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村 その7

 村の北側、少し丘になっている草原に『アーの樹』は生えている。

 丘の北側には少し離れて東西に連なる高い山脈がそびえたち、国境になっている。

 樹はあまり太くなく、高さも大人の身長と同程度。樹の枝は大人が手を広げた程度の広さに広がる。

 樹の間も程よく離れ、とても実が取りやすいようになっている。

 樹の数は100本以上。

 枝には水色の『アーの実』がいくつも枝にぶら下がり、その『アーの実』の半数以上は透けている。


「何だあれ……」


 ハナは今まで見たことない透明の実に驚く。

 家でいつも食べていたのは普通の実だけ。透明の実のことは聞いたこともない。


「あれ? ハナくん来たのね」

「おー、いらっしゃい」


 ハナに気づいた数人の村人が声をかける。

 ハナは軽く会釈をしてから『アーの実』のほうへ視線を戻し、魔力視を行う。

 

「まじか……」


 目の前には数多くの光が浮かんでいた。

 そして木には光が実っている。

 普通の実は少ししか光っていないが、透明な実は精霊と同じ量の光を放っていた。

 ここでは精霊が実るのだ。


(この精霊はここで生まれたのか)

 

 この世界の低位の精霊はここで生まれ、世界に散っていく。

 ここは奇跡の生まれる場所。

 精霊たちの聖地である。


 そんなことはハナには関係ないし、見ただけでわかることでもない。

 何から精霊が生まれようとハナがすることは決まっている。

 ハナは手に持った6種類すべてのリボンを振ってみる。

 樹に実っている光以外はハナの近くにどんどん寄ってくる。

 それを見ていた村人たちは一体何が起こっているのかと驚き、「なんだなんだ」と声をあげる。


 すぐにハナは光にの中に埋没する。もちろん何ともない。

 ハナは光の中でリボンをぐるぐる回し始める。

 光たちがそれに合わせてぐるぐるぐるぐる回りだし、光の渦が出来上がる――



 こうして村に新たなブームが生まれた。


 人々はリボンを手に、精霊で模様を描く。

 リボンはそのまま手に持ったり、木の棒の先に括り付ける。

 そして走ったり、飛んだり、回ったり。

 多くの村人は光を上手く操ろうと試行錯誤を繰り返す。


 身近な精霊で世界をより美しく彩ることができる。

 外の世界に興味がない村人たちも、すべてに興味がないわけではない。

 精霊は生活の一部で、無関係ではいられないのだ。


 精霊を操るようになって村に新たなルールができた。

 畑ではリボンを使ってはいけない。

 それぞれの畑に居る精霊が集まってしまって、野菜の成長に影響が出てしまうからだ。

 リボンは振っている間は精霊が集まり、振るのをやめると元の場所に戻ろうとするのだが、戻らないものも出てくる。

 だからリボンを操るのは『アーの樹』がある丘限定となった。



 ハナがリボンを振り始めて数か月。


「とりゃー、とうー!」


 ハナはとても長い木の棒に長いリボンを一定間隔でつけて『アーの樹』から少し離れた周りを飛んでいた。

 その後ろを丸い精霊たちが追いかける。

 空に描かれた虹の橋は美しく、人々を魅了していた。

 身体強化ができるハナにしかできない凄技だ。


 次に別の青と白の普通のリボンをくるくると回しながら走り始める。

 青い精霊と白い精霊がくるくると回りながらそれを追う。


 そうしてリボンや棒を変えたり、振り方を変えたりして、幻想的な光景を生み出していく。

 人々はその美しさに魅了された。

 こうして村におけるハナの存在は非常に大きいものとなった。

 村にリボンをもたらした上、精霊を操る技量は村一番。


 いつしかハナは『リボンのハナ』という二つ名を得た。

 この世界において二つ名は特別な意味を持つ。

 しかし、ハナは二つ名を保有していることを知るすべを持たないし、この国にいる限り二つ名があっても意味はないので問題もない。


 村の大人たちは親しみを込めて「リボンのハナくん」とハナを呼ぶ。

 しかし、ハナ自身はリボンのハナと呼ばれることが好きではなかった。

 初めのうちは恥ずかしいからと抗議の意を示していたが、今ではもうあきらめている。

 髪や素早い動きにちなんで漆黒や疾風のハナならどうかと提案もしてみたが、定着はしなかった。



 こうして、修行やキノコ狩りの後に精霊を操る日々が過ぎていく。

 商人たちへの注文にリボンが大量に加わり、村の人たちがリボンを持って精霊を操っていること以外の大きな変化はない。


 しかし、ハナには気になることが増えている。

 自分以外の村の人たちは精霊を普通に見ることができる。

 色も魔力視で見える色と大体同じだ。

 商人も精霊は見えるらしい。

 このことは別によかった。自分も見えるようになったからだ。


 気になったのは村の人の魔力が多いことだ。

 自分が5歳のころは豆粒ほどの小さい魔力しかなかった。

 だが村の5歳に満たない子どもですら外から光が分かる程に大きい。

 

 今となっては魔力量は自分のほうがはるかに上だ。

 それでも何か足りない気がする。

 ハナはこの時から嫌な予感があった。


 

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