はいなかった。

まさしく創世神といえる威厳を持って真剣に話をしている。

その変わりように思わず姿勢を正してしまった。

別に怖いわけではない。

見ている世界が違うのだと雰囲気で分かってしまったのだ。

かつて国を創った神様。

私はその神様を視認出来るだけ。

見えいてる世界がまるで違うのである。


「他の世界の神々は貴女の世界から救世主や聖女になり得るもの達を転生、転移させたわ。でも、私はそれだけでは足りない。───創世神である私には。」


なるほど、と話を聞いて彼女が抱えている事情を大まかだが察することができた。

まず前提としてベアクールという女神は他の神々と違うのだ。

恐らくそれは格というもの。

創世神といえば言い換えれば大いなる母と変わりはない。

その他の神は子供のように見えるのだろう。

だから格というものが違う。

聞いた限り、相当上の格なのだと思う。

だからこそ力が他の神よりも力が必要なのだ。


…ということは察するにもしや私が転移させられたのは、戦力の補充だろうか。

魔法ではないが超常現象を引き起こすことので出来る超能力者。

それが私である。

それしか出来ないが、そのちっぽけな力でも必要だから転移させられたのだろうか。


「もしかして、戦力の補充で私は転移させられたの?」

「そうよ。貴女だけではなかったけど、最初から当たり前のように私のことが視認出来て尚且つ強大な力を持つ人間が必要だったの。」


特別で強大な力……?

超能力のことではないわよね、と考える。

もしかして魔法のことを指しているのだろうか。

私は気づかずに元の世界に居た頃から潜在能力が秘めていたとか。

アルバートさんには魔力はないと断言してしまったが、本当のところは違うのかもしれない。

物語に出てくるような魔法使いになれるのだろうか。

真剣に話をするベアクールをそっちのけにして考え込んでしまった。


「超能力のことを言ってるのよ、土御門 瑠璃。」


真剣な顔のままベアクールは言う。

私は思わず目を見開いた。

話の内容のことで驚いたわけではない。

テレパシーで強く伝わってきたのだ。




今、この神様は私の名をわざわざ漢字で呼んだ。




そのことに驚いてしまったのだ。

ベアクール王国に、いや。

この世界に存在する者が漢字を知るはずがない。

その証拠にアルバートさんも私の名の呼び方がカタカナだ。

瑠璃、と呼んでくれる者はもう誰一人としていないはずだった。

なのにこの神様は当たり前のように私の名を呼んだ。

私の名を最初から漢字で知っていたのだ。


(創世神ってこういう意味なのかしら。)


彼女の神様としての格の違いというものを見せつけられた気がした。






「私は転移させる時にその人物が適合するかどうか見定めるわ。だから人間性も自然と見ているのよ。私はね、瑠璃。この国に初めて超能力者を転移させると決めたのよ。」

「なんで?魔法使いがいるじゃない。わざわざ超能力者を選ぶ必要なんてないはずよ。」

「その考え方に思わず感服したのよ。貴女は、強力な超能力を持っている自覚があるというのに自分を全く特別に思っていない。むしろ普通に思っている。そんな人間は初めて見たわ。」

「え?」

「最初は本当にただの戦力の補充の為だけに見定めていたわ。でも貴女の人間性を見ているうちに、考えが増えてしまったの。」


真面目だった表情からベアクールは花弁が舞うかのような、綻ぶ笑顔へと変わっていった。




「私、瑠璃とお友達になりたいのよ。」




当たり前のように漢字で私の名を呼ぶ。

でもその言葉に私はズキンと古傷が痛みだした気がした。

それはとっくの前に塞がっていたはずの傷。

当時は絆創膏を貼っては剥がし、貼っては剥がしていた傷。

何度も繰り返し、そうして塞がったはずの傷だった。

その傷が今、開きかけようとしている。





───あぁ、なんて残酷なことをこの神様は言うの。





傷が、じわじわと開いていくのが分かった。






「ルリ殿、お時間です。」


金髪の髪色に赤い瞳が特徴の男性が私に話しかけてくる。

傷に絆創膏をこっそりと貼り付けた。


ダメよ、私。

気づかれてはいけない。

この傷は私だけのもの。

誰にも理解できるはずもない傷なのだから。

私は彼に笑いかけた。


彼の名はジェームズ・スペンサー。

この男性もまたイケメンである。

騎士はイケメンであることが条件なのかと思ってしまうほど顔面偏差値が高い。

身分は王国騎士団総騎士副団長。

アルバートさんの直属の部下にあたる。

ベンチに座っていた私は立ち上がり、彼の横に立った。


「迎えに来て頂いてすみません、スペンサーさん。」

「どうぞ、自分のことはジェームズと呼んでください。」


またか、と思った。

アルバートさんと出逢った時も同じ内容のことを言われたのだ。

お城へ行く道中、苗字で呼ぶ私にファーストネームで呼ぶよう要求してきた。

この国の人は自分のことを初対面の人にファーストネームで呼ばれる方が好きなのだろうか。

もしそうなら私には受け入れにくい文化である。


「わかりました、ジェームズさん。私のこともルリと呼んでください。」

「えぇ、分かりましたよルリ。良い響きの名ですね。」


さらっと口説くように褒めないで欲しい。

彼に着いていきながら思った。

やはり、イケメンというのは喪女に厳しく出来ている。

女神様はというと、私の隣にふわふわと浮いて憑いてきている。

漢字表現が違うかもしれないが、彼女のことは私にしか見えないのだからこの表現は許して欲しい。

絶対に本人に言うつもりはないから。


「神様なのに国の中心とかで見守ってなくて良いの?」

「千里眼で常に全て把握しているから問題ないわ。」



千里眼。



ザ・ファンタジーと思う単語である。

どチートな目をお持ちで少し羨ましいとも思った。

私が扱える透視なんかよりも遥かにずっと格上の瞳だ。

確か、妖怪から聞いたことがる。

千里眼には種類があって、現在、過去、未来の全てを見通せる者やそれぞれしか見えない者。いずれにせよ、視える範囲が莫大なのだという。

当時、その話を聞いた私はとんでもない瞳が世の中には存在するのだと驚いたものだ。

私の透視はモノを見透かすだけ。

千里眼における『現在』は範囲によっては視えるが、過去や未来までは視ることは出来ない。

やはり超能力ってちっぽけで私の一部にしか過ぎないな、と改めて思った。


そんな女神様はその千里眼とやらで私の傍にいても問題ないらしいが、理由が分からない。

まさか、本気で私と友達になりたいから傍にいるとか?

それは本気でやめて欲しいと思った。

古傷が塞がらなくなってしまう。

小さい頃に負ってしまった傷が、完全に開いてしまうから。


以前にも述べたことがあると思う。

私の小さな頃の友達は妖怪や幽霊といったいわゆる、視える人にしか見えないという者達ばかりだった。

強力な超能力を持つ私は周りに迷惑をかけることしかできなくて。

周囲に『化け物』と呼ばれて酷い扱いを受けている私に人間の友達が出来るはずもなく。

平凡を手に入れる為に、両親と共に必死にコントロールの練習をした。

それでも私は友達が欲しかった。

超能力者じゃなくてもいい。

ごく普通の当たり前に居る子で良い。

ただ普通に、遊んでお話をしたかった。


ただそれだけだったのに。

幼い子供達が私を受け入れることはなかった。


そんな私は寂しさを紛らわせる為に、妖怪や幽霊達と友達になったのだ。


でもそれは間違いだった。

親しくなっていくうちに分かっていった。

当たり前のことだけれど、価値観や視えている世界が違ったのだ。


妖怪達には生が長いものが多い。

長く歴史をその目で見てきたのだ。

言葉には尽くせないほど、沢山のものを。

そして妖怪には妖怪のルールがある。

それはもちろん、人間社会にあるようなルールとは違っていた。

例えばそれは殺されたら何代先までも呪うといったようなもので。

そんなものは普通の人間社会にはない。

つまりは。

価値観というものが大きく違った。


一方、幽霊は元々は人間だったから価値観の違いは妖怪と違ってない。

一番話の内容は合っていたように思う。

けれども彼らは既に死亡した人間。

会いたい人に会えない。

自分を見てもらいたいのに見てもらえない。

触れたいものに触れられない。

出来ることが増えたように思えて、実は少なくなっていたのだ。

それらを見ていて痛感した。




───あぁ。彼らとは本当の友達にはなれない。




そう気がついてしまったのだ。

大人の社会ではそれは当たり前の価値観であり事実だ。

でも幼い子供の私にとっては残酷過ぎる価値観であり、事実だった。

その時に大きく、深い傷を負ってしまった。

そしてそれだけで話が終われば良かったのに終わらなかった。

もう一つ、残酷な事実に気がついてしまったのだ。





私には、平凡が訪れようと永遠に友達が出来ない───。





だから、この女神様が言うことは気まぐれに違いない。

人間が神様になるということは歴史的観点からすると可能らしい。

だが、神様は人間になることは出来ない。

価値観も視えているものも、考え方も何もかもが違うのだから。

だから、友達になりたいと言う彼女の言葉を無視することにする。



───信じて、傷つくのはまた私だ。



開いた傷口をどうにか塞ぎながら歩いていると、訓練場に戻ってきた。

…さて、切り替えて訓練のお手伝いだ。

気合いを入れ直し、傷から目を背けることにした。





到着するなり、アルバートさんにこう言われた。


「模擬戦闘をしてほしい?」


いきなりの物騒な発言に首を傾げる。

騎士というものはそんなに戦闘狂なのか、と少し怖くなってしまった。

だが彼の表情を見る限り、どうやら違うらしい。

何故なら深刻な表情をしているからだ。


「あぁ。休憩中に閃いたんだ。可能だろうか?」

「もちろん、それは可能ですよ。ちなみにどれくらいのレベルの相手をお考えですか?」

「………先日の魔王レベルだ。」

「へ?」

「戸惑うのも無理はない。だが、これから先の国の防衛のことを考えると魔王くらい強い力を持った者達から我々は国を守らねばならない。」


真剣な目で話かけてくる彼に私は心の中で拍子抜けしてしまう。


あの魔王もどきが強いですって?

私が瞬殺出来たレベルよ?

そんな深刻な表情をするほど、切羽詰まった考えでする強さではないのだと思うのだけれど。

そしてもう一つ述べさせて頂きたい。

言葉にはしないから言わせて欲しい。



私、魔王じゃないわよ。



「貴女にとっては弱くても、あの子達には驚異なのよ。」


補足説明をするかのように女神様は言う。

ベアクールと呼ぶようにと言われたが、心の中くらいは女神様と呼ばせて頂こう。

だって、友達じゃないもの。

思考を戻し、この世界と自分の居た世界について考えてみる。


王様に謁見した時から思っていたが、世界の価値観自体が違うらしい。

例えば、私が強いと思うものや弱いと思うもの。

このズレは価値観の違いであり、拍子抜けしてしまった原因となっている。

けれどこれは悟らせてはいけないものだ。

間違いなく、混乱を招いてしまう。

穏便に済ます為にはどうするべきか。

どちらかが、価値観を合わせる努力をすれば良いだけの話だ。


その合わせる役は私が買って出るべきだろう。

かなり苦手なことだが、人間の価値観だ。

決して出来ないことではないはず。

手探りのことになってしまうが仕方あるまい。


「分かりました。怪我をさせない程度に頑張ってやってみます!」

「いや、怪我前提で構わない。申し訳ないが治癒も頼む。」

「お安い御用ですよ。任せてください。」


怪我前提とは意外だ。

アルバートさんは部下を大事に大事にしていて、怪我なんて許さない人物だと思っていたから。


(じゃあ、ちょっとだけ乱暴しても良いわけね。)


内心、力を強めに解放することが少ないのでワクワクしてしまった。







結論から言おう。

皆、私を見くびりすぎである。

模擬戦闘、開始前から強くは伝わってきていた。


『こんないたいけな娘に攻撃するだなんて。』

『確かに俺たちを救ってくれたけど。』

『アルバート様は何を考えていらっしゃるんだ。』


このように伝わってきていたので、力の加減は気をつけねばと心掛けていた。

調節としては一番弱めに。

魔王に放った力なんて絶対に使わないと決めた。

アルバートさんの要望に応えられなくて申し訳ないが、そうしなければ最悪死人が出るかもしれない。

人殺しだけは御免だ。

相手の心構えがこれでは、強くはなれない。



「はじめ!」



模擬戦闘開始と同時に、立ったまま何も動作せずにまずは全員の膝を地面に着かせた。

念動力である。

誰も立てないようにしたのだ。

指一つ動かすことなく。

まず立てなければ戦うことが出来ない。

武人として一番避けるべき動きをさせた。

全員が驚いているようだった。

腰まである長い髪が靡く。


(あんまり見くびるものほどほどにしてよね。)


お次は全員が持っている武器を人差し指を動かして空中に全て浮かせた。

そして私の周りまで動かして、そのまま浮かせる。

今の私の周りは騎士達の武器だらけだ。

武器がなければ体術で補うしかない。

剣術のみの騎士ならば、戦いは厳しいものになるだろう。

苦笑を浮かばせてアルバートさんに問いかけた。


「この後、どうします?」


呆気に捉われていた彼に尋ねる。

これ以上やれば怪我は確実だ。

超能力で人を傷つけたくはない。

出来ればここで辞めさせて欲しい。



「訓練やめ!」



私はその言葉に内心ホッとしながら、全員の武器をそれぞれ本人にお返しした。

その光景にアルバートさんだけでなく、ジェームズさんも目を見開いている。

そこまで驚くことでもないと思うのだけれど…と少し気まずくなった。

魔法でも同じことが出来るはずだ。

驚かれる理由がよく分からずにいた。


「訓練以前の問題だと分からせられたよ。参ったな。」

「恐縮です。」


まずは心構えからですね、と内心呟く。

無事にお手伝いはこなせているようなので安心した。

これくらいのことは朝飯前なのでどんどん頼って欲しい。

……怪我をさせない程度、で。





「目の前で見ると貴女ってえげつないことするのねぇ。」

「貴女の国のためなのだけれど。」

「そうだけどぉ。」


相変わらず傍で浮游している女神様に小声で答えた。

忘れがちだが、彼女は視えない存在なのでかなり注意しなければならない。

主に、今がそうである。


「何か言いましたか?ルリ。」

「いえ、何も。」


今回はジェームズさんに気づかれそうになった。

アルバートさんにも気をつけなければ。

気づかれそうになったじゃない、と女神様を思わず睨んだ。

本人は気がついているくせに、無視を決め込んでいる。

この神様はもう…。


「また付き合ってもらえるか?」

「もちろんですよ。どうぞ遠慮しないでください、アルバートさん。」


この後も身体補助の後には模擬戦闘を何度か繰り返し、夕方頃には全て終了した。

もちろん、途中で休憩が何度もあったので日本のブラック企業とは違う。

むしろホワイトで、随分と楽をさせてもらっている。


(これが私の日常になるのかなぁ。)


ほんの少しの期待と、まるで何処かへ行くかのような冒険心が私の心を支配した。









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