教会へ
すでに夕暮れに染まり始めた街を足早に歩きながら、リソラ達は改めて自己紹介をした。
「オレはレイン。それでこっちは……」
レインがアスティにチラリと視線を向ける。
「あ、俺は、アスティ…アスティ・ハルハイト」
アスティは少しだけ目線を下げ、名を名乗った。
「レインさんにアスティさんですね。私は、ええっと……リソラって言います。出来ればソラって呼んでください」
「じゃあ俺もアスでいいよ」
「オレも呼び捨てで構わない。それで、ソラ。さっそくだが、あの倉庫で何があったか簡単に説明してくれ」
リソラはなるべく簡潔に出来事を伝えようと、多少、内容を省いて説明することにした。
「はい……。ええっと、探してるのは私の姉のリサラと一緒に旅をしてるアークって男の子なんですけど、昼にあの倉庫をアジトにしてる人達に捕まってしまって……。私はなんとか逃げ出す事が出来たんですが、睡眠薬みたいなものを嗅がされて、助けを呼ぶ途中で眠ってしまったんです。幸い嗅がされた量が少なかったみたいですぐに目は覚めたんですが、戻った時にはもう倉庫には誰もいなくて……」
「……こんな街の中で人攫いか。ずいぶん大胆な奴等だな」
「平和そうな街なのに」
アスティが街に飾られた花を眺めて悲しそうに呟いた。
「それで、奴等がどこへ行ったか心当たりはないか?」
「たしか、教会へ行くって言ってました」
「教会? 悪党が何故そんな場所へ?」
「詳しくはわからないんですけど、一緒に旅してた男の子が教会から逃げてきたって言ってたんです。だからたぶん、その子がいた教会へ行ったんじゃないかと思います」
リソラは必死で誘拐犯の会話を思い出そうとした。
「私達を捕まえた男の人は彼をどこかへ連れて行くような事を言っていたので……。それが確か、教会って言ってたような……」
「ちなみにその少年がいた教会の場所は分かるか?」
「ごめんなさい。そこまでは……」
「別に謝る必要はない。情報を集めて整理すれば、自ずと答えは見えてくる。教会から逃げ出した少年に、倉庫をアジトにしていた男達。青い小瓶に貼られた印……。それに、花葬病……」
レインはブツブツと独り言を言いながら歩き続ける。アスティもリソラもただ黙って彼の後をついて行った。
「あったぞ、ここで馬車を借りよう」
レインは立ち止まり顔を上げた。
「馬車を?」
「借りられるんですか?」
レインの視線の先には『貸馬屋』の看板がぶら下がっていた。
「……貸馬屋を知らないのか? 二人ともどんな風に育てばそんなに物知らずに育つんだ?」
レインは振り返り、信じられないといった表情で二人を見た。アスティとリソラは互いに顔を見合わせ、首を傾げて誤魔化すように笑った。
そんな2人に冷ややかな視線を向け、レインは店の中へと入っていく。
「すまない、店主。この店で一番足の速いやつを頼む」
「はいはい。うちは馬しか取り扱ってないんですが、それでもいいですか?」
「ああ、構わない。あと、御者と荷台もつけてくれ」
「はいはい、それじゃあここに記名と身分証の提示をお願いしますね」
レインは店主の差し出した帳簿にサインし、身分証を見せた。
「はい、確認しました。……はい、丁度いただきます。すぐに準備して表へ回すんで店の前で待っててくださいね」
店主はテキパキと従業員に指示を出し、馬の準備を急がせた。馬車を待つ間、レインが店主に声をかける。
「ところで店主、この近くに教会はあるか?」
「教会ですか? はいはい、街の中にひとつありますね。それ以外だと、南東の平野にありましたが、少し前に野党に襲われましてね。今は誰もいないって話です」
「野党に? 教会が?」
「ええ、前々からあまりよい噂を聞かない教会でしたので、何かトラブルに巻き込まれたんでしょう。教会は王都とのイザコザもありますし……。この辺もだいぶ物騒になってきましたからね。街の外に出るならお客さんも気をつけてくださいね」
「わかった、ありがとう」
店主に礼を言い、三人は店を後にした。店先にはすでに馬車が用意されており、御者の男が荷台の扉を開けて待っていた。
レインは南東の教会跡地まで行くように頼むと御者の男は、はいと小さくうなずき御者台に乗り込んだ。三人が荷台に乗ったのを確認すると、馬車は軽快に走り出した。
「…ふぅ」
レインは少し歩き疲れたらしく、椅子に深く腰を下ろし深く息を吐いた。荷台は小さいが、きちんと人が座れる様になっていて、乗り心地はそれほど悪くはなかった。
「これで、少しは落ち着いて話ができるな」
「は、はい……」
ソワソワと落ち着かないリソラに対し、レインはまたも怪訝そうな顔をする。
「何だ、まさか馬車に乗るのは初めてだとか言わないよな?」
「えっ! あ、すいませんっ! 実は初めてで……」
図星をつかれたリソラは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「俺は初めてじゃないけど、人がちゃんと座れる馬車に乗ったのは初めてだ」
アスティも珍しそうに座席を叩いて、感心したようにうなずいた。
「……勘弁してくれ」
レインは目の前に座る二人のキョトンとした顔に頭を抱え、さらに深くため息をついた。




