表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/58

透明人間の人間投下事件(其ノ壱)

短編連載小説です。

  事実は決して変わらない。

  ただ、事実に対する主観は無限である───


*


 (おおとり) ルインは手に持つトランプを眺めていた。

 五つのカード。その内三枚を机に伏せ、机中央の束から三枚を引いた。

 四人の大人が机を囲むように腰を下ろしている。皆、カードを持つ。そのカードが一斉に開かれた。

 篠田(しのだ) シーナの置いたカードの内三枚が輝きを放っている。


スリーカード(・・・・・)よ!!」


 それを聞いた山内 (やまうち) 健治(としはる)苦渋(くじゅう)の表情で乱雑にカードを置いた。四枚のカードが薄明りを灯していた。


「勝てねぇよ! 俺ぁ、ツーペア(・・・・)だ!! なーんだよ! せっかく、運が良くて二枚同士揃ったというのによっ!!」

「運だけで勝負しようとするから山内警部補は負けるんですよ!」


 安倍(あべ) 祥子(しょうこ)は健治を軽くあしらった。それに機嫌を悪くしたのか健治は祥子を軽く睨む。


「じゃあ、お前は何だったってんだよ!!」


 祥子は手持ちを机に下ろす。全てのカードが(まばゆ)く照らす。三人の女王が健治を嘲笑(あざわら)い、二人の王が健治に冷たい視線を送る。


「"Q"が三枚と"K"が二枚。フルハウス(・・・・・)です!!」

「な、な、な、何だって!?」


 健治は口を開くと、その口は空いたままだった。まさに開いた口が塞がらない。動揺して汗が滴る。


「確かに運も必要ですが、それ以前に揃ってないカードがあれば全て送るという単純な思考ではポーカーでは勝てませんよ。」

「く…くくく……」


 二人は机を挟んで対面していた。

 真っ直ぐ突き抜ける視線から健治は思わず逸らした。


「残念ですが、私の勝ちですね。山内警部補は負けですよ!」

「こ…今度は絶対に勝ってやる!! 部下なんかに負けてられないからな!!」


 熱烈(ねつれつ)に広がる対抗心が部屋の温度を上昇させた。

 ただ、その二人の発熱機はすぐに凍結することになる。ルインはカードを下ろす。四枚の光線が全ての光をかき消した。


「盛り上がっているところすまない。(わたくし)は"A"が四枚。つまり、フォーオブアカインド(・・・・・・・・・・)で私の勝利。」


 ツーペアよりスリーカードが強く、それよりもフルハウスが強い。だが、フォーオブアカインドはそれを凌駕(りょうが)する。それに勝てるのはストレートフラッシュかロイヤルストレートフラッシュのみだ。

 健治は放心状態となった。祥子は「えっ」と戸惑っている。

 ルインは口元を(ゆる)める。


「この勝負を通して何か思ったことはあるかな?」


 健治はおどけた口を開く。込み上がる熱い炎が(またた)く間に冷やされたせいで、鉄は()びれた。その鉄は何処からどう見てもあどけない。


「いやぁ、運がいいですね……」


 反応もいまいち締まらない。


「やはり予想通りだ。安心してくれ、健治には何も期待してないからな」


 ルインの繰り出した言葉の刃が錆びれた鉄を両断した。打ちひしがれた心は悲しく下を向く。


「それでは祥子さんはどうかな?」

「すみません。何も変わらないように見えます。期待通りの答えを出せず申し訳ございません。」

「大丈夫だ。そう返されることは分かっていた。健治でも出せない答えだ。部下の貴女が答えられなくても仕方ない。」

「おいおい、俺への悪口かよ!!」


 眼鏡の奥に秘めたる眼差し。ルインは眼鏡の縁をかけ直した。


「さて、注目したいのはここからだ。シーナはこの勝負を通して何か思ったこと、あるいは気付いたことはあるかな?」


 黒に身を染めた服装のシーナは静寂(せいじゃく)雰囲気(ふんいき)(かも)し出す。ルインに向けて冷徹(れいてつ)の吐息が放たれた。


「先生はこのポーカーで《イカサマ》をしましたよね。」


 健治も祥子も「えっ?」と口から溢れ出た。驚嘆(きょうたん)と疑問が混じっていた。シーナを心の底で()めなからもその意味に首を傾げる。

 その様子を見ているルインは笑いを(こら)えていた。


「ちょっと待て、ルイン!!どういうことだ!?」

「彼女の言う通り、私は《イカサマ》をした。初めからこの勝負で私が勝つことは決まっていたのさ」


 ルインは変わらず前だけを見ていた。


「そして、もう一度聞こう。この勝負を通して何を思った?」

「こんな勝負は不毛だ。勝てる訳無かったんだ。そもそも、何故賭け事でもないのに《イカサマ》を使ったんだ?」

「なるほど。その問に答えるその前に祥子さんの答えも聞きたい。」

「私ですか? 私は《イカサマ》を見破ることが出来ず自分はまだまだ未熟だと感じました。警察として悪事を見破るために些細なことからでも精進(しょうじん)しなければいけないと、肝に(めい)じました。」


 祥子から正義感が溢れ出している。真っ直ぐとした美しい瞳には汚れが一つもついていなかった。


「さすがだ。部下である祥子さんはまさに警察の(かがみ)みたいな答えだ。一方で、上司の健治ときたら……」

「わ…悪かったな」と健治は口元を濁した。


 健治は片肘を机について顎を(てのひら)に乗せてルインの方を見る。

 ルインは怖気付くことなく真っ直ぐ視線を貫いた。


「さて。私はポーカーで《イカサマ》を行って勝利した。この事実(・・)は揺るぐことはない。」


 ルインは表面のカードを全て束に戻した。目に見えない程素早い手(さば)きでトランプをきっていく。


「事実は変わることはなくても、その事実を見た人の意見はそれぞれ違う。一人一人考え方が違うのだから当然だ。健治は《イカサマ》を不毛と言ったが、祥子さんは《イカサマ》を見破って当然で見破れない自分への後悔を述べた。」

「それで? ルインは何が言いたいんだ?」

「教科書に乗っていること、記事に乗っていること、それは誰かの主観が混じっている。もしかしたら主観が捻じ曲げて捉えているかもしれないし、敢えて捻じ曲げてるのかも知れない。探偵は、警察も、<その主観に踊らされてはいけない>!!」


 健治は髪の毛をむしゃむしゃ()き始めた。


「いや、分かんねぇよ!!」


 しかし、その目の前に座る祥子は首を何度も縦に降っていた。その頷きが理解したことを現す。


「私は分かりましたよ、山内警部補。事件の真相、つまり事実は(ゆが)むことなく存在しますが、その事実を見た人が勘違いしているかも知れませんし、嘘の情報を伝えるかも知れません。そんな情報に探偵も警察も騙されてはいけない。……ということです。」


 ルインは優しく微笑んだ。


「祥子さんの言う通りだ。」

「いや、分かったような分からないような……」

「そう言えば、健治と祥子さんってどちらが上司でどちらが部下だろうか。ああ、上司は祥子さんで部下は健治か」


 「上司は俺だ!!!」


 言葉で(いじ)られる健治。滑稽(こっけい)な反発がその部屋に笑いを生んだ。


「くっそぉ! いつも通り、俺らを試してたって訳だろ?」

「正解だ。ポーカーを通して二人を試そうとした。勿論、シーナにも協力して貰っている。」

「まんまと()められたな、俺ら……」

「ええ。けど、山内警部補は常に学習しませんよね。だから、いつまで経っても警部に昇進出来ないのでは?」

「るせぇ!!」


 賑やかな空間。

 窓に映る雲が笑顔を浮かべて過ぎ去っていく。


「本題に入ろうか。迷宮入り確実という厄介な事件の依頼である【透明人間の人間投下事件】について教えて貰いたい。」


 黄色の紙に黒い点が浮かぶ。その黒を見逃すことは出来ない。その点が雲に亀裂をかける。

 真剣な眼差しで健治は語り始めた。

とある掲示板で齧った所で疾走したので、その作品を完全オリジナルでリメイクして投稿しました。

ただ、書きたくて書いてます。


※途中からルインの口調が「祥子さん」から「祥子」へと変わっています。これは単なる作者のミスです。見つけ次第、ゆっくりと直していこうと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ