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閑話 第2の騎士隊長と隊員 

前回の閑話から他部隊長をピックアップ

 


 第1近衛団と第2騎士団(騎乗士隊)の合同訓練日。


 王城の広い訓練場で一通り午前訓練を終えた昼の休憩時間。

 隊員は各々昼食を兼ねて休憩したり、自主訓練、騎乗用軍馬の世話、午後の打ち合わせをしている。


 (おもむろ)に第2の隊長が第1部隊の隊員のひとりに声をかけた。


「おい、今日ってツヴァイが御執心の化け物令嬢が来てるんだろ?誰もが泣き叫んでビビるって噂のさ」


 その不躾な質問に隊員は顔を顰めた。

 近くにいた他の第1の隊員も何とも微妙な表情で注目している。


「・・・失礼ですがアーモンディ殿、いくらツヴァイ副隊長の友人であるとはいえ、ツヴァイ副隊長の想い人であるご令嬢に対してその言葉選びは如何なものかと」


 いつものことだが、貴族出身者で占められている第1、第2の中でもアーモンディは特に口の悪い。


 アーモンディは珍しくも中流階級とはいえ平民出身者だった。


 元々数年前までイノンド王国軍の隊長各は上位貴族出身又は権力、財力持ちの貴族でないと昇進できなかった。

 それでも実力が伴っていれば問題なかったが、残念ながら軍上層部は長年血統主義の阿呆どものせいで不正や賄賂が横行し腐っていた。


 転機は約9年前に起こった西の国との戦。


 それは豊かなイノンドを狙って西の国から仕掛けられた戦だった。

 その時イノンド王国には過去30年程大規模な戦が無く、さらに結果、腐った上層部により軍の弱体化に気付けなかった。

 腐った王国軍は腐った上官による愚かな防衛戦で少なくない被害を受けた。


 その戦で一気に頭角を現したのが、現在の軍務大臣ブラットフォード公爵だった。

 彼の作戦や《イノンドの魔神》と名を轟かせた異常なまでの戦力により、西の国との戦は異例の開戦1ヶ月後には終結した。


 戦後処理などは大規模な戦だったのでもっと長くかかったのだが、その間は腐った上層部による責任の擦り付け合いや足の引っ張り合いが起こった。

 それに便乗するように、ブラットフォード公爵を筆頭とした実力主義の隊員達による軍部の大規模粛清が行われた。

 それから徐々に以前の腐った不正や賄賂は取り締まられるようになり、今では血統重視の権力主義はほぼ消え去ったと言える。


 その結果、アーモンディのような平民出身者でも実力次第で出世昇進する者が出てきた。


 アーモンディはシェイラ・ヘイゼルミア侯爵令嬢を化け物と言ったが、現在の隊長格の上官達は化け物揃いと評される本物の実力者ばかりだ。

 つまり、見た目でアレコレ言われる噂の化け物令嬢より、隊員達の目にはアーモンディの方がよっぽど化け物に見えるのだ。


「堅苦しいなぁ~。いいだろ?化け物令嬢がどんなかちょっと興味あんだよ。休憩中にクソ真面目なツヴァイが態々抜けたってことは来てるんだろよ。で、城のどの部屋使ってるんだ?」


「いえ!自分は本日とは一言も言っていません。ツヴァイ副隊長は貴方と違い忙しいので休憩中に書類等の執務仕事をされることもあります。それに、ヘイゼルミア侯爵令嬢の登城を知っていたとしても個人情報などもありますのでお断りします。近衛で護衛を出している場合も守秘義務がありますのでお教えできません」


 まぁ、実力が化け物であろうと言いなりになるわけではない。

 況してやアーモンディは他部隊の上官である。

 軍務歴、年齢共にツヴァイの方がアーモンディより下であっても、己の敬愛すべき上官であるツヴァイの指示無く勝手な情報漏洩はしない。


「クソ真面目で本当にツヴァイそっくりだな。・・・だから、褒めてないからな!?嬉しそうにすんな!」


「はっ!我らは尊敬するツヴァイ副隊長を目指してますので、褒め言葉としてありがたく頂戴します!」


 顔を顰めるアーモンディに対して第1の隊員は瞳を輝かせ喜びを表す。


「・・・もういいや。お前ら誰に聞いても無駄だろうし、面倒くさそうだわ。第1と第2ってお高くとまった貴族が多いが、第1だけ特に上官への忠誠心やべぇーわ」


「はっ!ありがとうございます!第2は隊長であるアーモンディ殿が脳筋と言われるほど実務や鍛練以外の書類等職務を放棄し、隙あらば馬で逃げるので忠誠心が足りないと思われます!もっと尊敬される上官を目指されるとよろしいかと!」


「うるせぇーよ!何で第1の奴にサボってんのバレてんだよ!?しかもお前も大概俺のこと舐めてんだろ!!」


 騎乗での戦いを得意とする第2騎士団。

 その第2の隊長であるアーモンディが本気で馬を走らせたら誰も追い付けない。


 それだけの実力を持ちながらもこの人柄。

 欠点はあれどアーモンディの実力を舐めている者はいない。

 アーモンディも怒鳴るが本気で怒っている訳ではなく、むしろふざけていると言っていい。

 接しやすいのでこういったやり取りを楽しむ隊員は多い。


「はっ!恐れながら第2隊員、事務員ともに職務で関わりますので、王宮内兵舎所属の隊員兵士や事務員には周知の事実です!」


 軍の所属が違うから交流がないわけではない。

 むしろ積極的に交流が行われている。

 現に今だってその為の合同訓練である。いざと言う時連携がとれないなどあってはならない。

 王宮内兵舎所属の部隊で交流がないのは、秘匿されている第3守衛団の副隊長率いる裏部隊ぐらいである。


「マジかよ!?まさかツヴァイも知ってて黙ってたのか!裏切り者め!!」


「はっ!我らがツヴァイ副隊長に何度諫められても聞く耳を持たなかったのはアーモンディ殿かと。自業自得だと思われます!」


「―――――っ、クソッたれ!!っんなに脳筋だと思われてんなら開き直ってやる!ククッ、午後の訓練一対多数の演習は俺対全隊員だ!!舐めた奴等全員ブチのめしてやる!!」


「はっ!失礼ですがアーモンディ殿、そう言うところが脳筋と評される原因かと思われます!」


 そして毎度の展開である。

 周りで話を聞いていた隊員達もうんうんと頷いていた。


「うるせぇ!!お前ら第1の手が空いてる奴から相手してやる!」


「馬に乗られなくてよろしいのですか?」


「はんっ!ツヴァイ相手じゃねーならお前ら雑魚相手に相棒の出る幕なんざねぇよ!!」


 ここまではいつもの展開。


 しかし、今回は外野からひとりの隊員が前に進み出た。

 アーモンディや第1の隊員は視線を其方にやる。


「アーモンディ隊長。先に僕と一対一の手合わせ願います!」


「あん?お前第2じゃねーか。確かうちの副隊長管轄の・・・カシューネ侯爵家の三男だっけか?」


 多少見覚えのある程度の隊員にアーモンディが首を捻る。


 脳筋アーモンディは強い戦闘力や技術で隊内の序列を決めて任務に合わせた構成を組む。つまり、主力隊員以外はうろ覚えである。


 何が言いたいかというと、カシューネの言う手合わせをするには実力差がありすぎるのだ。


 おまけにカシューネは第2所属。

 他部隊である第1の隊員と違い、いつでもアーモンディと手合わせするチャンスはある。

 見本となる手合わせなら未だしも、態々第1との合同訓練時にする必要はない。


「はっ!隊長に覚えていただけて光栄です。恐れながら、士官学校からの同期生ツヴァイ・マカダミックと比べて下に見られるのは我慢なりません!」


 カシューネの言葉に漸く合点がいく。

 士官学校から同期生として比べられ続けたカシューネはツヴァイをライバル視しているようだ。


「・・・ふーん、いいだろう。ツヴァイと同じように全力で相手してやる」


 模擬剣を構えながらアーモンディはそっとため息を吐いた。

 今席を外している年下の友ツヴァイに向けて心の中でボヤく。


 こういう目をした奴は変にしつこいから厄介だ。

 ガス抜きしないとやらかすだろう。



 きっと、クソ真面目で頭の堅いツヴァイは見向きもしないのだろうがな・・・と。




『お向かいに殺人鬼が引っ越してきました』でも第6魔術師団は上司ことブラットフォード公爵大好きっ子ばかりでしたが、第1もそれのお堅いverです。

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