40 シェイラと侍女
ほぼティリのターン。
ソレにツヴァイ様がもうすぐいらっしゃると聞いて直ぐ、タイミングよく第6の隊長様が本日の訓練の終わりを告げてくれました。
どうやら、王太子殿下が帰国されたので幹部の方達は召集され会議だそうです。ソレが言うココとは王城をさしていたようで、訓練場ではなかったです。
ですから、きっとツヴァイ様も王城に着いたら先に会議に出席されると思われます。身支度を整える時間はありそうでホッとしました。ちょこっと残念でもあります。
隊長様に本日の修行の御礼を述べ、身支度を整えに女性隊員用の更衣室へ駆け込みました。
いつも利用させていただいておりますので、訓練場の隅に控えていたティリも心得たもので支度を手早くしてくれます。
「どうしましょう!ツヴァイ様に久しぶりにお会いできます!」
「はい。ようございましたね、お嬢様。落ち着いてください」
ティリにドレスの着付けをされながらも気分がウキウキするのを止められません。
『シェイラ嬉しい?では、報せたソレをもっと褒めてほしい!』
「そ、そうね。ソレありがとう!とっても凄いわ!」
ふわふわと浮きながらついてきたソレの小さな頭を指先で撫でます。
サラサラの黒髪が少しだけツヴァイ様に似ていて、ツヴァイ様を撫でているみたいでドキドキします。
撫でられたソレは、いつもはくりくりとした黄色い瞳を満足そうに細めました。
『あい、もっと頑張るから、次も褒めてー』
「ええ、でも勝手に判断をしたら駄目ですよ?」
『あーい』
この2ヶ月の修行と交流で、ソレとのやり取りに随分慣れた気がします。
此方が油断して迂闊な発言をしなければ、普通に素直な良い子なのですよ。本当にクレメル・カシューネ様は何をされていたのでしょうか。
「・・・お嬢様。そこに妖精がいるのはわかっていても、独り言喋ってるみたいですね」
「そうね、人前では気を付けないといけませんね」
着付けを終えたティリが髪型も手早く直してくれます。
最近やっと室内で帽子を脱ぐことができるようになってきました。やはり化け物と呼ばれていた頃の癖で中々帽子を手放せませんね。
外にある訓練場は陽射しがありますので、貴族令嬢として日焼けしないためにもきちんと帽子を被っていて問題ありませんが、流石に室内ではマナー違反でしたからね。
訓練が終わった今は、帽子を脱いだ状態でもおかしくない髪型です!
『あ。《愛し子》がこっち来るよ!?』
「え?」
急にソレが慌て出し、逃げるように私の肩に飛び乗りました。
《精霊の愛し子》はこの王城に数人しかいません。
しかも、ソレが知っているのは第6の隊長様ともうひとりしかいません。隊長様は会議に向かわれたので、必然的にもうひとりの方ですね。
「・・・クレメル・カシューネ様が此方に?」
「あぁ、お嬢様にやらかした憎きクソ坊っちゃんですか」
「ティリ、言葉使いが悪いです」
「失礼しました。旦那様もあたしもお嬢様の苦労を思うと赦せませんので、少々口から本音が溢れました」
ティリが全然反省なしの表情で肩を竦めます。
「私も迂闊でしたし、クレメル・カシューネ様もわざとではなかったのですから・・・」
「いえいえ、腐っても侯爵家出身ですからね。流石に本人の前では控えますが、子供の独占欲による発言が原因とはいえ、その後の対応が最低でしたよ」
「・・・否定は、しません」
「そうでしょうとも!あたしらの可愛い大切なお嬢様を酷い目に遭わせておいて知らんぷりで6年放置ですよ?あり得ませんね!しかも、この間ツヴァイ様が叱って下さった際、兄の方は謝りましたが、当の弟は謝りもしないなんて、死に晒せばいいのに!!!」
ティリが地団駄踏んで鼻息荒く怒っています。
そうなのですよ。
私をずっと側で見守っていてくれたティリは大変ご立腹です。
勿論、ショコラカフェやヴォルフォレスト・ハイガーデンでの会話、王太子妃殿下とのやり取りも、私の側で影の如く控えてばっちり見聞きしてましたものね。
その場では侍女の鑑として抑えていた感情が爆発寸前です。
私とて、流石に死に晒せばとは思いませんが、消化不良のようにスッキリしない思いはあります。
正直嫌な気持ちになりそうで、クレメル・カシューネ様には会いたくないですね。
「ソレの言うこっちとは何処のことですか?」
『ココ!』
「えーっと、王城ですか?それとも第6の訓練場?」
『ない。人間の王の住み処じゃない、力使える場所でもない。ココ!』
「え?まさか更衣室ではないですよね!?」
身支度を終えた私達は、話しながらツヴァイ様が会議をしているであろう会議室の近くで待てる場所に向かうために部屋を出ます。
「扉開けていたら、とんだ変態野郎です、ね―――――」
ティリがふざけて笑いながら扉を開け、絶句しました。
私も予想外の事態、いえ、ティリの言った通りの事態に唖然としました。
「・・・変態野郎、え?・・・ぼ、僕が?」
はい。
誠に良いタイミン、けふんっ・・・失礼しました。
誠に不味いタイミングでクレメル・カシューネ様がいらっしゃいました。
ノックしようと上げたであろう拳は力なく落ち、口角を引きつらせて茫然としておられます。
・・・ティリ、貴女の言葉は、ばっちりご本人に聞かれてしまいましたよ?
いえ、名指しではなかったからセーフでしょうか?
チラッとティリを見ると、しれっと目を逸らされました。
・・・これは、やる気ですね。
「いいえ、カシューネ様のこととは一言も申しておりません。以前シェイラお嬢様に多大なる迷惑をかけ、のうのうと暮らしていたとある愚子息様への言葉で御座います」
にっこりと良い笑顔で言い切ったティリが頭を恭しく下げます。凄く丁寧なのに圧が強いです。
「そ、そう。のうのうと、へぇー」
クレメル・カシューネ様の顔がさらに強張り、目が遠くを見るようになりました。
名指しであれば言い返せますが、ティリは愚子息様へ申してますから反論したらご自分がそうだと認めることになりますものね。
「はい。その愚子息様は工学変人で有名な第4部隊所属の方で、日々予算の関係で財務省と揉めているとか。お嬢様に謝罪もできないのに、いっちょ前に予算交渉されるとは片腹痛いと思われません?」
「・・・あ、えっ、そ、そう、だな」
ああ。面白いくらいにクレメル・カシューネ様の顔色が悪くなっていかれます。
ティリはにっこにこの笑みを崩しません。
むしろ、核心的に傷を抉るように目だけ笑っていない笑みを向けています。輝いてますね!
ソレが興味深々で対照的なふたりを観察してます。
「あぁ、そう言えば!財務大臣であられる旦那様は、溺愛するお嬢様の怨敵を懲らしめるがために只今奮闘中でして、今からお嬢様と激励に向かうところなのですが、カシューネ様もご一緒に如何ですか?」
「っうぅえ、え?・・・ぼ、僕も、い、行くと?」
何やら変な呻き声が。
ソレが面白がってつついても気付かれない程しどろもどろですね。
私達はツヴァイ様の元へ行くつもりでしたが、予定変更ですね。ツヴァイ様には言伝てで待っていることを知らせていただきましょうか。
丁度廊下を通りかかった兵士さんにお願いします。
あ。ソレ、人様の靴ヒモで遊ぶのはお止めなさい。
そんなに弛めたのに先だけ結んだら踏んで転んでしまいますよ?
「はい。もしかしたら、愚子息様がお嬢様と旦那様に土下座する姿が見られるかもしれませんよ?多少は溜飲が下がり気分がよくなった旦那様にお慈悲を願えば手加減していただけるやもしれません、ねぇ?」
ええ、完全に脅しております。
一緒に来て土下座しなければわかってますよね?って暗に伝えておりますもの。
お父様の財務大臣という役職を使い、第4部隊に圧かけてます。職権乱用ですね!
恐らく平隊員であるクレメル・カシューネ様が原因で予算が減らされたり、おりなかったら大変ですからね。いくら実力主義でも吊し上げにあうかもしれません。
普段はおちゃらけたティリが魔性の美女のごとく艶然と微笑むギャップにドキドキです!惚れ惚れです!
クレメル・カシューネ様が涙目無言で首を縦にガクガク振ってます。首がころりと取れそうな勢いですね。
「同行いただけるようで宜しゅうございました。カシューネ様も楽しめるやもしれませんね。うふふっ」
わー。パチパチ。
ティリがとっても頼もしいです!
ソレもパチパチ拍手してます。仲良しです。
「では、お嬢様。心置きなく愛しい方からの求婚を受けるための下準備をいたしましょう!」
「はい!」
さぁ、それでは参りましょうか!
あれ?まだツヴァイがでない。




