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透明人間の人間投下事件(其ノ拾)

 ピース一つ一つが灯火となり、ジグソーパズルが会議室を照らしていた。

 光がスポットライトのようにルインを照らす。その光に反射した眼鏡の奥から真っ直ぐ貫く瞳が覗く。


 「これが事件の真相だ!!」


 会議室に吹く眩き爽風(そうふう)。その光の風が飯田や愛家の口を塞ぐ。


「完全な計画犯罪だと思われたが、予期せぬ失敗が一つあった。それが水道工事だ。昼の二時に行われる水道工事。犯人の二人はまさか朝十一時から来ていることを予期していなかった。それに、二人が出ていった十時には作業員はいなかったから来ないと思っていただろう。」


「その失敗が大きなアダとなる。、第三者の犯行に矛盾を作ってしまったからだ!まさか、現場の部屋の扉に出入りがないということを証言する人がいるなど二人には夢にも思わなかっただろう。」

「そして、私ら警察は第三者の犯行だと無意識に決めつけていたから、透明人間が行ったという有り得ない推測になったのか……」

「その通りです。警察の誰かが透明人間の犯行だと推測し、その線で事件解明が行われた。矛盾を抱えたまま解明をしようとしたせいで、迷宮入りとなったのだ。」

「二人に何が起きたのか簡単な真相を伝えた時はさぞ驚いただろうに。まさか、現行に出入りがなく、犯人は透明人間として事件の真相を暴こうとはな。」


「それにしても流石だ、ルイン探偵。助けられた。感謝しきれない。」


 飯田はお辞儀をした。ルインはそれを見て手前のパズルに触れる。

 ジグソーパズルが消えた。

 幻想的な空間から一気に厳格な空間へと変わった。


「折角、私が用意した情報を無駄にするどころか私の努力を無駄にしやがって……」


 小さな声で飯田はボソッと呟いたが、静寂の空間だったせいでそこにいた皆にその声は響き渡った。


「それは申し訳ないことをした。代わりに、助言をするとしよう。」


 ルインは優しく飯田を見る。


「被害者である晴秀は死んだ。この事実(・・)は決して変わらない。」


 事実は決して変わらない────


「しかし、その事実を見るのは人間だ。人間一人一人考え方が違う。さらには、立場も違う。そのせいでその事実の見方はそれぞれだ。敢えて事実を捻じ曲げて伝えるかも知れないし、勘違いしていて伝えるかも知れない。警察から見た事実と弁護士から見た事実は違うかも知れない。個々人が培ってきた人生と立場から事実を見る。事実を見てどう考えて伝えるのか。主観(・・)は人の数だけある。そう無限にある。」


 ただ、事実に対する主観は無限である────


「事件を解くためには、主観に(もてあそ)ばれてはいけない。様々な考えから一つの真相を解き明かす。今回"犯人は透明人間がやったに違いない"という主観に弄ばれていた。それでは何人事実聴取をしたって解くことは困難となる。」


 ルインは飯田に背を向けた。

 そして、会議室の扉へと向かって歩いていく。扉に触れると飯田の方を軽く見た。


「その努力はまだ浅い。空回りして警察達を困らせていた。もっと学んでから参入するといい。其方はまだ青い。未来に希望のある青が黒に染まる前に、一度事件解明から引いて見てはどうかな。これは助言だ。」


 そう言うと、会議室の扉が開かれる。会議室の中に明るいライトが射し込む。

 ルインを先頭にシーナ、健治、祥子、そして愛家がそこから出ようとしていた。それを止めるように飯田は机を叩いた。


「分かっている!ルイン!!元々警察だったからっていい気になってるな!今すぐにでもその余裕を返上するがね!」


 射し込む光を浴びるルイン。

 その光に打たれながら飯田を見た。


「探偵としては認めている。私について調べあげられていたとは感心だ。」

「その余裕もすぐに返してやる。余裕があるんだろ?」

「余裕なんかない。私は全てのことに全力で取り組むだけだ。」


 そう言って、ルイン達はそこから離れた。

 一人残された飯田は強く机を叩いていた。薄いダウンライトが飯田を悲しく眺めていた。


「くっ、憶えていろよ!!絶対に見返してやる!」


 飯田はその後、探偵所に戻った。

 そこでパソコンを起動した。

 パソコンに映るルインと一人の女の子。女の子は黒のワンピースに黒の装飾。小さな身体に、鋭い眼。ルインの傍にいた女の子。


「篠田シーナ。幾ら探しても見つからない。さては偽名かね。あの女の冷たく睨むような態度。気に食わないなぁ。ルインを(おとし)めるついでにこいつも貶めてやるぞい!!」


 パソコンから着信が来る。

 新田亜蓮からだ。飯田は通話を繋げた。


「何かね?私は今むしゃくしゃしているのだがね。ルインらによって警察の信頼を得ることが無駄になった。ルインのせいで金銭面を損をしてしまったのだ……」

『だからと言って彼に手を下すことは出来ない。』

「何故……」

『彼の後ろ(バック)には谷川組がついているんだ!』

「何と!!?」


 暴力団など反社会的組織は居場所がない。勝手に動けば警察が動き逮捕される。国家権力によって潰されるなど容易だ。

 だからこそ、裏で生きるために影に身を潜める。それだけでなく、光を知ることも大切だった。生き抜くために探偵を味方につける所もいた。

 それが、新田組だった。新田組は飯田探偵事務所と密かに手を組んでいる。

 そして、谷川組もまた探偵を味方につけていたようだ。それが、ルイン探偵事務所ということのようだ。


「まさか繋がっていたとは……。しかし、それを暴けばルインを貶めるチャンスではないかな」

『いや、やめておけ!裏に谷川がいるのは分かってるが、実際に見た奴はいない。もっと間接的な関係なのかも知れない。』


 飯田は一人静かな部屋でパソコンを見つめていた。いつかルインを貶める。そんなことを考えながら強く拳を握っていた。

残り一話で事件が一つ終わります。

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