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冥府の剣と蒼天の絆  作者: 壱春
第1章 偽りの帰還
23/30

大通りを抜けて

「ところで、これどこから入るんだろ?」


アスティは白い石壁を仰ぎ見ながら言った。

2人が辿り着いたのは街の裏手側らしく、街への入り口はぐるりと大回りしなければならない。


「あそこの階段から入れそうだ」


レインが指差した先には壁にそって作られた細い階段があった。

階段を登った先には小さな鉄の柵があり、鍵はかかっておらず、2人は難なく街の中へ入る事ができた。


「こんなに簡単に入れて大丈夫なのかな?」


扉の先は細い路地になっていて、そこを抜けると市場へと通じていた。


「表門には魔物の侵入を拒む呪術を施しているだけで、人々の往来は制限していないようだったから、あの裏口も住人が普段から利用しているんだろう」

「なるほど、出入口がひとつしか無かったら不便だもんな。……んー、でも何ていうか、この街、少し不思議な作りをしてる気がする」


街を歩きながら、アスティはふと疑問に思っていた事を口にした。


「ああ、オレも違和感を感じてはいる。街の半分は立派な壁で閉じているが、街の南側は丘になっていて、そのまま外に通じているしな」

「半分しか囲われてないなんて変だね。途中で作るのをやめたんだろうか?」

「……ここに街が出来た経緯を調べれば分かるかもしれないな。後でエシルにでも聞いてみよう」

「そうだね。丘はミルティの家がある場所だから、あの辺が安全なのかも気になるな……」

「あ! アスティ!」


市場から大通りへと出た所で、聞き覚えのある声に呼び止められ、アスティは振り返った。


「噂ををすれば、だな」


レインも振り返り、呼び止めた人物を確認して言った。


「ミルティ」


アスティが名前を呼ぶと、ミルティが小走りに2人の元へ駆け寄ってきた。そして、キッ眉を釣り上げ口を開いた。


「もう! 2人ともどこに行ってたの? 出掛けて行ったまま帰ってこないから心配してたのよ!」

「ご、ごめん。ちょっと教会に用があって……」

「教会?」

「街外れの教会だ」

「ああ、あの……」


ミルティは口元に手を当て、言い淀んだ。街に住む人間なら教会が無人になっている経緯も知っているのだろう。


「それで? 教会で何をしてきたの?」


興味ありげに質問を続けるミルティに対し、どこまで説明するべきか迷いながら、アスティは答えた。


「えっと、人助け、かな?」


ミルティは一瞬キョトンと目を丸くして、その後、小さく吹き出した。


「人助け? ふふ、2人とも本当に優しいのね」

「優しい?」


レインが眉を潜める。


「困ってる人を放って置けないのは、2人が優しいからでしょう?」

「オレはともかく、コイツはお人好しなだけだ」

「は? なんで俺だけ?」


レインにバカにされた気がして、アスティが抗議する。


「そもそもオレが教会へ行ったのは、調べ事のついでだ。ソラを助けたいと言ったのはお前だろう?」

「それはそうだけど……」

「ん? ソラって誰?」


またも2人の話に興味を持ったミルティが質問をする。


「……いや、その話はまた後ほどにしよう。今は先にやらなくちゃいけない事があるんだ」


しかし、レインは質問には答えず、脱線しかかった話題を強引に終わらせると、本題へと入るようにアスティに目配せした。


「ああ、そうだった。ねぇ、ミルティ。マイルズがどこにいるか知らないか?」


突然、話題を変えられたミルティは少しだけ戸惑った様子を見せた。


「え? マイルズなら簡易施設で看護の仕事を手伝っていると思うけど……」

「そうか。では、そこへ行くとしよう」


レインはミルティの返事を最後まで聞く事なく、歩き出した。


「あ、私も一緒に行くわ」


ミルティも慌てて、2人の後を追った。



-----



「ミルティは相変わらず朝が早いね。花を届けにいってたの?」


大通りを歩きながら、アスティが話しかける。


「……ううん。花屋は当分お休みする予定。みんなまだ花が怖いみたいで……注文も今は全然ないから、今日はマルタさんのお手伝いをさせてもらってたの」


ミルティが表情を曇らせたのを見て、アスティは慌ててフォローする。


「そうなんだ。……でもアレはミルティフラワーのせいじゃないって分かれば、またみんな花を買いに来てくれるよ」

「ええ、そうね。そうだといいけど……あ、そうそう! あの病気から街を救ってくれたのはアスティなんだってマルタさんに話したら、すごく喜んでいたわよ。アスティにも会いたがってたし、また時間が出来たら顔を見せてあげてね」


ミルティはすぐに笑顔を作直すと、アスティに笑って見せた。


「マルタさんも無事だったんだね」

「ええ、花葬病にはならなかったみたい。今朝もいつも通り元気に市場で働いていたわよ」

「そういえば、街に着く前に黒い狼に襲われたのはマルタさんの荷馬車だったな。今思えば、アレも司祭の仕業だったのかな」


アスティは荷馬車が襲われた時のことを思い出し、レインに話した。


「可能性はあるな。手当たり次第に荷馬車を襲っていたか、その馬車を狙って襲いかかったのかは不明だが、そのどさくさに紛れて積み荷を奪っていった可能性も考えられる」

「まさか、マルタさんの積み荷の中に王都制の薬が?」

「……2人ともなんの話をしているの?」


ミルティが不思議そうな顔で二人を見る。


「ええっと……」


アスティはミルティに話すべきか迷っていると、レインが横から口を挟んだ。


「詳しい話はマイルズに会ってからにしよう。何度も説明するのは面倒だからな」

「そうなの? わかったわ。それなら早くマイルズの所へ行きましょう」


ミルティは素直に聞き入れると、少し歩調を早めて、アスティ達の先頭を歩いた。


「……ああ、そういえば、君が倒れている間に病の原因を調べに君の家へ行ったんだ。非常時だったとは言え、勝手に家に入ったのを謝らないといけないな」


レインがミルティの後ろを歩きながら、声をかけた。


「ああ、その事ならマイルズから聞いているから大丈夫よ。お陰で事態も収束したんだし、気にしないで」


顔だけ振り向き、笑顔を見せるミルティ。


「そうか、ならばよかった。ところで1つ君に確認しておきたい事があるんだが……」

「え、なぁに?」


ミルティが視線をレインにむける。


「ホフキンスが君に宛てた手紙があっただろう?」

「え? ええ、あったけど……」


ミルティは記憶を探るように一瞬、視線を上に向けて答えた。


「その中にメモの切れ端が入っていたんだが、君は気づかなかったか?」

「メモの切れ端が? そんなの全然気がつかなかったわ」


ミルティは特に気にする様子もなく、答えた。


「そうか、ならばいい」


レインの質問の意図がわからず、首を傾げたミルティは思わずアスティの顔を見る。

アスティにもレインの考えは分からなかったので、曖昧な笑顔を返す事しかできなかった。

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