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異世界超能力者  作者: 天羽ヒフミ
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第一話 ただの超能力者

初めましての方は初めまして!お久しぶりの方はお久しぶりでございます。

天羽です。

今回は異世界転移ものに挑戦してみました。

楽しんで読んでもらえたらと思います。よろしくお願いします。

私の名前は土御門瑠璃(つちみかどるり)、北海道の普通科に通う高校二年生である。

それは大雪かつ吹雪での下校途中のことだった。

除雪した雪が新たに積もり、そうでなくとも歩きにくいというのに大雪と吹雪のせいで更に歩きにくくなっていた。

雪のせいで前は見えないし、ブーツの中に雪が入ってしまっている。

冷たいことこの上ない。

早く帰宅して暖かい家のストーブで暖まりたかった。


北海道の人間は雪に慣れているから平気だという考えがあるらしいが、そんなことはない。

確かに私はこの地に生まれて住んでいるために、本州の人間に比べれば雪には慣れてはいるだろう。しかし、大雪と吹雪は勘弁して欲しいと毎回天気予報を見るたびに思う。

学校の登下校や除雪の事を考えると頭が痛くなる。

自然現象だから仕方のないことだけれど。


そんな悪天候の中の事だ。

トラックが信号を守って歩いている私の目前まで迫ってきたのである。

信号が雪で見えなかったのだろう。

信号無視をしたトラックがスリップし、撥ねられそうになってしまったのだ。

その所までは記憶にある。

だが、それ以降の記憶が全くと言っていいほどない。

感覚としては記憶喪失に近い。


今分かるのは西洋風のお城に突然飛ばされてしまったということだけ。

まるで違う世界に来てしまったようだ。

西洋風のお城といったところだがどこか毒々しい感じがする。

まず薄暗いというのもあるし、髑髏などといった不気味なものが置かれているのだ。

ドイツにあるノイシュバンシュタイン城のような立派で綺麗なお城ではない。


ここは辺りを見た限り大広間だろうか。

髑髏で作られた玉座らしきものが奥には見える。

正直、趣味が悪いと思う。

いくらゲームなどで出てくる魔王のようなお城であったとしてもだ。

ゲームと現実とでは違うのだなと思わせられる。

そんな私の目の前には、5mは身長があると思われるゲームや漫画などで出てきそうな魔王の風貌の者が立っていた。


5m。


いくら何でも大きすぎである。

人間、本当に驚くと声が出ないと言うがその話は本当のようだ。

その証拠が今の私の状態であった。

声が上手く出そうにない。

「あ。」と小さく声に出してみようとするが、掠れている。


だが今は落ち着かなければならない。

身に付けているマフラーやコートがやたらと熱くて汗をかいていた。

当たり前だ。

室内なのだしこの者の服装から考えて外の気温も暖かいに違いない。

けれど今は頼れるのは自分だけなのだ。

落ち着く為にまずはそれらを脱いで、制服姿だけになる。

色々と落ち着く為の方法を試案したが、深呼吸をすることを選択して自身をどうにかして落ち着かせることにした。


深呼吸をしながら状況を少しでも把握する為に周辺を見回す。

私の周りは西洋風の鎧を身に纏う騎士達が何人もおり、皆がどこかしら血を流して傷ついていた。

倒れている人もおり、意識がないようだ。

今の状況が非常に危険であるということだけは分かった。

つまり私自身も危険な身であるということである。

これは呑気に構えている場合ではないな、と思い直した。

一旦、ここが何処なのかということは思考しない方が良さそうだ。

そのことは後でじっくり考えることにした。


騎士達は突然の私の登場に驚きを隠せていない。

その証拠に意識がある人達の皆が目を見開いていた。

それはそうよね、と思わざるを得ない。

人間がどこからともなく突然現れたら驚かない人間は少ないだろう。

しかも恐らく、私はこの世界の人間ではない。

違う世界の人間だ。

尚更驚くなという方が難しいだろう。


「貴様、何者だ。」


魔王らしき者が低い声で私に問いかけてきた。

超絶上から目線である。

少し気分が悪くなった。

何者か、と言われたらただの高校生としか言いようがないがきっと伝わらない。

高校生という概念がこの世界にあるとは思えない。

しかし普通の高校生である私でも分かった。

この目は答えによっては明らかに殺す気満々の目だ。

そんな目にお目にかかる日が来るだなんて思いもしなかったが。

出来ればそんな日も来て欲しくはなかったが。


だが。

これから殺そうとする人間にその問いかけは意味があるのだろうか、とぼんやり思う。

殺したら終わりなのだ。

何者なのか知った所でこの者に何か得があるというのだろうか。

不思議に思いながら首を傾げて目を細めた。


「なんだその目は…!いいから答えよ!」

「親に言われなかったんですか。相手に名を尋ねる時はまず自分からと。」

「なんだと!?……たかが小娘ごどぎがァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「ただの自己紹介でキレるとかどういう教育受けてきたんですか。」


勝手にキレた魔王らしき者は私に襲いかかろうとしてくる。

巨大な爪だった。

それは狂暴な北海道に生息するヒグマの爪を思い起こさせた。

ヒグマの爪は簡単に人の顔の皮を剥がすことが可能だ。

アイヌではヒグマは動物の中でも一番の神様、名をキムンカムイといわれている。

そんなヒグマは確かに怖い所もあるが、この風貌の者と比べたら可愛いなと思う。

その光景を私は自己紹介も出来ない程に器が小さいのかと飽きれて見つめていた。

巨大な爪をなんとかして避けようとも思わなかった。

いや、正しくは反射神経が働かなかっただけなのだが。

でも私には恐らく必要ないのだ。

ほら。



────切り裂こうとする巨大な爪が私に触れることはなかった。



「な……に?」

「あら。こんな所で生まれて初めて役に立ったわね、この力。」


単に超能力が原因で自動にバリアが発動しただけなのだが、効果は抜群だった。

幽霊や妖怪に効くバリアが魔王らしき者にも効いてくれたらしい。

人外にも全て効果があるということだろうか。

何が対象となるのかは分からないが、とにかくこの者にも効いてくれたので助かった。


───そう。

私はただの普通の高校二年生に過ぎないが、ある一点のみ他の人とはほんの少し違った人間だった。


それは、天性の超能力者ということだ。





「あの……貴女様は……」


呆然とした顔で一人の騎士が私に尋ねる。

西洋風のお城で超能力は珍しいものなのかもしれない。

日本でも超能力者には出会ったことはないし。

それにここは超能力というより魔法とか魔力いった方がイメージがしっくりくる。

服装も制服のままだ。

こんな服装、西洋のお城があるような世界にあるわけがない。

その表情に無理もないかと自身を納得させた。

一方、魔王らしき者はバリアが破れなくて苦戦している。

強力なバリアに力を調節したので破られることはまずないだろう。

せいぜい頑張れと少し応援してしまった。


「詳しい説明は後でします。皆さん、この魔王みたいな方にお困りですか?ていうかこの方は魔王ですか?」


明らかに人ではないが、それでも人差し指を向けるのは失礼なので代わりに両手を魔王らしき者に向ける。

すると全員がこくこくと力なくだが頷いた。

やはり皆が傷ついているのはこの魔王らしき者のせいだった。


魔王というものは漫画やゲームで悪い者だと認識していたが、それは間違いではなかったらしい。

こんなにも人を傷つけておいて、決して許せるものではない。

そしてらしき者ではなくて魔王そのものだった。

こういうものは選ばれし勇者や救世主が退治するものだと思っていたけれども。

世界はそう上手く働いてくれないみたいだ。


現実は厳しいというけれどそれは本当だった。

本当に救いが必要になっている時にそのような特別な者が現れないなんて。

王道展開というものは現実にはないらしい。

だからその代わりに私がここに居るのだろうか。

ただの超能力者でしかない私が。

私は決して物語に出てくるような聖女でも勇者でも救世主でもない。

ただの普通の高校生。

ちょっと超能力が使えるだけの高校生。

それが私。


でも、そんな予兆も何もなかったけれど。

トラックに撥ねられそうにはなったが、まさかそれが原因だろうか。

……いや、今はそんなことを考えている場合ではない。


ここに居る騎士達は皆が傷だらけ。

意識不明の騎士も居る。

時間をかけている暇はないだろう。

一方、私はバリアのお陰で無傷だ。



───その力は困ってる人の為に使いなさい。



幼い頃からの母の言いつけを思い出す。

今私がすべきこと。

無傷の私が取るべき行動はきっとこうだ。

魔王の巨大な爪を避けて手を翳した。

人間相手なら躊躇ってしまうが相手は魔王。

極悪人だ。

どんな悪さをしてきたのか、この世界の人間ではない私は知らない。

けれど人をこんなにたくさん傷つけたのだ。

それを私はこの目で見た。

立派な極悪人だ。

ならば、したことの相応の対価を支払うべきだ。


───容赦はしない。死をもって対価を支払なさい。


己にある莫大な念動力を翳した手のひらに集中して放つ。

周りに居る騎士達には影響しない程度には力を調節して放った。





パァンと風船が破裂したような音がした。




念動力が放たれた魔王の身体には真ん中に巨大な風穴が出来ており、大きな音を立てて倒れた。

紫の液体が大広間に大量に飛び散っている。

恐らく、魔王の血液だろう。

私は恐る恐るバリアを張りながら魔王の元へ向かう。

息をしているか確認した所、私が放った念動力で魔王は生き絶えていた。

無事、倒せたようだ。

騎士達も無事かどうか見渡すと、魔王の血液が騎士達にも付着してしまい申し訳ない気持ちになった。

少し、力の調節を誤ったらしい。

本来ならこんなに血液が飛ぶ予定ではなかったのだ。

何故なら。


───こんなにも魔王が弱いだなんて思わなかったからだ。


驚くことに瞬殺だった。

呆気なさすぎて言葉が出なかった。

その証拠に私はまだ死体を見つめたままだ。

確かに念動力は容赦せずに放った。

どれくらいかというと、いつも使う倍くらいには調節して放った。


しかしだ。

魔王とはいわゆるラスボスというものではないだろうか。

だと言うのにこの結末。

これが何かの冒険譚だったらきっと酷評だ。

こんな瞬殺が出来てしまう魔王がラスボスならブーイングものだろう。

本当に魔王だったのだろうか、と騎士達の頷きを疑ってしまう。


「か、勝った……か、勝ったぞ!遂に!!最後の敵である魔王が倒された!!」

「やったぞ……!これで国が守られた!!」

「万歳!!」


騎士達が歓声を上げる。

声に力はあまりないが、喜びは大いに伝わってきた。

そしてそれらのセリフが私に更なる追い討ちをかけた。

本当に魔王だったらしい。

……この、瞬殺されたのが?

本当に?

しつこくて申し訳ないが、そう思ってしまう。

そして騎士達の言葉でハッキリと判明した。


(やっぱりラスボスだった。やっぱり魔王だったわ……!)


呆気なさすぎるでしょう、と肩を落とした。

けれどセリフからして国の危機だったらしいから、守れたことは素直に嬉しい。

この力は、私の一部に過ぎない。

決して特別なものではない。

感覚的に言えば、絶対音感があるような人の感じだ。


それでも。


魔法でもなんでもないただ超常現象を引き起こす力がだ。

そんな力がでも国を守ることが出来たのだ。

それはきっと誇りに思って良いことで、この胸に刻んでも良いことだと思う。

瞬殺だったから、大したことはしていないけれど。

そのことに関してだけは苦笑を浮かべるしかなかった。





「……と、感傷に浸っている暇はなかったわ。」


他の力に集中するためにバリアを解除した。

ここには怪我人が何人も居るのだ。

放っておくわけにはいかない。

私の力でどうにか治癒をしなくては。


「皆さん動かないでください。」


左腕を上げて人差し指を上に指す。

イメージはこの大広間全体にバリアを張るように。

目を閉じて集中し、イメージを膨らませて現実へと反映するよう力を込めた。

込めた力は治癒の力。


死人は流石に蘇生できないが、生きている限り私に治せないものはない。

意識だって不明なだけなら問題ない。

要は死んでいなければ何でもできるのだ。

元の世界では医療道具があるし、人間には自然治癒力があるからこの能力を使う機会はないのだけれど。

今はそう言っていられる状況ではない。

この世界にそのような高度な医療があるとは思えないからだ。

意識不明の人や怪我人が多いために少し強めに力を込めた。


「傷が……癒えている………!」

「凄い……あの方の力なのか………!?」


全員に力が行き渡っているのを感じてから左腕を下ろした。

久しぶりに使った能力だったが上手くいったみたいだ。

ホッと胸を撫で下ろすと、騎士の一人が私に駆け寄ってきた。


「貴女は救世主様ですか!?」

「いいえ。私はただの……」


高校生と言ってこの騎士に意味が通じるだろうか。

それ以外の自己紹介が出来ないので少し困ってしまう。

だが、高校生という概念がなさそうなこの世界にその自己紹介は混乱させてしまうだけだ。

だから私は言葉を言い直すことにした。


「私はただの庶民です。」


これ以上ない分かりやすい自己紹介ではないだろうか。

私は少しドヤ顔をしながらそう言った。







主人公がこれからどのようになっていくのか、お楽しみ頂ければと思います。

お読みくださり、ありがとうございました!

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