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第七十七話『過ぎ去りし日々、現に在する日々』

 オレは一度死んでいる。だからこそ、フレデリカ・ヴァレンタインに生まれ変わったわけだ。けれど、オレは死の瞬間を覚えていない。正確に何時(いつ)何処(どこ)で、どんな状況で死んだのかサッパリ記憶に残っていない。

 何度か思い出そうとしたけれど、一欠片も思い出す事が出来なかった。

 それで良いと思っていた。なにしろ、死の記憶だ。思い出した所で嫌な気分になるだけだ。

 ただ、少なくとも寿命ではないだろうと推測はしていた。なにしろ、直近の記憶に残るオレは高校生だった。

 インドア派だったけれど体は健康体だったから病気の線は薄く、大方事故か何かに巻き込まれたのだろうと考えていた。


「……うーん」


 垣間見た光景が真実なら、オレは生前も魔王再臨を使って戦っていた事になる。

 あり得ないとは言い切れない。オレの記憶には欠落があり、その欠落部分で何が起きていたとしてもシュレディンガーの猫状態だ。

 横で心配そうにしているエルフランを見る。彼女(凪咲)がこの世界に来ている以上、この世界の魔獣が地球に出現する可能性もゼロとは言えない。

 それにシャロンの生まれ変わりが羽川祐希(オレ)であり、羽川祐希(オレ)の生まれ変わりがフレデリカ・ヴァレンタインなのだとしたら転生前のオレが魔王再臨を使えたとしてもおかしくはないのかもしれない。

 仮にそれが事実だとすると男子高校生が美少女吸血鬼系魔王になって大暴れしていた事になるわけだがそこは一旦置いておこう。深く考えると頭を抱える事になりそうだ。

 それよりも気にするべきなのは――――、


 ―――― みんなは大丈夫なのかな……?


 複数の魔獣が地球に現れた。オレには戦う術があったようだけど、何処かで死亡している。そうなると、他に戦える者が居たのかどうかが気になる。

 もしも、他に誰もいなかったとしたら? そう考えるとゾッとした。

 地球には魔法の代わりに科学がある。近代兵器の火力なら魔獣とも渡り合えるかもしれない。実際、魔法を使わなくてもザラク一行はある程度の魔獣を仕留める事が出来ていた。

 素手で倒せる魔獣が相手なら問題なく対処出来る筈だ。けれど、そういう下位の魔獣ばかりではなかったとしたら……。


「だ、大丈夫!? 青褪めてるよ!?」


 エルの声にハッとして顔をあげるとオズワルドの顔があった。


「色々と混乱させてしまったようですね。ですが、全ては過ぎ去りし日の事です。あなたの前世の世界の状況を知る術は残念ながらありませんし、考えて分かる事でもありません」

「……オズワルド猊下。あなたはわたくしが……、オレが前世を覚えている事を知ってたんですか?」

「知っていましたよ。そうでなければ説明のつかない事が幾つかありました。ああ、御安心下さい。前世の記憶を継承する事は稀ではあっても皆無ではありません。それに、告白しますとわたくしも前世の記憶を継承した者の一人なのです」

「げ、猊下も!?」


 衝撃の真実だ。まさか、オレ以外にも転生者がいたなんて思わなかった。


「過去、わたくしはアルトギア・ディザイアと呼ばれておりました。それ故、過去のわたくしを知る者は当時の名でわたくしを呼ぶ事がしばしば……。今のわたくしはオズワルド・アガリアなのですがね」


 彼は困ったように言った。

 アルトギア・ディザイア。その名前を何処かで聞いた気がする。

 たしか、ガンザルディに見せられたビジョンの中での事だ。


 ―――― 『初代魔王の側近、アルトギアの手記』


「……え? 初代魔王の側近!?」

「初代魔王!? えっ、どういう事!?」


 エルを飛び上がらせてしまった。だけど、オレも飛び上がりそうだった。

 

「おや、知っていたのですか? あの頃は少々ヤンチャをしていましてねぇ」


 クスクスと笑っている初代魔王の元側近にオレは目を丸くした。

 

「……ア、アンゼが警戒してたのってそう言う事だったんだ」


 どうやらアンゼロッテは知っていたようだ。


「ラ、ライも知っていたのですか?」

「ああ、知っている。アルトギアとは初代や二代目が幾度も交戦しているからな」

「……ゆ、勇者様達と交戦したのですね」

「ええ、彼らには幾度も煮え湯を飲まされたものです」


 まるで楽しかった頃の思い出を語るかのような表情だ。

 オレはどう反応したらいいのか分からなかった。


「レディ・フレデリカ」


 オズワルドは言った。


「過去に思いを馳せる事を誤りとは申しません。ですが、囚われてもいけません」

「……囚われてはいません。少し、気になっただけです」


 そう、少し思っただけだ。

 もしかしたら、魔獣が地球に現れた方法を見つける事が出来れば地球に帰る事も可能なのではないかと。

 家族や友達にまた会えるかもしれないと、少しだけ。


「猊下がオズワルド様であるようにわたくしはフレデリカ・ヴァレンタインです」


 未練はある。だけど、仮に帰る方法が見つかったとしてもオレは帰らない。

 オレの世界はここだ。アルの傍で彼を支え続ける。そういう人生を送る事を心に決めている。

 一度決めた事を途中で放り出す事はかっこ悪い事だ。オレはかっこ悪い事は嫌いなんだ。


「……って、そうだ」


 アルの顔を思い浮かべた瞬間、オレは青褪めた。


「ど、どうしたの!?」

「そうだ……、そうだった!? オ、オレ、昨夜はアルに誘われてたんだった!!」

「さそっ!? えっ!?」


 立て続けに色々な事が起こり過ぎて頭から抜け落ちてしまっていた。


「さ、ささ、誘うって、そ、そう言う事だよね……? フ、フフ、フリッカはそ、そうだよね。ア、アルの婚約者なんだもんね……あ、あば、あばばばば」

「エル!?」


 いきなりエルが泡を吹いて倒れてしまった。


「いきなりどうしたんだ!?」

「の、脳が破壊されりゅ……」

「脳が!? お、おい、エル!? しっかりしろ、エル!! って、あっ!!」


 オレはますます青褪めた。慌てていたとは言え、とんでもない事を口走ってしまった。

 だけど、仕方のない事なのだ。なにしろ、相手は皇太子だ。皇太子にエロい事をしたいと言われたら、婚約者として否とは言えないだろう。

 あくまでも次期王妃としての責務なのだ。今も身に着けている勝負下着も次期王妃として仕方なく着ているのだ。お風呂でアイリーンにいつもより丁寧に体を洗ってもらったのも次期王妃として仕方なくそうしたのだ。

 そう、仕方なかった事なのだ。


「……か、過去に囚われるのは良くないですよねー。げ、猊下もそう仰ってましたものね―」

「ど、どうしたのですか?」

「フレデリカ?」


 オレの目は泳ぎまくっていた。それこそオリンピックに出れるくらい華麗にスイスイ泳いでいた。

 とりあえず、エルには過去をなるべく思い出さない方向でいってもらいたい。

 どうしても思い出したいと言うなら断れないけど、その場合、彼女は幼馴染の男が男とエッチな事をしようとしていた事実を知る事になる。

 もしも龍平がそんな事になっていたらオレの頭は真っ白になる事だろう。エルが腐女子に覚醒する可能性もあるけれど、それはそれで困る。


 ◆


 その後、エルはオズワルドに保護者の下へ送られた。

 オレはライと共にアイリーンの下を訪れた。本来は部屋の呼び鈴を鳴らせば彼女が直ぐに来てくれるのだけど、今は王族の居住区全体にオズワルドの結界が張り巡らされているらしい。

 キャロライン・スティルマグナスはオズワルドによって拘束され、ネルギウス陛下が直々に対話を行っているとライから聞いた。


「お嬢様!!」

「アイリーン!!」


 使用人室の扉を開いた途端、アイリーンに抱き締められた。素晴らしい反応速度だと思う。


「心配かけてごめんね」

「御事情は存じております。ですが……」


 アイリーンは泣いていた。

 オレは二度と無茶な事をしないという彼女との約束を破ってしまった。


「アイリーン……。これからアルの所に行くんだ。身支度を頼める?」

「……はい、お嬢様」


 いつものように身支度を整えてもらいながら、オレはアイリーンに昨夜の事を話した。

 ここにはライと彼女しかいない。だから、ありのままを語った。

 メサイアの思惑を聞いた時の彼女の顔はまさしく般若の如しだった。


「それでさー」


 ただ話を聞いてもらっているだけなのに心が軽くなっていく。

 いつだって、彼女はオレの話を真剣に聞いてくれる。

 楽しい時には一緒に笑ってくれて、辛い時には一緒に苦しんでくれる。

 オレが背負うものを一緒に抱えてくれる。


「……ねえ、アイリーン」

「なんですか?」


 彼女を守れる存在になりたい。だけど、オレはいつも彼女に守られている。


「いつもありがとう」


 アイリーンのおかげで完全ではないけれど胸につかえていたモヤモヤが晴れた。

 

「……アル、怒ってないかな?」

「きっと、御心配なされている事かと」


 身支度を整え終わり、オレはアルの下へ向かった。

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