21 ツヴァイの体質
やはり予想通りというか、王太子妃殿下が何の説明もせずにシェイラ嬢の顔を見ようとしていたらしい。
この王太子妃殿下は妖精のハーフなだけあって、自由奔放というか、思ったままに動いて周りの迷惑を考えないところがある。
元々エイルズベリー辺境伯に溺愛されのびのび育てられた方だが、厄介ごとに首を突っ込みたがるというか、妖精絡みの案件の解決係のようなことを独自にされていた。
最早魔術師になる前から魔術師擬き。やり方もハチャメチャだった。
夫である殿下は楽しそうに振り回されているが、お供する身にもなっていただきたい。
今は魔術師となり王妃教育を経て多少落ち着かれたが、結婚するまでは特に大変だった。
「むぅ、ツヴァイさんが酷い。前から思ってたけど、ツヴァイさん私のこと嫌いよね」
「いいえ、王太子妃殿下が俺を嫌いなだけだと思います。俺はいつもこういった感じですので普通です」
敢えて普通以外で表現するならば仕事上“面倒な人物“である。
一応訳はあるのだが、王太子妃殿下は俺のことを嫌っている。というか、苦手らしい。
人柄が真面目で融通がきかないという点も敬遠されてる理由らしいが、もっと根本的な問題がある。
俺としても厭われている相手に自ら関わりたくない。
基本は俺の友人でもあるヴォルレムディル王太子殿下専属なので公の場や殿下の外交にお供する時以外で王太子妃殿下に会うこともないから無理に関わる必要もない。
まぁ、どう思われようとあまり関心もないのだ。
面倒な事態に巻き込まれなければ構わない。
「ふ~ん?シェイラさんには違うみたいね?」
「シェイラ嬢は特別ですので」
当然のことなので王太子妃殿下へ即答する。
愛しのシェイラ嬢を特別扱いしないで誰を特別扱いするのだ。
「真面目堅物の相手にシェイラさんは意外だったけど、ツヴァイさんの体質的には適役よね」
「どういうことですか?」
いつの間にかシェイラ嬢が王太子妃殿下の方を半身捻って窺っていた。
俺と王太子妃殿下の会話内容が気になったのだろう。
「うん、なるほどね。やっぱり厄介なのに目をつけられたのね」
その隙を逃す王太子妃殿下ではない。
しっかりシェイラ嬢の顔を覗き込んでいた。
悲鳴を上げることはなかったが、嫌なものが映ったように表情は強張らせている。実際、王太子妃殿下の恐怖するものに見えているのだろう。
王太子妃殿下がそのまま暫くの間ジッとシェイラ嬢を見つめるものだから、俺の腕の中でシェイラ嬢が緊張で震えているのがわかる。
しかし、顔を見せることに意味があるとわかっているからか耐えている姿がいじらしい。しかも、然り気無く俺の服を掴む手に頼られている気がして嬉しい。
「・・・あら?へぇ~、ツヴァイさんの好みはこういう顔なのね」
恐らく、歪んだ幻影越しにシェイラ嬢の本来の姿が見えたのだろう。
暫くして弛緩した表情で息を吐いた王太子妃殿下が、俺の顔を見てニヤニヤし出した。
普段クソ真面目、堅物と評される俺をからかいたいようだ。
だが、残念でしたね!
それしきで動じる俺ではありません!
「はい、白百合の化身のように美しいだけでなく内面まで優しく愛らしいシェイラ嬢の憂いを晴らすために原因を教えていただけますか?」
事実だから勝手にニヤつかれようが構いませんが?と、堂々と返す。
腕の中でシェイラ嬢がびくっとしたが不安がっているのだろう。長年シェイラ嬢を悩ませた原因がわかるかもしれないのだ。
安心させるように更にぎゅっと抱き締め背を撫でる。完全に役得だ。
「わぁお、本当にベタ惚れね。からかいたかったけど仕方ないわ、とりあえず座って話しましょう」
「はい、お願いいたします」
「まだ婚約した訳でもないのにそんなにくっついているとシェイラさんの評判に関わるわよ?」
いらない助言です。
お陰でシェイラ嬢がピッタリ並んで座った俺から離れようと腰を浮かしかけた。が、それを許す俺ではない。
心臓バクバクだが、シェイラ嬢の腰にやんわり手を回して阻止する。
「これから話すのはシェイラ嬢にとって良い話でない可能性が高いので支えるためにも必要かと。それに、直ぐに婚約できれば問題ありません」
「えっ!?ツヴァイ副隊長様、あのっ、」
「勿論、シェイラ嬢にフラれたら諦めて噂の火消しに努めます」
目許を赤く染めつつも俺を心配そうに見上げる視線を感じる。ヤバい可愛い。
シェイラ嬢をまともに見たらみっともなく赤面する自信しかない。ダサいな俺。
「まぁ、シェイラさんがツヴァイさんで良いなら私がとやかく言うことじゃないわね。それでは、話をしましょうか?」
「「はい」」
シェイラ嬢とハモった。地味に嬉しい。
「簡潔に言うわね。シェイラさんには《妖精の祝福》がかかっているわ」
「妖精の・・・祝福?」
現状に対して何とも不釣り合いな言葉である。
化け物に見られるのが祝福とは?どの辺が?
俺とシェイラ嬢の怪訝な表情を読んだ王太子妃殿下が肩を竦めて話を続けられる。
「まぁ、かけられた人間側からしたら呪いかもしれないわね」
「やっぱり、呪いなのですね」
シェイラ嬢の声が悲し気に沈んだ。
「でもね、そうなった原因はシェイラさんか周囲の人間の発言のはずよ?妖精達は勝手な解釈でありがた迷惑な力を振るうけど、《妖精の祝福》は良かれと願いを叶えるための力なのよ。つまり、誰かしらシェイラさんの姿が畏怖されるように仕向けて隠すような願いをしたはず」
「そんな・・・」
悲痛な声に俺の胸も痛む。
無力な俺に何かできないだろうか。
よし、原因がシェイラ嬢以外の者によるものだったらそいつを締め上げよう!赦すまじ。
「妖精達のネジ曲がった解釈の可能性もあるからシンプルに考えてみて。因みにシェイラさんは精霊に好かれやすい体質だけど《精霊の愛し子》程ではないわ。だから、シェイラさん以外が願ったなら相手はシェイラさんに干渉できる程近くにいた《精霊の愛し子》のはず。心当たりが無くても、適役ツヴァイさんが《精霊の忌み子》だから、シェイラさんの側に張り付いていたら嫌がって犯人が出てくると思うわよ?」
あ。何故俺だけがシェイラ嬢を見られるのかを察した。
王太子妃殿下が俺を嫌いな理由と同じだ。
「あの、《精霊の忌み子》とは何ですか?」
「精霊や妖精を見る資質も素質も全くない人間。普通はちょびっとぐらいあるのよ?《精霊の愛し子》が上限100だとしたら魔術師が70~100、普通はそれ以下の1~69。《精霊の忌み子》はそれが0。つまり、精霊や妖精等が何をしようが全く感知できず影響も受けないレアな存在ね」
やはり《精霊の忌み子》か!
「だから、俺だけシェイラ嬢が見えるのですか?」
「その通り!マカダミック伯爵家は代々王家に仕える家の中でも妖精絡みの案件で動ける要員だったらしいから完全に血筋ね。だから私もツヴァイさんが体質的に苦手なのよね~」
「それは光栄ですね」
色んな意味で。
王家に役立てるし、過去に殿下のお供で妖精関連に巻き込まれた時も役立った。
最も重要なのは、今シェイラ嬢が見える!
王太子妃殿下に嫌われようが構わない。
主である殿下の役に立ち、シェイラ嬢に出逢えた体質ならば歓迎である。
「私、失礼かもしれませんがツヴァイ副隊長様が《精霊の忌み子》でいて下さって良かったです。私にはツヴァイ副隊長様に出逢えたことが奇跡です」
ぐはっ、俺を上目遣いで見るシェイラ嬢がマジで可愛い!
嬉しすぎて明日が命日かと疑ってしまうレベルだ。
これで色々説明は終わった……はず!




