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幕間 侍女ティリ

もっと早い段階で入れるはずが、タイミングを失って今になったティリの視点です。

 


 何と噛み合わないふたりだ。


 あたしが仕えるヘイゼルミア侯爵家の大切なお嬢様と、お見合い相手であるマカダミック様を最初に見ての感想はそれだ。




 シェイラお嬢様は化け物令嬢として有名だ。


 それでもヘイゼルミア侯爵家唯一の後継ぎであるため縁談は絶えなかった。

 しかし、毎度見合いの度に先方が絶叫、失神、逃走、大醜態を晒すので婚約までこぎつけたことがない。


 根性のない男どもには勿体無いほど優しく素敵なお嬢様なのに!


 あたしとお嬢様は、ヘイゼルミア侯爵家の寄り子の男爵家夫人である母がお嬢様の乳母だった縁で乳姉妹として育った。


 なので、あたしは幼いお嬢様を知っている。

 勿論、化け物と呼ばれるようになる前のお嬢様を。


 旦那様に似て気高く美しく、奥様に似て輝かんばかりの笑顔が似合う可愛らしさを兼ね備えたお嬢様。

 それはもう、人々が美しい花々を愛でるように当たり前に可愛らしく愛されたお嬢様。

 将来を約束された美貌だった。


 それが失われたのは、あたしとお嬢様が12歳の時だ。


 屋敷に響き渡る悲鳴。

 逃げ惑う者達の足音や物が倒れる音に騒然とした。


 悲鳴が近付いて来てわかったのは、あたし達の大切なお嬢様が恐ろしい化け物にしか見えなくなってしまったこと。

 あたしは不覚にも倒れていた。

 気が付いた時にはお嬢様の姿はなく、泣き倒れ困惑した使用人達が残されていた。


 旦那様が手を尽くしてもお嬢様の姿が変わってしまった原因がわからず、あたしを含めた使用人達はお嬢様とどう接していいかわからなくなってしまった。

 人によって見える姿は違うらしいが、誰が見ても畏怖する化け物にかわりはない。しかも、戻る気配もない。


 あれは、本当にお嬢様なのだろうか。


 周りの反応に怯えるお嬢様からは笑顔が消え、徐々に感情を顔に出すこともなくなってしまった。

 暗く無表情の仮面を張り付けたような化け物。


 だけどある日、あたしは人知れず自室で啜り泣く恐ろしくも悲しい声を聞いてしまった。


 あぁ、昔から乳姉妹として誰よりも側にいたあたしがお嬢様の側にいないで誰がいるんだ!


 それからは死ぬ気で歯を食い縛り、口内を、唇を噛み踏ん張ってお嬢様のお世話をした。震える手足はお嬢様に見せないように痛みとすり替えた。


 でも、怯え引きこもり無気力なお嬢様は、虚ろな瞳にあたしを映してポツリと呟いた。



「私は、生きてる意味があるのでしょうか?・・・ティリ、私ね、生きているのが辛いのです」



 今にも消えてしまいそうな儚く掠れた小さな声。


 その時、いつもは恐ろしく聞こえる化け物の声が、大切なお嬢様の愛らしい声に聞こえた。

 何故お嬢様の声が聞こえたかはわからないが、確かにお嬢様はここにいるのだ。そう実感した。

 感情が抑えられずわんわん泣き笑う不気味なあたしにお嬢様は困ったように涙を流した。


 それからは、お嬢様とある程度普通に接することのできる旦那様が精一杯の愛情を注ぎ、あたしが全力でお嬢様を支えた。


 お嬢様が間違っても自ら消えてしまわないように。






 転機は突然だった。


 王太子妃殿下のお茶会に参加したお嬢様を馬車で待っていたら、お嬢様が見知らぬ騎士にエスコートされて帰ってきたのだ。

 お嬢様は申し訳なくもどこか嬉しそうに、騎士はガチガチに強張り顔が真っ赤に汗だくであった。


 何事かと思った。


 お嬢様をエスコートできる男がいたことに驚いている間に邸に帰っていた。侍女失格である。


 次は、その騎士がお嬢様にお見合いを申し込んできた。


 初見でエスコートできただけでも見所のある騎士は、お嬢様をお見合いに連れ出す気らしい。


 あたしは正気を疑った。


 帽子を深く被り顔を隠せば化け物と認識されないが、お嬢様が外で顔を見られたら大変である。この騎士はどういうつもりなのだろうか。


 旦那様とお嬢様、騎士マカダミック様の会話を隅で控えつつ見聞きして判明したのは信じられないことだった。


 マカダミック様はお嬢様が平気らしい。

 平気どころか化け物に見えていないのかもしれなかった。そんなことあるのだろうか?

 でも、マカダミック様の様子は誰がどう見てもお嬢様に惚れているようにしか見えなかった。


 お嬢様はお嬢様で、自分が化け物にしか見られないことを痛いほど刷り込まれていたから、まさかマカダミック様が自分に惚れているとは思わず、むしろお見合い相手がマカダミック様だと気付いていないという愉快なことになっていた。


 レストランで控えている時など、笑いを堪えるのが大変だった。


 何と噛み合わないふたりだろう、と。


 けれど、とてもお似合いのふたりだ。


 マカダミック様ならばお嬢様に笑顔を取り戻してくれるかもしれない。

 劇場で騒ぎが起きた時など、颯爽とお姫様抱っこでお嬢様を連れ出し、あたしが馭者を呼びに行っている間にお嬢様を宥めてくれていた。


 ・・・いや、それどころか涙を流すお嬢様の目尻にキスまでしていた!!


 お嬢様もマカダミック様に惚れたようだし、このままお嬢様は幸せになれるだろう。

 これで万事解決!と思ったが、マカダミック様はお嬢様の姿を何とかすべく動き出した。

 自分のコネを使い、自分を厭う王太子妃殿下まで引っ張り出したのだ。


 お嬢様の憂いを晴らすと旦那様と約束したからだ。


 あたしは、この時点でマカダミック様をお嬢様に関しては全面的に信頼していた。


 この男なら何とかしてしまうのだろうな、と。






 ――――結果。


 芋づる式にカシューネ兄弟と妖精変幻牡牛(プーカ)が釣れた。


 妖精はお嬢様が使役を目指すようなので触れずにおくが、元凶クレメル・カシューネは駄目だ。

 お嬢様に謝りもしない奴は赦さない。

 マカダミック様のアイアンクローごときでは、あたしの大切なお嬢様の人生を台無しにした奴への溜飲は下がらない。



「さぁ、どうしてやりましょうかね?」





次回、ティリのネチネチ攻撃

(o゜∀゜)=○))`3゜)∴

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