41 ツヴァイと求婚
アストンの迷推理!
彼もツヴァイで遊び隊です。
「ツヴァイ副隊長!ヘイゼルミア侯爵令嬢から言伝てがあります!」
会議が終わり、王族や宰相、外交や軍務の大臣、それらの幹部達が順に、それぞれの持ち場へぞろぞろと帰って行く。
その幹部達の中、側近仲間のアストンと歩いていた俺は廊下に控えていた兵士に呼び止められた。
見ると、兵士は第6部隊所属の制服を着ている。
シェイラ嬢が修行で第6部隊の訓練場を借りているのは知っていたので、そこの兵士に頼んだのだろう。
「シェイラ嬢から?」
「へぇ、ツヴァイの愛しの化け物令嬢からですか」
興味を持ったのか、アストンが横で足を止めてニヤニヤしていた。
さっきまで溜まってる仕事を片付けて早く家に帰りたいとぼやいていたのだから仕事しろよ。
「はっ!会議が終わったらツヴァイ副隊長に面会したいので知らせて欲しいとのことです!」
「そうか、報告感謝する。シェイラ嬢は今どこに?」
兵士の言伝てに頬が緩む。
シェイラ嬢に早く会いたいと思っていたところに、向こうから面会を申し込まれたのだ。嬉しくないはずがない。
「はっ!自分が言伝てを頼まれた時は第6部隊の施設兵舎にいらしたのですが、ツヴァイ副隊長を待つ間に財務大臣執務室へ父ヘイゼルミア侯爵を訪ねる予定らしいので、今は其方におられるかと」
「・・・そうか」
まさかの父親であるヘイゼルミア侯爵とセット。
ヘイゼルミア侯爵に求婚の許可を先にもらい、直ぐ様シェイラ嬢とふたりだけの場を設けて求婚するつもりだったので出鼻を挫かれた感が・・・
シェイラ嬢の目の前で求婚の許可をもらうのは、間抜けな感じがするのでできれば別の時がいい。
だが、そうなると俺が求婚するまでに強力なライバルが湧いて出る可能性が大だ。
あぁ、くそっ。どうすればいいんだ!?
俺がぐだぐだ悩んでいる間も兵士はまだいたらしい。
目が合うと、少し躊躇った後に口を開いた。
「あの、少し気になる事が・・・」
「何かあったのか?」
「ヘイゼルミア侯爵令嬢と一緒に第4部隊の隊員がいました」
「第6部隊の兵舎なのに第4が?変ですね」
横からアストンが加わってきた。まだいたのか。
・・・しかし、確かに変だ。
他部隊の兵舎へは基本的に出入り禁止である。
勿論、仕事など用があれば構わないのだが、書類のやり取りなら事務員が行き来するし、合同任務や演習、訓練などならば情報が
漏れないように隊長や副隊長が直接出向くことが多い。
なのに、兵士は第4部隊の゛隊員゛と言った。
しかもシェイラ嬢が、一緒に?
普通に考えればシェイラ嬢と知り合いなのだろうが、軍に所属していないシェイラ嬢はあくまで第6では場所を借りている立場。
ならば待ち合わせに第6の兵舎は使わないだろう。
「はっ!ですので、不思議に思い見ていたので会話が聞こえてしまったのですが、その、」
何故か発言を躊躇する兵士。
横でアストンが愉しそうに目を煌めかせた。帰れよ!
「何かおかしなことを?」
「はっ!ヘイゼルミア侯爵令嬢とツヴァイ副隊長はお見合いをされている最中と伺っております。少々気になる言葉が漏れ聞こえたのでツヴァイ副隊長に報告すべきか迷いまして」
「言え」
何やら不穏な雲行きに声が固くなる。
アストンが愉しそうに俺の様子を見ているのが腹立たしい。マジで帰れよ!
兵士が聞き取ったのは、主にシェイラ嬢の侍女の楽しそうに発した言葉だった。
「いっちょ前に――交渉――片腹痛い」とか、「旦那様は、溺愛するお嬢様の――ために只今奮闘中」「今からお嬢様と激励に向かう―――も一緒に」
「土下座」「旦那様にお慈悲を願えば」など。
そして、侍女は嬉しそうに微笑み、
「心置きなく愛しい方からの求婚を受ける――下準備」と言っていた、と。
第4部隊の隊員は兵士に背を向けて立っていたから顔はわからなかったが、長い金髪を束ね肩に流していたらしい。
思い当たる人物はひとり。
――――カシューネ弟!!
しかし、だとしたらおかしい。
カシューネ弟がシェイラ嬢にしたことから、シェイラ嬢の侍女にとってカシューネ弟は気に食わない、または赦せない対象であるはずだ。
それなのに楽しそうに話し、嬉しそうに微笑むだろうか?
「おやおや?シェイラ嬢はツヴァイからそいつに乗り換えたんですかね?」
「は?」
「自分には判断できなかったので、それは何とも・・・」
アストンの飄々とした発言に、兵士は弱った表情で首を傾げた。
俺としても、何故アストンがその結論を出したのか謎だったので怪訝な表情となっているだろう。
「だって、いっちょ前に交渉など片腹痛い。の交渉が求婚のことだとしたら?ヘイゼルミア侯爵は溺愛するヘイゼルミア嬢のために奮闘中って、縁談断りまくってるみたいだから、それのことでしょう。今からヘイゼルミア嬢と激励に向かうので第4の隊員も一緒にって言っていたのでしょう?」
「えっと、そうでしょうか?」
「アストンの解釈は無理ないか?」
アストンは自信満々だが、憶測でものを言い過ぎだろう。
そう言われたらそうとも取れるが、元々の情報が断片的すぎてどういう意味かは判断できない。
「いやいや、つ・ま・り!一緒に求婚の許可をもらいにいこうってことでしょう!」
「・・・そんな、まさかだろ。その隊員が俺が思い浮かべた奴ならば、シェイラ嬢に好意を寄せているから求婚する可能性はあるが、まず断られるはずだ」
元凶カシューネ弟の求婚ならば、ヘイゼルミア侯爵が許可するとは思えない。シェイラ嬢とて頷かないと思う。
「え~。だって、土下座で旦那様にお慈悲を願えば、心置きなく愛しい方からの求婚を受けるとか、他にどう解釈するんですか?下準備がわかりませんが、何でしょうね・・・あ。既成事実作ってからとか?」
あっけらかんと告げられた言葉に凍りつく。
「!?」
き、既成事実だと!?
確かに、それがあれば他家からの縁談が減るだろうから有利にはなるが、シェイラ嬢は嫁ぐわけではなく婿を取る立場だ。
他の男と関係があっても、婿入りしたいという家はあるだろう。
しかも、化け物令嬢と呼ばれていたころならいざ知らず、今のシェイラ嬢の美しさの前ではそれすら問題にならない可能性が高い。
それ以前に、シェイラ嬢が奴に既成事実を作らせる隙を許すだろうか?
いや、でもシェイラ嬢は純粋培養箱入り娘だからな・・・
「あぁ!むしろ既成事実ができちゃったとか?」
「は!?馬鹿なっ、」
「うんうん。極上の美女なら我慢できる奴ばっかじゃないでしょうからね。シェイラ嬢も、そんな事態になってたらツヴァイの求婚は受けられないですね。だから、やらかしたその隊員に謝罪と求婚をさせて責任取らせるとか?これ、いい線いってません?」
シェイラ嬢が極上の美女というのには同意だ。
我慢できない奴もいるだろう。俺みたいにな。
だが、だからと言って俺の求婚が受けられないのは納得できない!
俺がやったこともマナー的に言えばアウトだ。
婚約者でもないのに人前で抱き上げたり、馬車でふたりきりになったり、膝の上に座らせたり、目尻にキスしたりと、噂になったり純潔を疑われたから責任を取れと言われてもおかしくない案件である。
だから既成事実をでっち上げるならば俺の方が先だ!
それなのに、ちょっとやそっとのことでカシューネ弟を選ぶはずがない。
余程のことがなければ。
例えば、―――――――
「・・・駄目だ」
想像することを頭が拒否している。
「どうしました、ツヴァイ?」
「そんなものはあり得ないし、俺以上にシェイラ嬢を想って幸せにできる奴でなければシェイラ嬢を諦められない!」
「へ?」
俺はアストンや兵士を置き去りにして廊下を走っていた。
余程の緊急や非常事態以外で廊下を走ってはいけないが、俺にとっては緊急事態だ。
やっとここまできたのに、求婚もできずに終わるなどあり得ないし、堪えられない。
すれ違う兵士や部下、役人が驚いて俺を見て脇に避けていたのだが、それすら視界に入らずに走り続けた。
やっと、足を止めたのは財務大臣の執務室前。
その扉すらも、ぶち破る勢いで開け放っていた。
「ヘイゼルミア侯爵、シェイラ嬢への求婚の許可を!俺がカシューネ弟より、誰よりも、シェイラ嬢を愛し大切にします!」
室内に侵入しながら叫ぶ。
マナーも順序もへったくれもない。
視界には、執務机の椅子に座るヘイゼルミア侯爵の驚く顔。
執務机と扉の間に立つシェイラ嬢が振り向く瞬間、彼女の元へ歩を進めながら続きを言い放つ。
「シェイラ嬢、好きです!俺と結婚してください!!!」
走って来たせいで切れる息を整えることも忘れ、シェイラ嬢を見つめると、吸い込まれそうな榛色の瞳が俺を映した。
「――――っ、はい」
掠れたように小さな声が聞こえた気がする。
「っはい、勿論です、ツヴァイ様!」
嬉しそうに微笑むシェイラ嬢という落雷を受けた俺の脳と心臓が活動を暫く停止した。
・・・え?
今、はいって聞こえたぞ?
受けてもらえた、のか?
あれ?カシューネ弟は?
あ、床で土下座して・・・え、何で侍女殿が頭押さえつけてんの!?どういう事態?
わけがわからん。
しかも俺、テンパったせいでさっきまで間抜けだと思っていた仕方で求婚してしまったのか!?
あと少しだけお付き合いください!




