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怪盗"M"からの予告状(其ノ伍)

細かな一文が解明の鍵かも!?

 長く細い針が回り、短く太い針と重なった。

 カチッ。そんな音が静寂を切り裂く。

 怪盗"M"の予告した時刻。この部屋を隅々まで照らす電球が一瞬にして生命を失う。もうこの部屋に(あかり)はない。暗闇が目を奪う。

 深夜の黒と変わらない色となった部屋の中で怪盗は誰にも気付かれずニヤリと(ほお)(ゆる)めた。


「暗くなって前が見えない。」


 暗闇が目を封じる。 

 下手に動けない。用心深く周りを目以外の五感で確認する。誰も部屋への出入りがない。

 ()こえる不思議な音。足音ではない。何かが(きし)んでいるようだ。すぐにその音は強烈な破裂音(はれつおん)()き消された。

 硝子(ガラス)()れる衝撃が身体の(ずい)まで(ふる)えさす。


「気をつけろ!ガラスが割れたっ!!」


 混乱した声が部屋の中を何度も行き渡る。

 闇に隠れた怪盗を感じることは出来ない。いつしか、電球に生命が吹き込まれた。

 そこに、怪しい人物はいない。ルイン、シーナ、健治、祥子、飯田、愛家、縣、涼介が周りを見渡している。


「くっ!まんまとやられたっ。」


 宝を守るガラスが破壊されていた。

 四方八方に散らばったガラスが足場を奪う。大小様々な破片(はへん)が床を照らす光を反射する。

 機械の内部に宝石はない。内部に散らかる破片はその外側のガラスの量よりも極端に少ない。機械に張り付くガラスは(とげ)のように鋭い牙を向いていた。

 時計の短い針が二を指す。時間が止まったかのようなこの部屋で時計だけは時間が止まることが無かった。


 無音は過ぎて、愛家が無線で話している声だけが部屋に響く。

 無線機をしまうと声を荒らげた。


「停電の間にこの部屋への侵入は確認されていない!!」


 部屋への出入りがないということは。盗んだ人はこの中にいる。


 「つまり、怪盗"M"はこの中にいる!!」


 藜の瞳にルイン、シーナ、健治、祥子、愛家が映る。

 縣───

 涼介───

 飯田───

 彼らが強く瞳に残る。


「怪しいのは研究員縣優、藜のライバルの田中涼介、そして、探偵の飯田仁だな。」


 愛家のその言葉に飯田が反応する。


「何故、私が容疑者候補に入っているのかね!?」


 それを見たルインが笑みを抑えて話しかけた。


「顔が胡散臭いからではないか。」

「貴方には黙ってて貰いたいですな!!」


 飯田は腹を立てた様子で仁王立ちする。

 犯人はこの中にいる、そんな緊張感を打ち解けることは出来ず、未だ不穏な空気が漂っている。

 そんな中、藜が空気を一新させた。


「この中に犯人がいるのなら持ち物検査で見つかるのではないですか?」

「そうだな。皆よ、持ち物を調べる。動くな!!」


 愛家は一人一人持ち物を確認した。

 ルイン、シーナ、健治、祥子、そして、飯田には怪しい物は何も持っていない。財布やケータイなど普遍的な物が公に見せられる。


「次は縣優だな。」


 縣の持つリュックには貴重品や日常品の他にグローブと野球ボールが入っていた。


「これは何だ?何故、ここに持ってきたんだ?」

「これは野球ボールとグローブです。今日藜博士の頼み事が終わって次の日を迎えたら、その日に従兄弟の息子とキャッチボールをする約束があったので持ってきました。」

「成程……。」


 愛家は野球ボールとグローブをリュックへと戻した。

 相変わらず縣は真っ直ぐを眺めている。


「最後に田中涼介だ。」


 愛家は涼介の鞄を(あさ)った。

 そこから、薄桃色の宝石が取り出された。


「これは……何だ?」


 愛家の手で小さく輝く宝石。藜は驚いたように目を大きくした。


 「そ、それは、穏風と妖精の宝石(シルフ・フェアリー)!!?」


 愛家は近くの机に宝石を置いた後、再び鞄を探る。

 その中から、怪しい箱を取り出した。


「これは何だ?」

「機械じゃ!今日これを持ってきて欲しいと頼まれてのう!!」

「藜博士にか?」

「勿論じゃ、二日前、儂の家に来て頭を下げに来た藜がそのついでにこれを持ってくるようにと伝えたのじゃ!!」


 そう言う涼介を前にして藜は首を傾げた。


「どういうことか?我には憶えがないが……」

「なんじゃと!?儂はその分の賄賂(わいろ)が上乗せしたことまで憶えているぞ!!」


 藜は涼介の訴えを無視するように(さげす)んだ。


「分からない。それに証拠もない。しかし、お前さんは宝を持っていたという証拠がある。これは紛れもなく犯人を示す!」

「違う!違うんじゃぁ!!」


 涼介は震えながら後ろの方へと足を進める。

 愛家が涼介の腕を掴み、手錠を掛けると涼介はその場に尻餅(しりもち)を着いて倒れた。


「言い訳は出来ないからな!!後は、署で聴くとしよう。」


 そんなやり取りが行われる間、ルインは破れたガラスの破片の砂利(じゃり)に足を運んでいた。

 ルインはガラスの破片を一枚(ひろ)う。


((ぬる)い……やはり、何か引っかかる。)


 ルインはガラスの破片と(にら)めっこする。

 (かたわ)ら、愛家に連れていかれる涼介。それを健治が制した。


「少しだけ待って下さい!本当に彼が犯人なんですか?」

「何を言う、宝石が鞄に入っていた。紛れもない証拠だ。」


 そこへルインがやって来る。

 愛家の耳元で(ささや)く小さな声が、愛家の頭の中で大きく(ふく)らんでいた。


 「警部でもあろうお方がまさかステレオタイプ(・・・・・・・)に流される(・・・・・)ことなんて(・・・・・)ないですよね(・・・・・・)


「暗闇により、実際に目で見てた訳でもなく、何の根拠もなくその品があるからという固定概念で犯人だと決めつけられるのか。それが本当に犯人の仕業とは限らない。犯人に見せる罠かも知れない。」

「愛家警部。それではどのように盗んだのか教えてくれませんか?」


 健治の追い討ちにやられ、愛家は声が出なくなった。

 ルインは照明の真下へと歩いた。


「小学校、中学校、高校と正解か不正解かしかない二択を解くことが殆どだった。しかし、現実はそうではない。正解か不正解か分からない問題が沢山並んでいる。私は答えは色や数字の数だけ存在すると思っている。本当の正解は存在しない。」


「世の中では一概(いちがい)に正解、不正解では問えないものがある。鞄の中に宝石がある(・・・・・)かないか(・・・・)ではなく、何故宝石がそこにあるのかが重要だ。」


 端の方に見える色、それは真っ暗闇に染まり何色にも染まらない色かなんにも染まっていない無垢な色かの二つが強く見える。


 白か黒か──


 しかし、その間の中には無数の色が存在した。赤、青、黄、いや、それだけでないマゼンタやシアンなどもある。山吹色や(エンジ)色だってある。様々な色が黒と白の間に点在しているのだ。


 その間には数多あまたの"色"が存在している───


「この世には『正解か(・・・)不正解か(・・・・)では導けない(・・・・・・)答えが(・・・)世の中には(・・・・・)色の数ほど(・・・・・)存在する(・・・・)───』。涼介だと犯行を行える辻褄(つじつま)が合わない。」

「どういうことだっ!?」


 ルインの目の前にはジグソーパズルが広がっていた。徐々に埋まっていくピース。

 真上にある照明がジグソーパズルを虹色に照らしていた。

この話で怪盗"M"が誰かを解ければ凄い!!犯人はこの中にいる!!!

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