34 シェイラと祝福
ツヴァイ様が大変ご立腹です。
いえ、私も大変腹立たしく思ってますので止めるつもりは御座いません。
「愛しいシェイラ嬢が俺に食べさせてくれるのを邪魔するとは良い度胸だな、妖精?」
ニヒルな笑みを浮かべるツヴァイ様がゾクリとするほど素敵です。
疲れ、落胆、虚脱感を漂わせながらも力を弛めないツヴァイ様の掌にはバキバキに折れ曲がったフォークと、必死に逃れようと暴れる小さな妖精。自業自得です。
『た、たすけて!このまま《忌み子》に捕まってたら消える!ソレが消滅する!』
「え?消えてしまうのですか?」
『あい!』
シュピッと手を挙げて泣きながら返事をしました。
泣くくらいなら《精霊の忌み子》であるツヴァイ様に何故不用意に近付いたのでしょう。
況してや私がもぐもぐされるツヴァイ様見たさに差し出したレモンタルトを目の前で奪うなど・・・お菓子好きすぎません?
「消えたら私にかかった《妖精の祝福》はどうなりますか?解けなくなるのですか?」
『ない。折角力使ったのになくなる!足りないの?もっとかけるから離して!』
一応、王太子妃殿下の言で妖精関連の問題解決には、祝福を与えた妖精本体を捕まえ説得して解かせるか、解ける条件を満たすか、妖精を消滅させるからしいので、3つ目の消滅でも問題ないはずですが確認しました。
やはり問題はなかったようですが、妖精は『なくなるよ?いいの?消さないで!』と訴えてきます。
「シェイラ嬢、コイツは何と?」
「この妖精が消えたら解けるそうです」
「よし、殺りましょう!」
ツヴァイ様は更に握り潰し、ネジれ千切れたフォークがティーテーブルに高い音を響かせました。
フォークって握力で千切れるのですね。凄いです!
『ない!ない!何で!?たすけて!』
絶望した泣き顔で訴える妖精。
この妖精は何故消されそうになっているのかがわからないと必死に暴れていますが、《精霊の忌み子》であるツヴァイ様には何も通じず助かる見込みはありません。
この様子から、本当に良かれと《妖精の祝福》をかけたのだとわかります。妖精からしたら願いを叶えただけで、感謝はされど恨まれる覚えはないのでしよう。
とってもありがた迷惑ですが。
「・・・あの、私にかけた《妖精の祝福》を解けますか?」
『何で?』
ええ。妖精関連の問題解決は、何も妖精を消滅させるだけではありません。
他にも祝福を与えた妖精本体を捕まえ説得して解かせるか、解ける条件を満たすかとあります。
ならば、妖精をツヴァイ様が捕まえている今がチャンスです。
いくら6年分の葛藤があっても、悪気のなかった妖精を消滅させてしまうのは忍びないです。後味悪そうですし。
それに、この偶然が重ならなければツヴァイ様と親しくなれなかったのかもと思うと、許しはできませんがあまり憎めなくなりました。
説得して解いてもらえるならば、穏便に済まそうと思えるくらいにはです。
「解きたいからです。確かにあの日、私は周囲を疎み自分の姿が良くみえなければと、放っておいてほしいと望みました。ですが、間違っていました」
『・・・嘘、吐いたの?』
「いいえ、考えが足りなかったのです。あれは自分の力で解決すべき問題だったのです。貴方が良かれとしてくださったのは私の不用意な発言のせいなのでしょう?」
『ソレは喜んでほしかった。ソレは褒めてほしかった』
悲しそうに妖精が俯きました。
何だか小さな子供が親に褒めてほしくて空回りして落ち込んでいるようです。
「はい。結果はお互い間違ってしまいましたが、ありがとうございます。お気持ちは嬉しいです」
『・・・あい。やっと褒めてくれた』
ポツリと妖精が呟いた後、
パリンッと何かが弾ける音がしました。
「え?」
『あの時、ソレ生まれたばかり。力が弱かったから、褒めてもらえたら解けるようにしか力が使えなかった』
「何だとっ!?何故早く言わない!!」
急にクレメル・カシューネ様が妖精に詰め寄りました。
正確には妖精を掴むツヴァイ様に、ですが。近すぎませんか?
ツヴァイ様は妖精が話す声も聞こえず、私の《妖精の祝福》が解けたのもわからないので、クレメル・カシューネ様の勢いに驚かれています。
『《愛し子》怒ってどっかいけって言った!怒らないで!』
「うるさい!早く言わないからシェイラが僕にも化け物にしか見えなくなったんだ!しかも、ツヴァイ・マカダミックが《忌み子》ってどういうこと、ぁだっ!?」
ツヴァイ様がクレメル・カシューネ様のお顔を鷲掴みにされました!?
あいあんくろーというやつですね!
ティリが煩い方に静かにしていただきたい時に有効だと言ってました。ツヴァイ様流石です!
「少し、黙ってもらいましょう」
ツヴァイ様が私ににっこり笑顔を見せてくださりました。
片手に妖精を握り、もう片手に男性の顔面を鷲掴み。
中々に凄い絵面ですね。
『たすけて!解けたのにソレ消える!』
忘れてました!
「あっ、ツヴァイ様!妖精を離していただいても?もう《妖精の祝福》は解けたようですので」
「はい?・・・解けた、ですか?」
ツヴァイ様が私の顔を覗き込まれますが、元から幻覚が見えていなかったので不思議そうです。
そうでした。解けたことを私やツヴァイ様では判別できませんでした。
解けていなかった場合、妖精に逃げられてしまうと困るので離せないそうです。確かにそうですね。
「そうです!カシューネ様ご兄弟なら、」
恐る恐ると帽子をとめる顎下のリボンを解きます。
劇場以来うっかり外れないようにリボン付きの帽子を被っていましたので、ささっと脱げません。
ちょっと手が震えますが、ツヴァイ様が側に居てくださるならば、最悪何とかなるのではと勇気を出します。
「はっ!?え、シェイラ・ヘイゼルミア?」
顔面を鷲掴みにされたクレメル・カシューネ様は此方を向けないので、リュメル・カシューネ様が真っ先に反応されます。
「・・・まだ、化け物に見えますか?」
「―――――――っ」
お顔を真っ赤にされるリュメル・カシューネ様。
これは、どうなのでしょう?




