表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/50

42 シェイラの告白

クレメルの扱いはこんなもんです。

 


「シェイラ嬢、好きです!俺と結婚してください!!!」



 扉が勢いよく開け放たれるとともに響く声。


 振り返った視界に飛び込んできたのは、私を射抜くように真っ直ぐ向けられた熱を孕む黒曜石の瞳。

 走って来たせいか乱れた黒髪に汗の滲む形の良い額。息を切らし赤く上気した頬や色香を放つ薄い唇。


 全てに惹かれ合い、惹き付ける魅力に頭がクラクラと逆上せてしまいます。



「――――っ、はい」



 何とか声を絞り出します。



「っはい、勿論です、ツヴァイ様!」



 私の顔の筋肉が仕事を放棄したのか、目や口許が緩みきった笑みが浮かんでいることでしょう。にやけてしまいます!


 だって、今!

 ツヴァイ様に、ツヴァイ様に求婚をされました!


 夢ではないですよね!?


 本当に私で良いのですか?



 あぁ、とても嬉しいです!



 暫くして逆上せた頭が落ち着き気が付くと、ツヴァイ様が困惑した表情で私の後ろを見ていました。


「・・・えっと、あの、それは?」


 ツヴァイ様の視線の先には、クレメル・カシューネ様が跪いた状態でティリに頭を押さえられ、所謂土下座スタイルとなっております。

 ティリは此方へにっこり微笑みを浮かべております。ツヴァイ様からの求婚を祝ってくれている笑みですね!ありがとうございます!


 ツヴァイ様の仰るそれとは、クレメル・カシューネ様のことでしょうか?


 これはクレメル・カシューネ様が自ら跪いたのではなく、第6兵舎でソレに結ばれたクレメル・カシューネ様の靴ひもがタイミングよく足に絡まり、つるっと転んでしまったところをティリが「おおっと、足が滑りました!」とか言いつつ何故か手でクレメル・カシューネ様の頭を床に打ち付けるという摩訶不思議な現象により生まれた状況です。

 私とお父様が呆気に取られている一瞬の出来事でした。


 そして憐れクレメル・カシューネ様は、ティリによる強制土下座でお父様と私に謝ってくださっているところに、突然ツヴァイ様が現れたというわけです。


 ええ。最早、謝罪とは何ぞやです。

 ティリが満足げですし、お父様も止めないので良いのでしょうか。

あ、ソレがまたクレメル・カシューネ様をつついて遊んでますね。自由です。


「その前に、ツヴァイ殿。俺はシェイラへの求婚にまだ頷いていなかったと思うが?しかも、財務大臣の執務室にノックもせず、扉を壊す勢いで入ってくるとは何事かね?」


 椅子に腰かけたまま、お父様がツヴァイ様へ低い声で叱責を飛ばします。


 むぅ。ですが、これは拗ねているだけですね。

 お父様は自分が許可の返事する間もなく、ツヴァイ様が私へ求婚されたから面白くないのでしょう。


「し、失礼しました!言伝てを聞き、シェイラ嬢が誰かと婚約してしまったらと焦り我を忘れてしまいました」


「誰か、だと?」


 え?誰ですか!?


 言伝てにそのような内容はなかったと思うのですが。

 ツヴァイ様以外と婚約したくないからこそ、縁談避けの修行が進まなかったのですし。


 ・・・決してわざとではありませんよ?


「・・・いえ、そのっ」


「ツヴァイはヘイゼルミア嬢がそこの土下座ボーイに取られると思ったんですよ!」


「ふぇ!?」


 いきなり明るい声が飛び込んできました。びっくりするではないですか!


 声の主である鮮やかな赤髪に爽やかフェイスの殿方は、ツヴァイ様の肩にべったりと乗り掛かるように片腕を回し愉しそうに笑っていました。


 むぅ、羨ましいです。

 今ツヴァイ様にべったりして許されるのは、求婚されたての私ではないのでしょうか。ズルいです。


 むむむ。淑女として自ら飛び付くのは破廉恥でしょうか?


「シェイラがカシューネの小僧と婚約するわけがないだろう。ツヴァイ殿は何を勘違いしているんだ?」


「そうなのですか、ツヴァイ様!?ありえません!」


「・・・いえ、シェイラ嬢が進んでカシューネ弟を選ぶとは思っていません。ですが、き―――――、何でもありません」


「「?」」


 歯切れ悪くツヴァイ様が言葉を取り消しました。「き」とは何でしょう?


「あっはっはっはっ!僕がツヴァイに言ったんですよ。そこの土下座ボーイ、えっと、カシューネですっけ?そいつにシェイラ嬢が既成事実でも作られたんじゃないかっ、―――ふがっ!?」


「っおい、アストン黙れ!」


 とんでもないことを飄々と言い放つアストンと呼ばれた殿方。

 ツヴァイ様が慌てて口を手で塞ぎましたが手遅れです。ばっちり聞こえてしまいましたよ。


 お父様の目が人を殺せそうな冷気を放っています。


「ほう、スウィンバーン殿のせいか。うちのシェイラが既成事実を作られたと?何故そんな事実無根な出鱈目を言ったのかね?」


 スウィンバーン侯爵家。

 我がヘイゼルミア侯爵家と並ぶ由緒正しき侯爵家ですね。直接お会いしたことはありませんでしたが、そこの嫡男が確かアストンというお名前だったはずです。

 ツヴァイ様と同じく王太子殿下の側近で、将来の宰相候補で現在は宰相補佐で優秀な文官様らしいです。


 ツヴァイ様に口を塞がれモガモガしているお姿はそうは見えませんが・・・


「っぷはー!言伝ての兵士がそこの侍女の声を漏れ聞いたらしく、そこから導き出された答えがそれだったんですよ!」


 質問に答えるため、口を解放されたスウィンバーン様が推理小説の探偵のごとく決めポーズを取られます。


 いっちょ前に交渉など片腹痛いの交渉が求婚のことだとか、どうして一緒に求婚の許可をもらいにいこうとなるか謎な推理です。

 土下座でお父様に慈悲を願えば心置きなく愛しい方からの求婚を受けるとか、いろいろ抜けた文章を繋げると成る程そうなったかと言うほどの勘違いです。


 下準備が既成事実と言うのが、極めつけに意味がわかりません。


 ティリはクレメル・カシューネ様が私やお父様の前で謝罪するように脅し、けふんっ、話していただけです。

 心置きなく愛しい方からの求婚を受ける下準備というのも、ツヴァイ様から求婚していただけたらと願い鬱々していた私に、此度のごたごたである過去の憂いをクレメル・カシューネ様の謝罪により清算するという意味だと思います。


 一応、謝罪は無理矢理されましたし、晴れてツヴァイ様からの求婚を受けた今、憂いなどキレイさっぱりとありません!


「いや~、間違えちゃいましたかね?すみませんね」


 スウィンバーン様のあっけらかんとした謝罪に、剣呑な空気を出していたお父様も毒気を抜かれています。ツヴァイ様は呆れ顔ですね。


「お前なぁ・・・」


「でも、ツヴァイが早急に、しかも城中に響き渡る声でヘイゼルミア嬢に求婚できたのは僕のおかげじゃないですか?その様子ならオーケーもらえたんでしょうし、ちょっとの間違いくらい大目に見てくださいよー」


 確かにそうですが、きっとツヴァイ様なら順序立ててきちんと求婚してくださったと思います。


 あら?ツヴァイ様がピシリと固まっておられます。どうされたのでしょう?


「・・・は?城、中に、だと?」


「いやはや、真面目堅物が廊下を鬼気迫る勢いで走り、大声で求婚とか爆笑ものですね!これでヘイゼルミア嬢にちょっかい出す奴はいなくなるでしょうよ。中々やりますね、ツヴァイ」


「~~~~~っ!?!?」


 あ。ツヴァイ様が真っ赤なお顔に。

 天井へお顔を向けて悶絶しておられます。そんなお姿も可愛いです!


 無自覚で動いてくださったのですね。

 そんなに私が他の人と婚約するのかと心配してくださったかと思うと胸がぽかぽかいたします。


「ぷっ、え?気付いてなかったんですか?ぷくくっ、必死か!ヘイゼルミア嬢大好きすぎですね」


「ツヴァイ殿・・・」


 スウィンバーン様がお腹を抱えて笑い、お父様が呆れた表情でツヴァイ様を見ます。


 ですが、私は呆れてませんよ!


「わ、私は嬉しかったです!」


 ここぞとばかりにツヴァイ様をスウィンバーン様から取り返し、逞しい胸板に手を添えて身を寄せます。

 これくらいなら破廉恥ではないですよね?ドキドキ。



「ツヴァイ様、ありがとうございます。私もとてもお慕いしております!大好きです!」



 顔が熱いですが、頑張って緩んだ顔でツヴァイ様を見上げます。が、――――――


「―――えっ?」


 ツヴァイ様が真っ赤なお顔で天を仰ぎ、バタリと倒れてしまわれました!?


 え?

 ひぃえぇっ!?


 ツ、ツヴァイ様っーーーー!?!?!?





ツヴァイはシェイラの『ほほえみ』をくらった!

きゅうしょにあたった!

HPが0になった!

ツヴァイはひんしだ!


次回最終話です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ