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19 ツヴァイはご機嫌

 


 ヴォルレムディル王太子殿下とフェレイラ王太子妃殿下に、シェイラ嬢のことを相談して数日。


 やっと愛しのシェイラ嬢に会える!


 俺は王城の回廊をスキップせんばかりに上機嫌で歩いていた。

 いや、正確に言うならば走らんばかりに。何故ばかりになのかというと、非常事態でない限り王城の回廊を走るわけにはいかないからだ。

 つまり限り無く優雅に早歩きしている。


 シェイラ嬢に早く会いたい!


 ヘイゼルミア侯爵にシェイラ嬢が化け物に見えてしまう原因の手がかりを掴むまでシェイラ嬢を期待させてはいけないからと侯爵邸への出禁をくらうこと3週間。永かった。


 やはり父親の前で愛娘にベタベタ触れたのが駄目だったらしい。


 しかし、俺の使命はシェイラ嬢の憂いを晴らすことなので仕方ないと思う。

 シェイラ嬢は俺が惚れ込んでいるとあまり信じていなかったし、鏡越しに映る自分の姿が本当の姿か不安がっていた。

 俺が見ているものと同じなのか、どちらの目にも歪んで見えているのか。


 正直に言えば確証はないのでわからなかった。

 だが、俺の直感は目に見えるものを信じろと告げていた。


 つまりはシェイラ嬢は白百合の化身のように美しい姫君だと。


 まぁ、確証というか手がかりは必要なので色々と調べたわけだが、調べれは調べるほど不可解過ぎた。


 そもそも、どう考えても人の所業ではない。

 あれほど美しく可愛いシェイラ嬢が化け物に見えるなど人間の限界を超えている。


 では考えられる原因は何か?


 俺は殿下が当時婚約者であった王太子妃殿下を追いかけ回す旅にお供していたので心当たりがあった。

 客観的に見てもよろしくない求婚をされた王太子妃殿下が殿下に怒り、見返すために目指していた魔術師という職種上不可欠な存在であるアレ等。


 普通の人間には見ることのできない精霊。

 そして精霊が思考するようになり、魂を得て変化する妖精。


 俺には資質どころか欠片も素質がないので感じることもできないが、殿下のお供をする上で無知は許されないので最低限の知識は得ている。目に見えないアレ等がどれほど忌々しく面倒な事件を引き起こすかを。


 しかも幼児並みの知能の妖精達は、ありがた迷惑なことに良かれと思って善意で力を振るうから最悪だ。


 妖精の気に入った人間が、人魚のように早く優雅に游ぎたいと口にすれば頭が魚の二足歩行の魚人にされたり、運命の人を知りたいと言えば幼児の姿にされてキスして姿が戻ったらそうだとほざいたり、好意を寄せられて軽い気持ちで同意すると妖精界に連れ去られたり、祝福と称して赤子を妖精の取り替え子チェンジリングで奪ったりと多岐にわたる。


 それらを解決するのは普通の人間には姿が見られないので難しい。


 そこで、大昔に魔術師の始祖ギギナ・オーヴェロンが作ったとされる宮廷魔術師という役職と《イノンド王国妖精の書》である。

 今は魔術師が増え、王国軍の第6所属の戦力としても確立しているが、戦時でもない限り彼等の仕事は妖精が巻き起こす厄介ごとの解決だ。


 ヘイゼルミア侯爵もシェイラ嬢のことは知り合いの魔術師に見てもらおうとしたらしいが、只人でない魔術師でもシェイラ嬢の姿を見ることができずに恐怖に負けたらしい。


 もっと上位の魔術師に見てもらおうにも、王国の軍属である彼等の仕事は人命や災害に発展する案件が最優先。しかも魔術師の総数がイノンド王国の広さに対して圧倒的に少ない。

 個人的なコネでプライベート中に相談をできなければ順番がいつ回ってくるかわからない。現に人命には関わらないシェイラ嬢は6年もそのままだ。可哀想に。


 しかし!

 それも今日迄だ!!!


 我が主であり友である殿下に相談したら、王国の魔術師で十指に入る力をお持ちの王太子妃殿下に話を聞いていただけた。


 今日はシェイラ嬢の状態を王太子妃殿下に直接見ていただけるのだ!

 俺はおまけで同席させていただく。

 精霊や妖精が見えない俺は何の力にもならないから居ても居なくても意味はないがシェイラ嬢に会いたいから便乗。


 ちゃんと休憩時間だから文句は言わせない!


 意気揚々とシェイラ嬢が待つ応接室にたどり着くと、扉前に控えていた護衛が扉を開けてくれる。


「お待たせしてしまい申し訳ありません、シェイラ嬢!」


 緩んだ顔に見えないようにキリッとした表情を心掛けて入室。


「???」


 目の前の光景に固まる。


 王城に相応しい品良くまとめられた応接室内。

 壁際の護衛も困り顔でどうしたら良いのかと、俺に助けを求めるように視線を寄越す。因みに第1近衛所属の部下だ。


 応接室に鎮座する優美な曲線フレームのレース張りアンティークソファ。

 その両対のソファの片側。

 顔を隠すように座席クッションに倒れるシェイラ嬢と、襲うようにのし掛かる王太子妃殿下。


 ちょっと意味がわかりません。

 むしろ即座に理解できる者がいるのだろうか。


「フェレイラ王太子妃殿下、シェイラ嬢に何をなさっているのですか?」


 声が固くなったのは仕方ないと思う。

 俺が怒ったと思ったのか、王太子妃殿下が慌てて弁明する。


「違うのよ、ツヴァイさん。ちょっとシェイラさんの顔を見ようと思ったの」


「はい?」


 それで何故のし掛かるのだろうか。

 そして、未だに退かないのでシェイラ嬢との再会を素直に喜べない。


「―――っ、ツヴァイ副隊長様!た、助けてください!」


 くぐもったシェイラ嬢の声に即座に反応。

 王太子妃殿下には丁重に退いていただき、シェイラ嬢をソファから引っ張り出して救う。


 呆気に取られる王太子妃殿下や護衛の部下は視界の外に、愛しいシェイラ嬢をそのまま抱き締める。役得である。

 顔がニヤけないように気を付けよう。


「お久しぶりです、シェイラ嬢。やっと会えました」


「はい、お会いしたかったです」


 俺に向かっては躊躇わず顔を上げるシェイラ嬢の口許は、愛らしく弧を描いており、心臓が数秒止まった。



 うん。相変わらずシェイラ嬢が可愛い。




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