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38 シェイラの修行

主人公がふたり揃わない回はテンポ早めです。

 


 あれから2ヶ月。


 ヴォルレムディル王太子殿下の側近で専属護衛の近衛騎士であるツヴァイ様は、私の姿が戻って直ぐ、王太子殿下が外交のため隣国へ赴くのに急遽お供することになってしまいました。

 ですので、ただ今イノンドの地を留守にしておられます。


 あの日のお休みは長期出張前の貴重な休暇に・・・


 実は、出張や遠征前の隊員方は然り気無く纏まってお休みをいただいていたらしいのです。道理でカシューネご兄弟も揃ってお休みなはずです。

 ツヴァイ様は事前に報せなかった王太子殿下に静かに憤慨しておられました。

 敵を欺くにはまず味方からかと思いきや、理由は面白そうだからと言うのが流石王太子夫妻です。それは怒られます。


 出発前に少しだけお会いできたツヴァイ様に、約束して直ぐ魔術師の修行に付き合えなくて申し訳ないと誠心誠意謝られました。帰って来たら必ず協力すると再度約束をして。


 最初はツヴァイ様がいないことに不安でしたが、今では修行始めの不甲斐ない姿を見せずに済みホッとしてしまったのは秘密です。



『・・・シェイラ?』



 声に振り向くと、小さな男の子の姿をした変幻牡牛(プーカ)のソレが首をこてんと傾げて私を見ていました。

 ソレの背後には人型の的であったものが四肢爆散した欠片が転がっています。


 ええ。中々に非現実的(シュール)な光景です。


 現在、私とソレは王城の第6魔術師団用の訓練場を一部お借りしております。


 実はツヴァイ様にお叱りを受けた王太子殿下がフェレイラ王太子妃殿下に頼み、王太子妃殿下からの紹介で、日中は第6の隊長様に魔術師の修行を見ていただくことになりました。


 当初の予定ではツヴァイ様が仕事に支障のない範囲で日中の訓練場に付き添ってくださり、ソレの力を抑えながら第6の魔術師方に交代で訓練をみていただく予定でした。

 ツヴァイ様がソレに接触した後ならば力が直ぐに戻らないから暴走することなく安全なのだとか。


 多忙な隊長様には申し訳ありませんが、ツヴァイ様がいない今、私には妖精として力が強い変幻牡牛(プーカ)を抑えられる魔術師の格が必要です。その適任者が隊長様だったのです。

 王太子妃殿下曰く、王国で十指に入る腕の者でなければ弟子入りしても身に付くであろう力が足りないそうです。


 因みに隊長様に教わる日中以外は、全寮制の学舎よろしくとある場所に泊まり込みをしております。

 ソレの力が安定してきて、私が基礎を終えたらツヴァイ様抜きでもヘイゼルミア侯爵邸へ帰る許可がおりるので、今のところは帰宅が第一目標です。


 そして、ある場所とは・・・


 まさかの、五大魔術公爵家の当主ブラットフォード公爵の王都邸宅です!


 言わずと知れた王国ナンバーワン魔術師な上に軍務大臣を務めておられる方です。

 フェレイラ王太子妃殿下の兄君ですので、勿論ブラットフォード公爵も妖精とのハーフであり人外の魔力と美貌を誇る傑物。


 9年前の西の国との戦では《イノンドの魔神》と恐れられた魔術師だったとか・・・


 何故そんなに凄いお方の邸宅へ泊まり込みなのかと言いますと、やはり《精霊の忌み子(ストッパー)》であるツヴァイ様が留守にしている今、ソレが暴走したときに対応できる方が夜にも必要ですのでお世話になっております。


 ブラットフォード公爵邸には常に奥様やご子息様達がいらっしゃいます。

 奥様も妖精の血族で癒しや浄化に特化した力をお持ちだとかで、ソレは落ち着き易いようです。羨ましい力です。

 さらに、ブラットフォード公爵のご子息様達も幼いながら優秀な血を受け継いでおられますので力を使いこなしてソレと対等に遊べます。凄すぎませんか?


 私はその隙に、ブラットフォード公爵や奥様から魔術師としての手解きをしていただいています。ありがたいです。

 精霊や妖精が好む力、人間には魔力と呼ばれる力を知るところから始まり、感覚を研ぎ澄ませ感情をコントロールし、自由に魔力を循環・放出したりと練習します。まず、これが難しく中々上達しません。

 たまに2歳のご子息様に力の使い方を教わることもあり不甲斐なさに落ち込みます。ううっ。


 そして現在は日中ですので訓練場です。


 散らかっている四肢爆散は、ソレの力が成長する上でコントロールし切れなかった余剰分を発散させた残骸です。


 魔術師は陣上で術式を組み精霊の力を借りたり、妖精に魔力を与える代わりに契約をして力を使ってもらうそうです。

 ソレが暴走しないようにする契約の結び方や魔力操作をマスターしなければならないので、目下のとりあえず帰宅をするという目標には程遠いです。


『ねぇ、シェイラ。寂しい?』


「え?」


『だって、ぼーっとしていた』


「そ、そんなことはないと思いますよ?」


 ヘイゼルミア侯爵邸へ帰れないのが寂しいかと言われればあまり寂しくありません。

 王城には財務大臣の仕事でお父様が上がっていますので、訓練場へマメに様子を見に来てくれていますし、ティリはブラットフォード公爵邸まで着いてきてくれています。今だって訓練場の隅に控えてます。


『嘘。だって、元気ない』


「嘘ではないですよ。ただ考え事をしていただけです」


『あっ!《忌み子》がいないから寂しいんだな!』


「むぅ。ツ、ツヴァイ様については・・・お仕事ですから仕方ありませんし、別に婚約者とかではないので、今までご一緒できていたのが例外で・・・」


 そうなのです。

 急遽長期出張になったツヴァイ様とのお見合いは有耶無耶となりつつあります。嫌です!


 修行のために王城に上がるので私の姿が戻ったことも噂になりつつあり、まだ私に会ったことのない家の方からも爵位目当ての縁談が増えてます。

 今は魔術師の修行中につき全てお断りしていますが、帰宅できるようになったら向き合わねばなりません。

 それもあり、ツヴァイ様が帰国されるまでは帰宅できなくてもいいかな、と甘えが多少はあり進みが遅いのかもしれません。

 ブラットフォード公爵家にはご迷惑をおかけしていますので、決してわざとではありませんが。


『でも、《忌み子》といるの嫌じゃない。むしろ、側にいられるのが嬉しいってシェイラは言ってた。だからマジュツシ?になるのに一緒にいる約束していたじゃないか』


「っ!?・・・あの時、ソレは寝てなかったですか?」


『《忌み子》に長く掴まれた後だから疲れて寝てたけど、聞こえてた!』


「そうですか。・・・そうですね、ツヴァイ様がいらっしゃらないのは、さ、寂しいです」


『シェイラは《忌み子》に会えたら嬉しい?』


「ソレ、駄目ですよ!?」


 飛び立とうとしたソレを慌てて捕まえます。


『・・・ま、まだ何もしてないけど?』


「ツヴァイ様に会えるように私を運んだり、ツヴァイ様を連れてくるのは無しです!まだでも後でも駄目ですからね?」


『何でわかるんだ・・・力使わないと褒めてもらえないのに』


 ソレが頬っぺたをパンパンに膨らまして拗ねてしまいました。


 このあどけなさに騙されてはいけません。ソレは直ぐに願いを叶えようとしますから、迂闊に発言できません!

 間違った解釈による勘違いで力を使われると大変です。

 深く考えずに実行されたらどんな事態になるかわかりませんからね。身をもって知っていますし。


「私はツヴァイ様が無事にお仕事を終えて戻られるのを修行しながら待つので、無理に会わせようとしないでくださいね!」


あーい(イエス)


 渋々頷いてくれました。

 本当に油断すると危ないです。


「力を使わなくても、ソレが察知できる範囲でツヴァイ様が近くまで帰って来たのがわかり次第教えてくれたら嬉しいですよ」


『!』


 力を使わないならと提案したら、何故かビクッとソレが体を跳ねさせました。

 しかも私の手の中で震動してます。何事ですか!?


「えっと、ソレ?どうしました?」


『―――――っ、来た!』


 いきなりソレが叫びました。


「えっ?」


『来た、来た、来た!近くに来たよ!』


「は、はい?」


 何がですか!?

 ソレは急にどうしたのでしょうか?


『シェイラが言ったから《忌み子》の嫌な感じ探した!もうすぐココに来る!ソレ教えたから褒めて!』


 言った先からの急展開に呆気にとられてしまいます。


「・・・あ、ありがとう?」


あい(イエス)!』


 何とか御礼を伝えつつも事態を把握すべく頭を働かせます。



 え?

 本当にツヴァイ様が帰って来られたのですか?


 今の私の格好、修行とソレの余剰分発散の粉塵でぼろぼろなのですが!?




ブラットフォード公爵家はキャラ濃いので、この作品では濁して別で書けたらいいな、と思っています。

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