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7 ツヴァイ頑張る

 



「―――――っはい」



 小さな声が聞こえた。


 確かに「はい」と、頷きながら。

 俺の希望から見える幻覚でも幻聴でもなく。



 シェイラ嬢が頷いてくれた!!



「あぁ、っ良かった!」


 テーブルの陰で小さくガッツポーズをしてしまった。

 いや、叫び出さなかっただけよく堪えたな俺。


 まさかシェイラ嬢がお見合い相手が誰だか知らずに顔を合わていたとは思わなかった。


 相手が誰であろうと断るつもりだったのだろうか。

 しかし、ヘイゼルミア侯爵家へ迎えに行ったときの侯爵とシェイラ嬢のやりとりから、シェイラ嬢は俺に会うというのはわかっていたはず。


 なのにお見合い相手を知らなかったとは。

 そんなことあるのだろうか?


 よくわからないが、そのせいで暗に「観劇に行かず帰りましょう」的な発言を聞くことになるとは・・・

 とりあえず一緒に行けることにはなったから良かった。危なかった。


 このチャンス無駄にしない。

 何としてでも、またデートに誘う口実を作らねば!


「こほんっ、シェイラ嬢は観劇によく行かれますか?」


 咳払いをして気を持ち直す。


「いいえ、観るのは好きなのですが、あまり屋敷から出ることがないのでお恥ずかしながら数回しかありません」


 よし、好きならばまた誘おう!

 出掛けるのが嫌いなわけではなさそうだけど、侯爵が外出に厳しいのだろうか?

 うん。出掛けの俺への警戒から厳しそうだな。

 シェイラ嬢はこれだけの美貌だからな。父親としては心配にもなるだろう。


「そうですか。では本日の演目も観たことないかもしれませんね。最近ご令嬢や貴婦人方に人気の『王子と妖精の歌姫』という演目です」


「まぁ!王太子殿下と王太子妃殿下の婚約期間の馴れ初めをもとにしたと噂の?」


 シェイラ嬢の瞳がきらきらしていて眩しい。


 良かった。演目選択は間違えなかったらしい。

 さすがモテる友人イチオシだ。次も協力させて参考にしよう。


「はい。我が主、ヴォルレムディル殿下が当時婚約者であった妃殿下を追いかけ回していた頃の話です。俺達側近は殿下のお供に連れ回されて大変でした」


 ちょっと遠い目になる。あの頃は殿下も若く我が儘が大変だったなぁ。

 普段は賢くしっかりしているし優しい方なのだが、妃殿下に関しては・・・


「ツヴァイ副隊長様も王太子殿下と旅に行かれたのですか?では、この王都以外の色々な土地を見て回られたのですね。私は王都から出たことがないので羨ましいです」


 ぐっ!頬を染めるシェイラ嬢が可愛すぎてヤバい。


 是非一緒に旅行しましょう。

 絶対もっと仲良くなって婚約して結婚したら直ぐにでも新婚旅行に連れていきます。

 連休もぎ取れる度に連れていきます。


 だから結婚してください!!!


 ――――って、違う。

 いきなりこんなこと言い出したら気持ち悪いって言われそうだ。

 落ち着け。徐々に、徐々に仲良くなるんだ俺!


「そうですね。色々と己の為にもなりましたが、近衛は王族付きの護衛勤務が多いので色々と無理難題をふられましたよ。まぁ、それだけ信頼してもらえているのでやりがいはありましたし、あの時の功績もあって、この歳で第1の副隊長を任せて頂けたので大変光栄なことです」


 キリッとだらしない顔を引っ込める。

 シェイラ嬢は感心したように頷いてくれていた。


「ツヴァイ副隊長様は王太子殿下の護衛兼側近だったのですね。今代は王太子殿下含め側近の方たちはとても優秀だと聞きました。ツヴァイ副隊長様も幼少からさぞや優秀だったのでしょうね」


 うっ、期待して頂いてなんですが俺自身は大したことないです。

 確かに殿下や他の側近は優秀だ。権力も金も人望もあるし、顔面偏差値高いからご令嬢方にモテる。


 だが悲しいかな、俺は冴えない武骨男なので例外だ。


「いえいえ、俺は騎士としての腕しかありません。小さい頃も体力が有り余ってるぐらいしか取り柄がないから士官学校に入って騎士になりました。実家は領地のないしがない伯爵家、しかも次男坊です。高位貴族出身の嫡男や飛び抜けて頭の優秀な他の側近達とは比べものになりませんよ」


 口から乾いた笑いが漏れ、少々卑屈になってしまう。

 もっと自信に溢れた男の方がカッコいいし好感をもってもらえるだろうに、見栄すら張れないとか俺カッコ悪いな・・・


 情けなくて徐々に顔が俯いてしまう。


「そうでしょうか?ツヴァイ副隊長様はその若さで副隊長に抜擢され、実家を頼らず騎士としての腕も秀でていらっしゃるならば十分立派だと思います」


 顔を上げるとシェイラ嬢は不思議そうに首を傾げていた。

 媚びを売るでもなく当たり前のように発せられた言葉にホッとした。


「あ、ありがとうございます」


 シェイラ嬢が他の側近達と会ったことがないから出てきた言葉だとわかっていても顔がゆるんでしまう。

 だらしない笑みにならないように気を付けないとな。


「ツ、ツヴァイ副隊長様もさぞかしおモテになるのでしょうね」


「・・・はい?」


 小さな唇からポツリと漏れた声。


 俺のゆるんだ脳みそに届かずうっかり聞き間違えたのかと思い見返すと急にシェイラ嬢の表情が曇った。

 眉を潜め目線をキョロキョロと落ちつきなくさ迷わせている。


「花形近衛騎士の副隊長で、真面目で好ましい性格。体躯も逞しく立派なツヴァイ副隊長様と結婚したい令嬢はたくさんいらっしゃるでしょうから、さぞおモテになるのでしょう?」


「へっ???」


思わず間抜けな声が出てしまった。


・・・俺、モテませんよ?



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