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告白

 恐る恐る目を開けるとエイデンと視線が重なってしまい、動揺から跳ねるように立ち上がった。


「な、なぜこのようなことを……っ!」

 平静を装おうとしたけれど、そんなのは無理だとすぐに悟った。


 だって、キスなんて生まれてこのかた一度もしたことがなかったし、私のファーストキスはマルクが触れて来なかったぶん、政略結婚の相手になるだろうと思い込んでいたから。


 慌てる私の問いかけに、エイデンは穏やかに目を細めた。


「なぜ? 愛しいと思う以外に、理由はあるものなのか」


「――っ!」


「俺は……貴女に惹かれている。平和な世を迎えても、姫を離せそうにない」

 情熱的な告白に頭がくらくらして、胸が高鳴る。

 恥ずかしさと緊張から顔を上げられずにいると、エイデンはすぅと深く息を吸い込んだ。


「オデット姫。停戦協定の締結が叶ったのち、どうか結婚してほしい。俺の隣はもう、貴女以外に考えられないんだ」


 エイデンのプロポーズが嬉しくて幸せで、喜びのあまり涙が溢れてしまいそうだ。


 民思いで勇敢な彼はきっと、将来立派な皇帝になることでしょう。

 私を認めて愛してくれて、共に歩もうとしてくれるエイデンを隣で支えることができたなら。

 生涯を通して、認め合い、支え合い、愛し合える関係になれるのなら。

 こんなに幸せなことはない。



 けれど、すぐにマルクの笑顔を思い出し、きゅっと自身の両手を重ねて握りしめた。


 最後の逢瀬の日、私とマルクはきっと両思いだった。

 身分の差さえなければ。

 私に結婚が決まらなければ。

 いまもマルクと大切に恋を温めていたかもしれない。


 それに、このままテルム国の縁談が破談になれば、マルクと添い遂げる未来だって描けるはず。


 マルクは十年近くもずっと私のそばにいてくれて、私の心が傷つかないように、悲しまなくて済むように身を挺して守り続けてくれて。

 土砂崩れの瞬間も、逃げずに駆けつけて助けようとしてくれた。

 想いを確かめ合ったわけではないとはいえ、私のために十年も尽くし続けてくれたマルクを裏切ることなんて、できない……



「殿下、私との結婚を望むのは……両国の絆がより強固になるからですか?」


 こんなことを言いたかったわけではないけれど、怒らせることでエイデンが私を恋愛対象から外してくれるなら、それでいいと思った。


 けれどエイデンが怒って離れることはなく、反対に私に詰め寄ってきて。



「違う。どうすれば信じてもらえる? こんなにも俺は貴女を求めているのに」

 燃えるような瞳で見つめられ、そっと頬をなぞられながら上を向かされる。


 炎のように揺らめく瞳は、熱をはらんでいて、きゅっと身体が切なくうずいた。



「私は、アクア王の所有物です。私の一存では、決められません……」


「俺は、そんな表向きの答えを聞きたいわけじゃない。スティーリアの想いを聞かせて欲しい」


 どこまでもまっすぐなエイデンに、誤魔化しや嘘はきっと通用しない。

 二人の男性の間で揺れ動くというみっともなさを承知で、私はマルクのことを言おうと決めた。



「殿下。私には、ずっと私のことを大切にしてくれていた男性ひとがいます。私は、その人を想い続けながら生きていくのだと、思っていました」


 怖くてエイデンの顔が見られない。

 顔を上げられずうつむいたまま、私はまた口を開いた。


「でも、それなのに出会ってまだ日の浅い殿下に惹かれている自分もいるのです。けれど、私たちは敵国同士で、こんな恋は許されるはずもないですし、いまはまだ、結婚などとても決められなくて……」


 様々な想いが巡って、心がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 次第に声が小さくなっていく私の手をエイデンは申し訳無さそうに握ってくれた。


「すまない、姫の気持ちも考えずにはやってしまった」


 ふるふると首を横に振る。

 いけないのは、私のほう。

 どっちつかずで中途半端で。

 エイデンの温かな手も離せず、マルクが守り続けてくれた十年間も無下むげにできない。


 あまりに情けなくて、申し訳無さから泣いてしまいそうだ。

 そんなふうに思っていたら、エイデンはなぜかくすりと笑った。


「まぁひとまず、可能性がゼロではないことがわかって安心したよ」


「え?」


「惹かれている、と言ってくれただろう?」


「あっ、ええとそれは……」

 照れてしまっておろおろしていると、エイデンは一歩前に出て、私の背中に両腕を回してきて。


 心臓はうるさいくらい高鳴っているのに、エイデンの腕の中は温かくて心地良くて、安心できるのが本当に不思議だった。


「嫌なら押し返してくれ」

 その言葉に小さく首を横に振り、彼の軍服をきゅっと掴むと、エイデンは抱きしめる力を強めてきて、また胸が甘く痛んだ。

 


「オデット姫、平和が訪れてからで構わない。貴女の答えを聞かせてほしい」


「はい」

 こくりと小さくうなずく。


「スティーリアという名を呼ぶのは、お預けだな。また一つ、平和が待ち遠しくなった」

 エイデンは私から離れて、いつものように笑う。

 きらきらとした笑顔と満天の星空が眩しくて、愛しくて。


 結局エイデンから離れられずにまた繋ぎ止めてしまい……

 ますます自分の想いと望みが、自分でもよくわからなくなってしまった。

数日のあいだ、更新お休みします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今もオデットのことを思ってくれているであろうマルクのことを思うと、胸が痛い(T ^ T) オデットが、結論を先延ばししてくれてよかった。じゃなければマルク可哀想すぎる>< でもエイデンのま…
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