名探偵とおにぎり
なろうラジオ大賞2応募作品です。
金の猫目石と泣きぼくろの女。
名探偵とされる僕の思考、そのコントロールを奪う。
あの時を再現する為、おにぎりと沢庵をちゃぶ台の上に置く。
指し向かいに湯呑、おにぎりを一つ置く。
土瓶から茶を注ぎ潤すと、手に取り飯粒を喰む。蘇る声と映像。
陸蒸気の相席の女は楕円形の風呂敷包みを膝の上に置いてた。
「おひとつどうですか?」
昼食を差しだし荷物を網棚に上げましょうか
身なりの良い女。
「頂きます、荷物は大丈夫ですから」
目方がある様子。貴重品ですか?
辺りを気にする女。
「主人が、可愛がってたイヌノコですの、里の墓に入れようと思って」
風呂敷包みの中は犬の仔の死体。それはお気の毒に
町中ではその辺に埋める訳にもいかないからと笑う女。
「私達には子は居ませんから主人は、可愛がってたのです」
食べつつ会話、犬はどんなのですか
「……狆ですの」
大きく揺れる、汽笛が響く。女が立ち上がる。赤子を抱くように風呂敷包みを抱えた。
「ヨクナクコでしたわ」
棄てる様にそう吐くと、おにぎりの礼を述べ乗車口へと向かった。
記憶が終わる。
指先を舐め取り擦り切れた畳の上に寝転がる。
何かが引っかかる。詮索し疑う癖が頭をもたげている。
可愛がってた犬の仔が死んだからお墓に埋める。良い家ならあるのだろう。お抱え運転手が居そうな身なりなのに
何故、三等車両に乗ってる?
何故、わざわざ汽車を使う?
狆、子犬なのだろうか
狆、成犬なのだろうか
成犬ならばあの大きさなら有り得る
子犬ならばあの大きさは有り得ない
私達には子は居ません
だから可愛がっていたという夫
ボロアパートのガタピシの窓は開けっ放し。モクモク入道雲、ワンワン!湿気った庭で大家の犬が吠える。
「暑いのによく吠える犬、犬!犬」
絡まりが解れ、散ってた物が集まるが
犬を子供としていた?
そういう家もあると聞く
散っていく、ジリリリン!起き上がり電話を取る。
「あ!先生ちといいですかね?」
「ああ、警部さん」
「誘拐なんですわ!お知恵を借りたく」
何時も唐突な彼が話す。
「良く出来た本妻が認めていた愛人に弁当を作り、旦那に持たせたんですわ、その中に毒が仕込まれ男女は死亡!生後間もない子供が攫われたのですが、怪しいのは本妻と見ておるんですが、行方不明で」
カラカラと糸車が回る。
糸が解れよれ、太く遠く伸びる。
汽笛が聞こえる
大きな風呂敷包み
ヨクナクコデシタワ
「本妻の特徴は」
警部の声に覆い被さる様に答えた。
「金の猫目石の指輪と泣きぼくろ」