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光降る恋

「光降る恋……?」

 不思議な単語に首をかしげる。

 どこかで聞いたことあったかしら……なんて思い出そうとしていると、若い侍女が慌てた様子で頭を下げてきた。


「あぁっ、申し訳ございません! 光降る恋とは、新進気鋭の劇作家フィルマン作の演劇でございます。数日前より開演し、皇都で大流行しておりまして、それで……」


 若い侍女は早口で語り、最後にはもごもごと口ごもる。

 周りの侍女はそれを心配そうに見つめていたり、敵国の王女である私が憎いのかどこかピリピリしていたり、様々な様子で。


 そんな中、助け船を出したのは侍女長だった。


「王女殿下が、光降る恋の令嬢スフィーにとてもよく似てらっしゃるのですよ。森のような緑の瞳も、波のように青くて長い御髪おぐしも。どのような状況下にあっても凛と前を向かれ、誇りを失わないお姿も。この侍女ノエルは、スフィーの大ファンなもので、興奮してしまったのでしょう」


 私が……演劇の令嬢に似ている?

 きょとんとして、瞬きを繰り返す。


 そうか、これこそがエイデンの作戦ということね。

 私によく似たスフィーの劇を流行らせて印象操作を事前に行い、私の悪印象をなるべく拭っておこうとしたんだわ。


 私とイグニスの民がこんなところで険悪なムードになってしまっては、停戦協定なんて望めなくなってしまうから。



 無言のままそんなことを考えていると、ノエルと呼ばれた侍女は『しまった』とばかりに顔を強張らせていて。


「王女殿下、まことに申し訳ございません、王女殿下と演劇の令嬢を同列に扱うなど、失礼極まりないことでございます」


 深々と頭を下げだしたノエルは青ざめており、色白の手もガタガタと震えている。

 もしかすると、私が何も言わなかったせいで、怒らせてしまったと勘違いさせてしまったのかもしれない。


「ノエル、どうかお顔を上げて」

 怖がらせないよう、柔らかな声で話しかける。

 恐る恐る顔を上げたノエルは、とろんとしたタレ目に涙をためていて。

 それほどに無言の私は恐ろしかったのかと、反省と後悔が止まらない。


 細かく震える彼女の左手をそっとさらい、両手で包んだ。


「大丈夫、怖がらないで。貴女が憧れるような令嬢に似ていたなんて嬉しくて、感激してしまっただけよ。ノエル、これからどうぞよろしくね」


 にこりと微笑みかけると、ノエルは安心した反動でか、涙はひくどころかかえって止まらなくなってしまっていた。



 敵国の王女の来室に侍女たちの空気もはじめは緊張と嫌悪に似たものが混じっていたけれど、次第に態度が軟化してくれたのを感じる。


 貴賓室の侍女だからうまく憎しみを隠してくれているだけなのかもしれないけれど、それでも先程の令嬢たちのように強硬手段に出てこないだけ何倍もいい。


「侍女長、あとは頼む」

 場が落ち着いたのを確認したエイデンはそう言って去っていこうとする。

 まだ聞けていないことがあった私は、慌てて彼を呼びとめた。


「あの……皇帝陛下へのご挨拶は、いつ頃うかがえば良いでしょうか」

 敵国の王女で人質なのにも関わらず、こんなにも親切にしていただいているわけだし、お礼はきちんと言うべきだ。


 そう思って尋ねたのに、エイデンの表情は苦々しいもので。


「スティーリア。いまはまだ、皇帝陛下への謁見は無理だ」


「なぜです? このままご挨拶も感謝の言葉もお伝えできないままでは、心証も悪くなるのでは……?」


「陛下も会わずとも良いとおおせであるし、謁見は不要だ。皇帝陛下とアクア王は、未だかつてないほどに険悪な状況に陥っていて、陛下はアクア王を目の敵にしておられる」


 その言葉に、刃で胸を穿つらぬかれたような気がした。

 エイデンや侍女たちの反応から、皇帝陛下ともどうにか敵対せずに済むかもしれない、なんて思っていたけれど、事態はそんなに甘くない。


 皇帝陛下に戦争を続ける意思がある以上、ここは敵地の真ん中で、ここにいる全員が敵で。

 戦争を良しとしないエイデンだって、皇帝陛下の命令があれば、私やアクア王(お父様)を殺しに来るかもしれない。


 そんな当たり前のことを今更また思い出してしまい、身体を震わせて身をすくめた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オディットの衛生管理がきちんとなされていて、見てて安心します※。敵国間のピリピリした空気が常に近くにある感じ。読んでてドキドキします。 (※キャラクターの衛生面が気になると落ち着かない性…
[良い点] なるほど、エイデンやるぅ!!
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