透明人間の人間投下事件(其ノ捌)
捌=8
車のエンジン音が不気味で不穏な風音を消し去っていた。
車内で何度も流れる録音機。友香が怒りに任せて声を荒らげているのが聞こえる。「実家の至る所に指紋が拭き取られていたじゃない!!テーブルの上とかドアノブとか……」そのフレーズが何度も繰り返される。
「墓穴を掘ってるな。こりゃあ、ルインが笑いを堪えられないはずだ。」
この事件は今日の夕頃までには解きたい。飯田と愛家の取引前に解いて、その取引をやめさせようと考えていた。
友香との面会によってパネルはもう埋まる。後は、祥子を待つだけだ。
車はルイン探偵事務所に着いた。ルインらはその中でひたすら祥子を待っていた。
太陽は頂点に到達した後は落ちていくだけだった。
時計の大きな針が徐々に右回りに落ちていく。
取引の時間まで残り数時間。移動を考えるともうそろそろ来ないと取引をやめさせられない可能性が高い。
「調べて来ました!!」
その時、祥子が事務所の扉を開けた。
祥子は机に資料を置いて紙を広げた。ルインはその資料を手に持って確認した。
「食材を除いて見ると、ダンボール、睡眠薬、釣りグッズ、絆創膏、カッターナイフ、ハンカチ……。揃いに揃っている。」
ジグソーパズルの穴はなくなり、一つの絵が完成した。七色、いやそれ以上の色がその絵で輝いている。
「そうか。分かったんだな?」
「勿論。後は交渉を止めるだけだ。」
健治はポケットからスマートフォンを取り出した。
*
夕日が落ちていく。
愛家はケータイに着信がきているかどうかを確認した。着信はきていない。もう取引が始まってしまう。
「ご機嫌いかがですか、愛家警部。今日は取引、お願いします。」
飯田の胡散臭い挨拶。愛家は飯田を連れて会議室へと連れていった。
歩きながらケータイを握っていた。
心の中で「早く連絡してくれ」と祈るしかなかった。
そうこうしている内にもう会議室の目の前だ。愛家は諦めたように会議室への扉を開いた。
ガラパゴスケータイ、もといガラゲーは虚しくも息をしない。まさに死人のように。愛家は死んだと思った。
ガラゲーに宿る命。小刻みに揺れ、音を鳴らし生きていることを証明する。
「失礼。」
愛家は飯田を後にしてケータイを手に取った。
『もしもし、山内です。今ほどルインと共に事件の真相が解りました。もし、飯田と交渉をするのなら一旦中断して下さい。』
「分かった。来るんだよな?」
『勿論です。それでは失礼致します。』
愛家はケータイをしまった。
「すまないが、交渉は一時中断にしないか?その交渉に呼びたい奴がいるんだ。」
愛家は希望ある面影で扉を開いた。
「それまで待つことになるんで、中でお座りにでもなって下さい!!」
会議室に二人の猛者が向かい合った。厳かな雰囲気に包まれた。
その雰囲気を壊すように現れた四人の希望。
会議室にルイン、健治、シーナ、祥子が入ってきた。柔らかな空気が覆う。その空気が和ませる。
「その交渉はする必要ない。」
ルインは微笑んだ。
飯田はそれに疑問を抱き首を傾げる。
「どういうことかいな?」
「事件の真相が明らかになった!」
飯田は驚いたように顔を歪ませた。
「透明人間の正体が分かった、ということかね?」
ルインは首を傾げる。
「透明人間?透明人間が本当にいると思っていて言っている?」
「勿論、有名な科学者藜博士の作った透明人間にする機会によって透明人間にされた殺し屋が……」
そこまで言うとルインが手でそれを止めるように促した。
そしてルインは拍手をする。
「素晴らしい。大人になるに連れて現実的になってしまい、想像性がその分薄まってしまう。私には想像力が足りなくなっていて、透明人間など聞くと現実的に考え不可能だと決めつけてしまう。
しかし、飯田は違う。非現実なことも存在すると考え、それを基に事件を解明しようとする。素晴らしい想像力だ。」
ルインは関心して優しく微笑んだ。
それに、気を悪くした飯田は拳を強く握る。その拳は後ろに隠されて誰も見られていなかった。
「それは皮肉かね?」
「皮肉ではない。私なりに褒めているんだ。」
「そんな戯言を言うより其方の意見も述べたらどうだい?」
「そうだね……」
ルインは目の前に広がるジグソーパズルに手をかけた。そして、それを飯田の方に回転させる。
「それではお見せしよう。事件の真相を!」
ジグソーパズルは不思議な色を放つ。その色は心を高揚させる。優しい色が会議室全体に広がった。
光の矢印がルインに向かって進む。
その光が身体の周りを回って進んでいく。ルインはその光に煽られながら、パズルに手をかけた。




