14 シェイラの悶々
――――っんきゃ~~!!!
どうしましょう、どうしましょう!
ツヴァイ副隊長様が、
わ、私の目尻にキスしてくださいました!
はい。劇場から何とか屋敷に帰って参りました。
私は今はしたなくもベッドでごろごろしております。
先程の馬車でのことを思い出すと、恥ずかしくドキドキした熱が冷めません。ごろごろ。
あの時、ツヴァイ副隊長様が私の顔に触れることができたのが嬉しくて、本当に化け物である私が平気なのだと涙が零れました。
一瞬で離れてしまった温かく柔らかい感触が、私の涙にそってもう一度戻ってきました。
そっと瞼を開くと、ツヴァイ副隊長様のお顔が!至近距離!
私の瞼が開いていることに気付かれたツヴァイ副隊長様がパッとお顔を横に背け、耳や首まで真っ赤にされてしまいました。
恐怖で赤、青、白い顔をされることは多いですが、ツヴァイ副隊長様はきっと違う意味で赤いお顔になられたのだと思います。
ですが私の目は顔色よりも、ツヴァイ副隊長様の少し濡れた唇に釘付けです。
ひぇっ!?
まさかまさか、私の涙を唇で拭われたのですか!?
てっきり指かと思っていました!
私の視線に気付き直ぐに口許を手で隠されてしまいましたが、背けられたお顔が横向きでしたので、隠す瞬間に舌で唇を舐められたのが見えてしまいました。ペロッて!
ツヴァイ副隊長様から漂う色気が尋常ではありません。駄々漏れです!
本当に、この方はご自分がモテないなどと何故思っていらっしゃるのでしょう。
誰か教えて差し上げてくださいませ!
ええ。この状況が理解できなくて一瞬固まってしまいました。わかったところでどうしたらいいかわかりませんが。
自ら触れられるか問うたくせに、予想外の展開に混乱してしまい、結局ティリが馭者を連れて戻るまでツヴァイ副隊長様の上着にくるまり、温かくがっしりとした胸をお借りして縮こまるしかできませんでした。
ツヴァイ副隊長様には、私がキスをねだったように見えてしまったのでしょうか!?
ふしだらで厚かましいと思われてしまったらどうしましょう!?
恥ずかしくて悶々としている間に帰宅。
ツヴァイ副隊長様からどんな誤解を受けているか恐くて部屋に逃げ込んでしまいました。
――――コンッコンッ、コンッ。
「失礼します。・・・お嬢様、何をしてるんですか?」
ノックの後にティリが部屋に入ってきました。
ベッドでごろごろする私の姿を見て呆れてます。たぶん、ドレスがシワになるとか子供ではないのだからとか考えてます。
しかし私はそれどころではありません。
「わーん、ティリ~~~!私どうしたらいいの?」
ツヴァイ副隊長様とどう接したらよいのかわかりません。
恥ずかしくてドキドキして上手く喋れない、でもお会いしたいのにもじもじ悶々としてしまいます。
「とりあえず、ベッドでごろごろするのを止めたらどうですか?」
「はい」
ベッドの上で転がるのを何とか止めて座ります。
「・・・お嬢様、その上着は・・・どうしますか?」
ティリの視線の先には、いつの間にか私が抱き締めていたツヴァイ副隊長様の上着。
仄かに香る残り香に胸がきゅんとします。
ではなくて、ツヴァイ副隊長様の上着!
「はわわわっ!?ど、どうしましょう!?ツヴァイ副隊長様から借りっぱなしでした!」
返さなければ!
でも、先程逃げたくせにツヴァイ副隊長様にすぐ会うのは勇気が要ります。
「あたしが返しときましょうか?」
「えっ・・・」
そうです。
ティリに頼めばツヴァイ副隊長様と顔を合わすことはありません。
ですが、そんなことをしたらツヴァイ副隊長様はどう思うでしょう。借り物を人任せにするのはよくありません。
後、ティリに頼んでしまうとツヴァイ副隊長様には・・・
「すごい不満そうな顔しないで下さいよ。ご自分で返したい、と言うよりは、マカダミック様に会いたいんですね」
「っちが、――――わない、です」
そうです。
やはり会いたいのです。
先程のことが幻などではないと実感して、ドキドキのせいで有耶無耶になっていることを確認すべきなのです。
「お嬢様可愛いですね~。お顔は変わらずアレなんで表情わかりませんが、マカダミック様に惚れたのはわかりますよ。相思相愛おめでとうございます!」
「相思相愛!?」
私に都合が良すぎる気がします。
でも、確かに一目惚れって、お見合いも本当に元から相手がツヴァイ副隊長様ならば・・・そうなのでしょうか。
「マカダミック様にそれっぽいこと言われませんでした?」
「・・・ツヴァイ副隊長様が、私のこと美しいって、一目惚れだって、言ってくださいました」
ツヴァイ副隊長様には私が醜い化け物に見えないようなのです。今まで他にそのような方はいませんでした。
「ベタ惚れですねー。まぁ、出発前からわかりきってましたけど」
「ええっ!?」
「でも、それだけですか?馬車に戻った時の雰囲気的に、てっきりもっと何かあったのかと思いましたけど」
まぁ、上着にくるまったまま逃げたらそうなりますよね。
「わ、私の顔に触れられるか聞いたのです」
「ほほう?それで、マカダミック様に触られたと?どこ撫でられました?」
私は無表情を装おうとして失敗したようです。
居たたまれなくて目線がキョロキョロして顔が熱くなります。
楽しそうにニヤつくティリに嫌な予感です。
「な、撫でられては、なっ、いですよ?」
「ほっほーう?撫でられて、は、ないのですね。では、どことどこが触れ合いました?」
ティリがすっごくニヤニヤしてます!
撫でられてないのに挙動不審な私に感付きましたね。
私だって予想外だったのですよ!?
「――――――私の目尻に、キ、キスを」
「っ!?・・・マジですか?」
ティリが絶句した後、頬をぴくぴくさせながら呟きました。
恥ずかしいので無言で肯定します。
「だ、旦那様~~!っだぁあんなさぁまぁ~~~~~~!!!!」
ティリが叫びながらお父様とツヴァイ副隊長様がいるであろう執務室に向かって走るような素早い歩きで消えました。器用です。
「あっ、待ってティリ!」
あのまま執務室に飛び込まれたら、お父様に何を吹き込むかわかりません。
ツヴァイ副隊長様からお借りした上着をもって追いかけることにします。
先程までぐずぐずしていたのに、すっかり忘れて部屋をでました。
まさかこれもティリの作戦だと気付くのは、もう暫く後でした。




