名探偵と秘密のパズル(終章)
四つのグラスがぶつけられた。
カランっという音がその部屋の中に響く。賑やかな音が楽しげな雰囲気を示していた。
*
四年後────
ルインは何気ない道路を歩いていた。手には袋を持って変わらぬ道を歩いていく。
静けさが神秘的な空間を醸し出している。
傍らに墓の列。
砂利道を歩きある場所にくると立ち止まる。
南無阿弥陀仏。その下に飯田仁の墓と刻まれる。
ルインはそこに花と紙幣を隠し包む束を置き、手を合わせ目を瞑る。
目を開けるとすぐさま立ち上がり踵を返した。
ルインは欠かせず飯田の墓へと来て墓に手を合わせる。そして、花とお金を置いて帰るのが定番となっていた。
世間では"M"の正体が飯田であるとし嫌われている。ルインはゴーラン号の救い主であると言い広めようとしたが失敗し、飯田の墓は親戚とルイン程度しか参ることはなかった。
ルインはやるべき事を終え事務所への帰路を辿っていた。
晴天の空と所々浮かぶ小さな雲を見ながら歩いていく。その景色が分裂していき、パズルのピースと成り果てた。
落ちたピースを握り物思いにふける。
本当の正義とは何なのか。毒を持って毒を制すように悪を持って悪を制すのは果たして正義なのか。何年経っても分からない答えだ。ルインに出来るのは自己勝手によって亡くなった者を心から弔うことのみだった。
漫画に出てくる主人公は苦難を乗り越え主人公たる称号や仲間、大切なものを手に入れる。
しかしそんな主人公たる存在はひと握り。現実には乗り越えられない苦難を持つ者、悪の役割から抜け出せない者、そもそも苦難の機会に恵まれない者までいる。ルインはそのような漫画の主人公は非現実的で嫌いだった。
手に持つパズルにはフィクションに似たような色を持つ。ルインは「私とは正反対の色だな」と感想を述べた。
漫画なら私は敵役だ────
そう呟いて持っていたピースを落とし、澄んだ水色を遠ざける。
「きゃっ! ご、ごめんなさい!!」
突然、ルインに衝突する女性。
大きな眼鏡。水色と白の横ストライプの服。比較的細身な身体。見た目は多少若そうだ。
ぶつかった後、方向転換して壁際のコンクリートに衝突する。
「痛っ!!」
そう言って派手に倒れた。
ルインは仕方なく手を出して起き上がる手伝いをした。
その女性はルインの手を借りて立ち上がる。その手は澄んだ水色に似た温かさを与えた。
その女性は慌ただしくさっていくと思いきや、去った後にすぐに戻ってきた。
「すみませーん。ほんとにすみません。」
「何でしょうか。」
「ウチ、ここ初めての土地で……。土地感がなくて教えて欲しい場所があるのですが……。」
彼女は小さな声で「いいですか」と聞いた。
ルインは頷いてオーケーの意図を伝えた。
「最近この辺りで建設している建物知ってますか? まだ完成していないんですけど……。八百屋さんの向かい側にあるビルなのですが……。」
最近建設中の建物には一つピンと来るものがあった。
ミントティー私立探偵事務所。
飯田探偵事務所の代わりに出来た新たな探偵事務所だ。探偵としてライバルとなりそうなので注視していたのだ。
「確かミントティー探偵事務所では?」
「そうです! ウチ、探偵なんです。前までは東京でまあまあ名のある名探偵の助手をやってたんですけど、ようやくここで起業することが出来たんですっ!! それで、どこにありますっけ? そこは。」
ルインは女性の気迫におされながら淡々と目的地への行き方を教えていく。
教え終えるとすぐに女性は進んでいった。
「土地感覚えたらあのルイン探偵事務所にも行ってみよっ。ルインさんってどんな人なんだろう。気になるなぁ。」
女性はそんな独り言を言いながら去っていく。
ルインがそれを聞いて何か言うには遠すぎて話す間を失った。
ルインは騒々しい一瞬の後にその出会いを思い出した。
暗い色と明るい色が混ざった何とも言えないアートを持つパズルが浮かぶ。
そして、ルインは探偵となった頃、いや、もっと遡って警察になった頃を思い出した。信念に向かって真っ直ぐ走っていた自分の姿を。あの頃の元気ある景色。
そして、昔の自分と先程の女性を重ね合わせた。
彼女を思い出す程、懐かしき自分の姿が思い出される。
そうこうしているうちに探偵事務所に着いた。
中には健治が一人でズッカリと寛いでいた。健治にとってここは今や第二の家でもある。
「帰った。今日は健治一人だけか。」
「おう。シーナと祥子はお出かけだよ!」
「そうか。」
その時、電話が鳴り響く。
健治はケータイを取って電話をし、すぐさま出かける準備をし始めた。
「もうお出かけか。」
「ああ。全く暇な時間がなくて大変だよ。警部になったらこんなにも忙しくなるなんてなぁ。」
「いや、警部補の時がサボり過ぎていただけではないのか?」
「うっせぇ!」
健治は慌ただしく扉を開けて行ってしまった。
"慌ただしさ"を見ると道端であった女性を思い出し、さらには昔の自分を思い出す。
ルインは思わず写真立てが立っている目の前に移動していた。
懐かしき姿、と言っても四年前の姿が映っている。"M"が社会的に死に、新たなスタートを切ったことを示すために取った写真。それを飾っているのだ。
新たな家族のスタート。
小さな含み笑いを浮かべるルイン。その横でカッコつけている健治。二人の前で変わらず真面目なシーナ。ただ、いつもと比べて少し柔らかくなった感じを与える。そこの横には祥子がお淑やかに中腰になっている。晴天を背景に輝かしい風景となる写真。
そこに映るルインは警察になり頃、探偵になり頃と同じ信念を感じる。
その時ルインは恵まれていると感じた────
健治、祥子、シーナ。懐かしい写真を見て口元が緩む。
ルインはその写真をパズルに変えようとしたが、写真はピースに分かれることはなくそのまま立ちはだかる。
「まあ、これは変えることの出来ない記録だな。やはり、パズルにも変えられないか。」
ルインは写真を持ち上げて「ふっ」と笑って元に戻した。
手の先には……
かけがえのない薄青色に広がる風景が広がっていた────
~名探偵と秘密のパズル~ THE END
ご視聴ありがとうございました。




