31 ツヴァイは見えない
※主人公ふたりは内心わーわーしてますが、顔には余り出てません。
※シェイラはツヴァイを素敵と言ったことはありますが、好意をはっきり発言していませんのでツヴァイは未だ好かれている自信はありません。
ついに愛しのシェイラ嬢と手を繋げた!
カシューネ弟の馬鹿な発言のせいで、シェイラ嬢の表情が悲しそうで不安そうでほっとけなくて、つい。
俺の手より遥かに小さくて細い。強く握ったら潰してしまいそうな手が柔らかくて可愛くてどうしよう。手まで可愛いとか何なんだろう。うん、語彙力が死んだ。
そんでもってカシューネ弟に向かって調子にのり、シェイラ嬢を渡さないとか宣言してしまった!
―――――っぬぅあああぁ~~~!!!
何だ、渡さないって!?
これ、何様気取りなんだ俺!?
大丈夫か?気持ち悪がられてないか!?
シェイラ嬢に嫌われてはいないと思いたいが、希望的観測だったらマジで痛い奴だ。調子にのるなとか思われてたら死ねる。ぐはっ!
っていうか、このカシューネ兄弟がイケメンなのがズルいんだ!
客観的に見た場合、コイツ平凡な面で何言っちゃってんだ?って空気になっていそうで怖い。相手が同じ平凡顔だったらそこまで気にしなくて済んだものを。ぐぬぬぬぬっ。
くそっ、せめて俺がもう少しイケてたらな。バシッと決められたはずなのに。
「・・・クレメル、もう止めておけ。どう考えても分が悪いし、感情的になりすぎだ」
カシューネ兄が弟の肩に手をおき俺から距離をとらせた。
たぶん先日自分が俺に首絞められたから警戒してるのもあるんだろうなぁ。俺基本は暴力はふるわないよ?訓練がちょっと厳しくなるだけだよ?
「ツヴァイ、騒がせて悪かったな。シェイラ嬢も弟がすまなかった」
全くもってその通りだ。
前回に引き続きデートの邪魔をするのは勘弁してほしい。
俺は肩を竦めてみせる。
勝手に謝罪を受け入れることはできない。
今回のカシューネ弟の発言は、シェイラ嬢にとって許せるものではなかろう。
いくらカシューネ兄が謝ろうと駄目だ。
「・・・いえ、今さら謝罪は結構です」
案の定シェイラ嬢は固い声音で首を横へ振る。
カシューネ兄もわかっていたのか、申し訳なさそうに頷いた。
「ああ、貴女の、年頃のご令嬢の大事な6年を台無しにしたんだ。許せるものではないだろうからな、本当にすまなかった。言い訳になるが、僕は妖精が見えないからクレメルの仕出かしたことを誓って知らなかった。とはいえ、以前の君を知っていてあの日に居合わせ、クレメルが起こした切っ掛けとなる揉め事までは知っていたのだ。にも関わらず何もできずに蔑む言葉を投げてすまない」
カシューネ兄がまともなことを言っている。
失礼だが、いつも馬鹿みたいに勝負を挑んでくるからもっとアレな奴だと思っていた。腐っても兄、弟の前ではきちんとするらしい。
「貴方の反省や謝罪はわかりましたが、私にはこの問題が解決しない限り受け入れることは難しいでしょう」
「ああ、すまない」
「―――僕は、むぐっ」
まだ反省の色なく喋ろうとしたカシューネ弟は、カシューネ兄に手で口を押さえられた。手を外そうともがもがしている。
「あのっ、ところで、先程までご一緒していらしたご令嬢は?」
「え?」
シェイラ嬢の一言に、騒いでいたカシューネ兄弟と俺は固まり、しんっと静まり返った。
「ご令嬢、ですか?」
俺達がいるのはカフェの半個室のような席。広場の催し物が見やすい観覧席にいる。
周りにも近い席があるにはあるが、距離が少しあり仕切りもあるので人影はない。
カシューネ兄弟は広場を見やすくするために取り付けられた大きな窓越しに俺を見付けて入って来たのだろう。
故に、おかしい。
先程から、俺の目にはシェイラ嬢とカシューネ兄弟しかいないように見えるのだ。
「すみません、シェイラ嬢。俺の記憶にはそのご令嬢とやらがいないのですが、どのようなご令嬢ですか?」
「え?鳶色の瞳に、綺麗な赤褐色の髪を編み込んで纏められたご令嬢がクレメル・カシューネ様の腕に青白いお顔ですがり付いておられて、先程までリュメル・カシューネ様と一緒にクレメル・カシューネ様を止めようと―――――」
きょとんとしたシェイラ嬢は大層可愛らしいのだが、惚けている事態ではないのが流石にわかるので顔を引き締める。
「「「・・・」」」
沈黙する男勢。
俺は困惑して辺りを、カシューネ兄は怪訝な顔で俺を、カシューネ弟は嫌悪の表情で左腕を見た。反応はバラバラだ。
つまり、そういうことか!!
いや、早合点だといけない。
確認をすべきだ。
「・・・俺には、それらしきご令嬢を見た覚えがないです。カシューネ兄弟には見えていたのか?」
俺と違いカシューネ兄弟のふたりにも見えていたなら・・・
「ツヴァイには見えてなかっただと?最初からクレメルがエスコートしていただろ?えっと、何て名前だったか――――あれ、思い出せない!?おい、クレメル?」
「くそっ、やられた!当たり前のように紛れ込んでいたのか!」
うわぁ、予想通りというか・・・
つまり、俺という《精霊の忌み子》が、自分の《妖精の祝福》を与えたシェイラ嬢といるのが気に食わなくて様子を見に現れたわけだ。
「そのご令嬢とやらがシェイラ嬢に《妖精の祝福》を与えた妖精ですね」
何か、カシューネ兄弟といい、妖精といい、簡単に釣れすぎじゃないか?
※ホラーではありません。笑




