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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『転生しても踏んだり蹴ったりな人生なので、開き直って好き勝手やっていく事にした』の試作、宣伝、とれーらーみたいなもの

「こんなもんか」

 崩れ落ちていく町の中で呟く。

 周囲は既に崩壊状態である。

 家の中にはゴブリンが入り込み、強盗を働いている。

 そこで見つかった人間がどうなるかは言うまでもない。

 男は殺され、女は犯される。

 陥落した居住地が辿る末路がそこにある。



 家の中だけではない。

 まだ戦闘が続いてる所では、鬼人や獣人を中心とした部隊が交戦を続けている。

 これに加え、略奪に加わってないゴブリン(小鬼)の集団が戦線を構築していた。

 既にそれは包囲網と言って良い。

 相手を逃がさず、確実に殲滅するための布陣である。

 体力・知性はおろか、その意志においても脆弱と終われるゴブリン。

 そんなゴブリンも勢いにのり、戦況が有利ならばおいそれと逃げ出しはしない。

 そんなゴブリンに取り囲まれた、最後の抵抗部隊は風前の灯火となっていた。



 やしろユキヒコはそうした風景を、さして動揺する事もなく見つめていた

 殺されていく人々。

 どこかで上がる悲鳴。

 生き残ってはいるが、いずれは悲惨な最期を遂げるであろう残存者。

 それらを見れば少しは心が痛むと思っていた。

 しかし。

 実際にそれらを見ても大して何もこみ上げてくるものはない。

 強いていうならば、

『ざまあみろ』

というような気持ちであろうか。

 転がる死体を、今まさに襲われてる最中の者達を、最後まで抵抗をしようとしてる者達を。

 それらを見ていても、哀れみや同情よりも、当然の末路だという思いしか出てこない。

(ここまでだったか)

 自分の気持ちにあらためて驚く。

 かつての同胞に対して全く心をよせてない事に。

 むしろ、溜飲が下がっていく事に。

 それだけ気持ちが冷めていた事に。

 自分が既に彼等を仲間や繋がりのある者と見てない事に。

 何よりも。

 そういった感情があるかもしれないと思っていた事に。



 とはいえ、この町にいる者達に直接恨みがあるわけではない。

 全く面識のない者達ばかりである。

 そんな者達に恨みを抱いてるわけがない。

 ざまあみろ、と思うのは筋違いと言える。

 この事はユキヒコ自身も充分に理解していた。

 理解しているのだが、それでも思ってしまう。

 なるべくしてなったのだ、と。

 当然の流れである、と。

 襲われてる方からすれば理不尽極まりないであろう。

 だが、ユキヒコには彼等に全く罪がないとは思えなかった。

 否、罪はないかもしれないが、関係が無いとは思わなかった。

 全く意識してないだろうが、彼等もまた関係者であるとしか考えられなかった。



 その理由が、最後に残った者達の中心にある。

 残った最後の住人と、それを守るように立っている軍隊や義勇兵。

 そこに掲げられてる教会の紋章。

 領主でも軍隊でもなく人々の頭上にあるのは、宗教の印だった。

 この世界の、少なくとも知られている様々な国であがめられてるものだ。

 国境を越えたそれらは、実質的な権力はないものの、隠然たる影響力を持つ。

 事実上、国家すら超越した存在として君臨している。

 それが、兵隊に守られ、住人達の中心にいる。

 ある意味、この世界の状況を分かりやすくあらわしてると言えた。



「……目障りだな」

 呟くユキヒコは、取り囲んでる部隊を統率してる者に声をかける。

「あいつら、一気にやれるか?」

「もちろんだ」

 獣の特性を持つ種族の隊長が答える。

「出来れば、散らばってるゴブリンが戻ってきてからにしたいがな」

「無理だな」

 略奪と暴虐で忙しいゴブリンが戻ってくる可能性は低い。

「だろうな」

「今ここにいる連中でどうにかするしかないよ」

「分かってる。

 分かってるから頭が痛いんだ」

 獣人の隊長は困ったような、呆れたような顔をする。

「もう少し理性を持ってもらいたいもんだが」

「それが無理なのも分かってるだろ。

 ここにいる連中はともかく」

「確かに」

 現在、包囲をしてるゴブリンは練度が高い。

 ユキヒコがそこまで成長させた精鋭だ。

 通常のゴブリンよりも体格が良く、知性も高く、士気も高い。

 そんな者達だからこそ、目先の楽しみではなく、するべき作業を優先させている。

「おかげで助かってる」

「そう言ってもらえるとありがたい」

 ここまでやってきた甲斐がある、と思える。

 だが、こんな途中経過で満足してるわけにはいかない。

「やっちまおう。

 連中はこれで最後のはずだ」

「もちろん」

 ユキヒコに応えた隊長は、配下に命令を下した。

 鬼人と獣人、ゴブリンが一斉に襲いかかる。



 そこからはもう戦闘とも言えない蹂躙だらけだった。

 残り数人となった兵士と義勇兵では、取り囲む100を超える敵を抑える事は出来ない。

 槍や剣を繰り出して抵抗しようとするも、そんな彼等に10の棍棒や斧が振りおろされる。

 あるいは剣で叩き切られ。

 あるいは槍で串刺しにされ。

 持ち合わせた戦闘能力を発揮する事無く死んでいった。

 他の者達は言わずもがな。

 そのほとんどが次々に骸に変わっていった。

 子供や老人であっても例外ではない。

 また、女は生きたまま捕らえられていく。

 これは老人から優先的に始末されていった。

 それを見て泣き叫ぶ男達がいる。

 連れ去られる者達の中に母が、妻が、娘がいたのだろうか。

 しかし、そんな彼らがこの先について心配をする事は不可能になる。

 取り囲んだ者達が次々に彼等をこの世から切り離していくのだから。

 今生の別れを強制された彼等と彼女らは、もう二度と巡り会う事もない。

 やがてあの世で再会するまでは。

 あるいは共にどこかに転生するまでは。



「さてと」

 周囲で巻き起こる阿鼻叫喚の地獄絵図の中を通り、ユキヒコは前へと進む。

 その先には、最後に残った者達がいる。

 神官の格好をした者達。

 この町の教会の責任者とその従者。

「お、お前は……」

 怒り、恐怖、憤り、哀れみ。

 様々な感情が入り交じった顔と声がユキヒコに向かっていく。

「お前は、お前は……見れば人間ではないか」

「そうだな」

「なぜこんな事をする。

 悪魔に魂を売り渡したか!」

「さあ」

 教会の奴ららしい台詞だと思いながら相づちをうつ。

 相手と問答をしてるようで、全く会話になってない。

 ただ、相手の言ってる事に適当な感嘆詞を返してるだけである。

 ユキヒコからすれば、それくらいどうでも良い相手である。

 しかし、神官達はそうでもないようで、ユキヒコに様々な言葉を投げつけてくる。

「なぜ人を裏切る?!」

「このような事をしでかして、神が許すと思ってるのか!」

「背教者、神の怒りを受けて地獄へ落ちるが良い」

「貴様の魂は奈落をさまよう事になるだろう」

 それらを聞きながらユキヒコは、

「ああ、そう」

と呟いて手近にいた者を突き刺す。

 手にした刀剣は神官達の一人に突き刺さった。

 刺された者は信じられないものを見るようにユキヒコと傷口に目をやる。

 そして、

「………ああああああああああ!」

 悲鳴をあげる。

「ばかな!」

「神官に手を出すとは」

「そんな事をすれば、神の怒りを────」

 口々に非難があがってくる。

 それを発してる者達に、ユキヒコは次々と刃を立てていった。



「なんという……」

 残った最後の神官が愕然としている。

 まだ死んではいないものの、彼以外の神官は血を滴らせてうずくまっている。

 治療をしなければ出血で命が危うくなるだろう。

 だが、そんな事をしてる余裕は無い。

 周囲に彼の味方は既にない。

 連れ去られるか殺されるか。

 生きていてもまともに動ける者はいない。

 そんな状況で身近な者達の救済など出来るわけがない。

「なぜ、こんな……」

 そんな神官の口から疑問があがる。

 なぜここまで酷い事になってるのか。

 なぜここまでの事が出来るのか。

 そんな疑問だ。

 しかし、答えを知る事はない。

 ユキヒコの刀剣が彼を突き刺したからだ。

「…………う」

 うめき声をあげる。

 悲鳴にならないのは、せめてもの矜恃を守るためではない。

 無様に悲鳴をあげる事も出来ないほどの痛みを感じてるせいだ。

 ここまでされてる事への恐怖もある。

 普段、教会の神官をしてるなら決して陥る事のない状況。

 それへの恐ろしさが声を締め付けていた。

「安心しろ」

 そんな神官にユキヒコの声がかかる。

「殺しはしない」

 一瞬、神官は何を言ってるのか分からなかった。

 この場にそぐわない言葉だったから。

 しかし、すぐに別種の恐怖が襲ってくる。

「まだ役に立ってもらわないと困るからな」

 それが、これより酷い何かが待ってる事を示してる事を、本能で察知した。



 町のその後は悲惨の一言に尽きた。

 隠れていた者も残らず見つけられて引きずり出されていく。

 男は例外なく殺害されていき、女は外に連れ出されていく。

 建物は可能な限り破壊され、井戸は糞尿が放り込まれて使えなくされていく。

 防御用との設備は特に念入りに破壊され、再建を困難にさせられた。

 いずれも、この場所を再利用する事を難しくするためだ。

 手間と時間をかければ再生は可能だろうが、それには相応の資材と人手が必要になる。

 いずれは再建するかもしれないが、それまでの時間を稼げればいい。

 それだけで今後の戦争がやりやすくなる。

 特に教会は念入りに破壊された。

 そこには教会が設置した魔術装置などもあるからだ。

 これがあると、各地への通信などが行われる。

 他にも転移魔術の到着地として機能したりする。

 これにより迅速な部隊展開がなされるので、徹底的に潰しておかねばならない。

 彼等の辛抱する女神との交信を阻害するためなのは言わずもがなである。



 それを見ていた神官達が呆然としながら呟く。

「神よ、女神よ。

 なぜ、なぜこのような暴虐を……」

 なぜこのような暴虐を放置してるのか?

 その疑問が彼等の頭に浮かび、口から漏れていく。

 しかし、答えはこない。

 もとより女神との交信は簡単にはいかない。

 熟達した神官であっても失敗する可能性が高い。

 しかし、こんな時であるからこそ女神の言葉が聞きたかった。

 そして、この窮状を訴えたかった。

 それが出来ない彼等は、この状況に嘆く事しか出来なかった。



 そして、生き残った者達にも悲惨な結末が待っていた。

 いや、死んでいった者達にも残忍な結果がまっている。

 生きてる者達は、破壊された教会の前に連れてこられていた。

 舌を噛まないように猿轡をかまされ、手足に釘を打ち込まれて磔にされている。

 その姿は痛々しい。

 だが、それでもこの後に起こる事を思えば、まだ穏やかな処置と言える。

 ここで死ねたなら、彼等はまだ幸せだったかもしれない。

 そんな彼等の前で、ユキヒコは儀式を行っていく。



 町は魔術によって封印されていた。

 霊的な存在を遮断するための。

 実体を持ってる者には効果はないが、死んで魂となった者は捕らえられる。

 その為、死後に行くべき場所に向かう事も出来ずこの場に足止めされる。

 そんな魂を、まずは磔になってる者達の中に詰め込んでいく。

 肉体という器に強引に放り込まれていく魂は、その苦痛に悶絶していく。

 器である肉体の持ち主は特に。

「んふぐううううううううう!」

 痛みとは違う苦痛を受けて、磔にされてる体が派手に動く。

 しかし、儀式はまだ終わって無い。



 周囲に漂う霊魂が器である肉体に全て収められた。

 本来一人しか入らない肉体に町に住んでた者達の魂全てが入れられたのだ。

 一人当たり数十人ほどの魂が入ってる。

 許容量などとっくに超えている。

 そんな状態にされれば、肉体も詰め込まれた霊魂も無事ではいられない。

 肉体は魂に合わせたのか膨れあがり、元が人間であった事を想像する事が難しい。

 風船のようにふくらんだ体と、そこから生えるこれまた膨れあがった手足と頭。

 それは突起物がついた肉製の何かだった。

 ユキヒコはそれを更に加工していく。

「ぶぎゅううううううう!」

 魂の詰め込まれた肉体が悲鳴をあげていく。

 儀式が最終段階を迎え、対象である彼等に更なる圧力をかけていった為である。

 魔術、および霊的な圧力により、魂と肉体は無理矢理圧縮されていく。

 膨れあがってきた肉体は一気に縮まっていく。

 それはバスケットボールほどの大きさになるまで続いていった。



「出来たな」

 全てが終わった時、ユキヒコの前には10個の肉塊が鎮座していた。

 それを仲間である鬼人や獣人、ゴブリン達に配っていく。

 彼等はそれを受け取ると、更に魔術を用いていく。

 凝縮した霊魂を吸い出すために。

 そして、吸い出した者の霊魂に吸収されていく。

 こうなった霊魂は消滅する。

 死後の世界に行く事も転生をする事もない。

 完全に消え去っていく。

 それは単に死ぬより恐ろしい事であろう。

 実際、凝縮され一つにされた霊魂は、吸収への恐怖で震えている。

 それは肉塊の動きとなってあらわれる。

 その肉塊は霊魂を吸い出されるごとに収縮し、しなびていく。

 中身が無くなっていくように。

 それがこの町に生きていた者達の断末魔である事は確かだろう。

 しかし、それを省みる者はいない。

 ここにいるのは、町の住人の敵しかいない。

 そんな彼等が町の者達の事を考えるわけもなかった。



 全てが終わったあと、残ったのは廃墟と静寂だけだった。

 ユキヒコ達はそんな場所から離れていく。

 必要なものは粗方確保してある。

 長居する理由は無い。

 下手に逗留すると、様子を見に来た敵と遭遇する可能性が出て来る。

 そうなる前にさっさと逃げるのが吉だった。



 廃墟に変わった町から出る途中。

 ふと、周囲に目をやる。

 昨日までは生活感に溢れていたであろう場所。

 そこから既に日々の営みの気配は消えている。

 あるのはいたましい傷跡だけ。

 それを為した軍勢を率いてる事に、ユキヒコは多少の感慨を抱く。

 達成感や後ろめたさといったものではない。

 ここまで来たんだなという思いである。

 女神と人類に見切りをつけ、敵である悪魔と呼ばれる者達に鞍替えしてからどれだけ経過したか。

 歳月を数える余裕もないほど走り抜けてきた。

 その結果がこれなのかと思うと、やはりそれなりの感情を抱きもする。

 ここまれやれるようになったと。

 まだまだこの程度では終わらないと。

(行ける所までやってやらないと)

 そんな思いを抱く。

 これを、自分をここまで追い込んだ女神や人への報復にあてようと。

 どれだけ効果があるのかは分からないが。

(まあ、少しはね)

 効果があれば良い。

 そうも思ってる。

 自分一人が頑張ったところで高が知れている。

 それでも何もしないよりは何かをしておきたい。

 少しでも結果を出したい。

 そう思ってこれまでやってきた。

 それは確かに形になってきている。

 一人で出来る範囲を超えてる程度には。



 それでも。

 まだまだ求める段階には到達していない。

 やってる事と言えば、国境沿いの地域を少しばかり荒らしてる程度。

 国全体、教会の勢力圏からすれば、本当に微々たるものだ。

 やろうとしてる事、やりたいと思ってる事を考えると、ユキヒコが手にしてる力はまだまだ小さいものだった。

 それでも何もしないでいるつもりは無かった。

(ここまでこれたんだから)

 村や小規模な町なら壊滅させるだけの軍勢。

 それを率いるくらいにはなれた。

 個人としても魔術を始めとした様々な力を。

 出来ればこの調子で更なる力を手に入れていきたかった。

 より多くのものを壊してしまえるように。

 自分から大事なものを奪い取っていった全てを。

(それくらいは良いよな)

 何も一方的にケチをつけてるわけではない。

 やられたからやり返してるだけである。

 何事もなければ、こんな事はしないでいただろう。

 そもそも、こんな事を思いつきもしなかっただろう。

(まったく……)

 余計な事をしてくれた、と思う。

 なんであんな事をと、今でも繰り返し考える。

 しかし、理由なんて分からないし、知ったところで過去が変わるわけではない。

 ならばユキヒコがやる事は一つだけ。

 やらかした当事者に責任をとってもらう。

 その為だけにユキヒコは行動していた。

 先の見えないほど長大な道を歩むように。

 達成するのが不可能に思える程巨大な事を。



(教会も、それを信じてる連中も)

 必ず殲滅してやる。

 ……それが、ユキヒコの願いであり誓いであり、意志だった。

続きは本編をどうぞ

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『転生しても踏んだり蹴ったりな人生なので、開き直って好き勝手やっていく事にした』
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