血と炎
今日は兄さんの誕生日だ。父さんと母さんは家の中を飾っている。私と妹のクアイツは花冠を作っているところ。デイジー、マーガレット、パンジー。他にもいろんな花で綺麗な花冠を作るのだ。
「お姉ちゃん、見て~。」
クアイツができあがった花冠を持ってよってきた。白を基調とした冠に、所々赤やピンクの花でアクセントを入れている。とても子供の作品とは思えないほど素敵だ。
「きれいだね。きっと兄さんも喜ぶよ。じゃ、私は腕輪を作ろうかな。」
私は今作り終えた冠をクアイツにあげて、腕輪作りに取りかかった。さっき作った冠と同じく、青い小さな花を使う。
私たち家族は人間ではない。夢喰い族という長命の種族だ。二百歳で成人、それまでは子供で、百歳になると名前がつけられる。成長は成人した途端にピタリと止まり、成人したときの姿でその後の人生を歩んでいく。長命というか、不老に近い。今私は百四十七歳。人間の年で言えば十四歳だ。
腕輪ができた。クアイツに見せようと思って立ち上がると、家の方からパリン、と物の割れるような音がした。
「お姉ちゃん、今の音、何?」
クアイツも聞いてきたが私はあまり気にとめず、
「きっとお皿か何かが割れた音だよ。父さんおっちょこちょいだから。」
と流した。
その後もしばらく、私たちは腕輪や冠を今度は自分の分を作って遊んでいた。
「お姉ちゃん、お母さんたちに輪っこ見せてくる。」
「うん、行ってらっしゃい。転んじゃダメだよ!」
クアイツが家に入るのを見届けて、また花を折り輪を作る。突然悲鳴が上がり、
「お姉ちゃん助けて!」
クアイツの声が響いた。
「クアイツ!?」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん助けて!助け・・・。」
「クアイツ!」
走って家に飛び込んだ。何があったのか分からないまま、クアイツを助けるのだと言う気持ちだけで。
ツンと鼻をつく嫌な臭い。家の中には見知らぬ男が二人いた。手には血塗れのナイフを持っている。床や壁が血で赤い。父さんと母さんは見当たらない。私は男たちを問い詰めようと、足を踏み出した。何かを踏んだ感覚がして足下を見ると、さっきまで妹が自慢げに見せていた白い花冠と、うつぶせに倒れているクアイツがいた。
「クアイツ・・・?」
しゃがんで体を揺らしてみても返事がない。
「お前も夢喰い族かぁ?」
男の一人が言った。私は黙って妹を殺された悲しみを噛みしめていた。きっと父さんと母さんも殺されているだろう。クアイツだけでこの量の血が出るはずがない。私のどこかで湧き上がる、マグマのような怒りに気づかずに男は続けた。
「お前らに賞金がかかってんだよ。一匹につき三百カーメルン。村に来た男がさぁ、夢喰い族は森に迷い込んだ人間を食べてるんだって教えてくれたんだ。俺の親父も帰ってこなくてな、敵討ちだ。簡単なもんだよな、憎い相手を殺せて、ついでに金ももらえるなんて。なぁ、お嬢ちゃん?」
嘘だ!そう叫びたかった。人間なんて食べたことない。私たちと取引してくれる親切な人間をなぜ食べなくちゃいけない。私たちが食べるのはウサギや鳥、それに野菜だけ。男たちの村に来たという奴は出任せを言ったのだろう。人間が愚かな種族だとは知っていたけれど、こんなに簡単に信じてしまうほど、愚かだったなんて!
私の火山は噴火寸前だ。何の根拠もない理由でクアイツや両親は殺されたのか?
「・・・ふざけるな。」
「何だってぇ?」
「よくもクアイツを、私の家族をっ!殺してやる!お前ら人間なんて、みんな【南の十字】に貼り付けられてしまえっ!」
私の中の山が噴火し、岩が吹き飛び、マグマがうなりを上げて男たちに襲いかかる。男たちの慌てた様子を見たのを最後に、私の理性は岩と共に吹き飛んだ。そこから先は、覚えていない。
トルーが買い物から帰ると、夢喰い族が住むルドンストイ村は人一人無く静まりかえっていた。
「どうなってるんだ?グラウニー爺さん?リリイさん?」
トルーは村中を回り、家を覗いていった。どの家にも人はおらず、ただ家の中に血が赤く飛び散っている。
「アーネスト神父?アナスタシア?シャーメル先生?・・・皆どこにいるんだ?一体何があった?」
歩き回って最後に広場へ入り、トルーは顔をゆがめて立ち止まった。
「嘘・・・だろ・・・。」
広場には四つの遺体が転がっていた。すべて見知った顔だ。間違えようが無い。ついさっきまでトルーが探していた、グラウニー、リリイ、アーネスト、シャーメルの遺体である。どの遺体も血まみれで、顔には恐怖と驚きの表情を貼り付けたまま固まっていた。
震えながら座り込んでいたトルーはふと我にかえると、幼なじみの五人を探して、再び村中を回った。
「ジャックのことだから皆逃げていると思うが・・・一応確認しておいたほうがいい。」
リリイの家であるパン屋の前に小さな物体が転がっている。近づいてみると、それはリリイの生まれたばかりの息子だった。トルーは赤子を抱きかかえて、また村を巡る。
「生存者なし、子供達は行方不明、か。後はしきたりにならうだけだな。」
彼は門の松明をつかむと、夢喰い族のしきたり通り、家に火をつけて歩いた。数十分後には村は火の海と化すだろう。最後に広場の遺体にリリイの息子を加え、目に涙を浮かべながら、彼らにも火をつけて焼いた。
「そうだ。母さん達は無事かな?」
トルーは走って村を抜けて振り返り、炎に包まれた村を見てつぶやいた。
「・・・彼らを、【南の十字】が少しでも労ってくれますように。」
そして、家の方角へ歩を進めた。
家の庭には花冠がいくつも転がっている。そして踏み荒らされた花。鼻をつく臭いは、村で嗅いだものと似ている。
「・・・っ!」
トルーは嫌な予感がして家に飛び込んだ。床も壁も一面が赤だ。元の木の面影はほとんど無い。
「うぁぁぁぁぁぁあああああああああっ!きゃあああああっははははははは!ひっひひっ。」
不気味な笑い声に驚いて家の中を見渡した。床に転がるのは幼い末妹の亡骸。近くに落ちている花冠は生前彼女が作ったものだろうか。その少し奥に立っているのは銀髪を赤く染め、狂ったように笑う上の妹。
「ロタっ!」
トルーは妹の肩をつかんで振り向かせ、息をのんだ。ロタの目には狂気の色が宿り、服にも顔にも赤い色がこびり付いている。奥に倒れる見知らぬ二人の男は、お互いにナイフを突き立て、息絶えていた。
『殺してやる!』
ロタと目が合った瞬間、頭に言葉が流れ込んできた。同時に、トルーの手は男達のナイフに伸びる。
「くそっ!【共鳴】か!」
【共鳴】。それはロタが持つ瞳術である。瞳術とは、夢喰い族に隔世遺伝で現れる特別な力のことだ。トルー、ロタ、そしてクアイツは、非常に稀なことに兄妹全員が瞳術を持っている。
言うことを効かない体を無理矢理動かし、
「目を覚ませ、ロタ!」
パンッ!トルーはロタの頬を打った。
ロタとトルーは荷造りをしている。あの後、トルーは正気に戻ったロタと情報交換をした。トルーが知っている村の情報とロタが知っている家で起こった出来事についての情報だ。お互いに慰め合って存分に泣いた後しきたりにならい家に火をつける用意をしているのだ。
「準備はどうだ?」
「もうちょっと。お金はどうする?」
「二人で分けてできるだけ持って行こう。多くて困るのは少し重いぐらいのことだろ。」
「わかった。」
荷物をまとめて袋に詰め、掃除した家の中で二人きりの夕食をとる。並べた遺体には毛布を掛けた。男達の遺体は猛獣が蔓延る森に放置した。今頃は肉片まで食い尽くされ、骨だけになっているだろう。
フードのついたマントを羽織り荷物を背負って外に出た。二人で長い間過ごした家の方を向いて願うときのように両手を組み合わせ、
「「彼らを【南の十字】が少しでも労ってくれますように・・・。」」
二人で呟く。トルーが松明を家に投げ込み、兄妹は泣きながら家を後にした。
ロタ視点はこれ以降ありません。シリーズで用語集も入れておきたいと思いますので、物語の途中で用語が分からなくなったりした場合などはそちらをご利用ください。




