村 その6
次の日、ハナはいつも通り森へ行く。
「さて、やってみるか」
精霊も恐らく魔力を持っている。
不思議なことは魔力が関係していると考えるのが異世界での心得だ。
ならば魔力を見ることさえできれば精霊も見える。
ハナはそう考え、まずは魔力を目に集中し、魔力が光って見えるように視力を強化する。
「うわっ!! 目がー! 目がー!」
両手で目を抑え、すぐに魔法を解く。
「あー、まったく……」
目全体に魔力を集め、普通に網膜で感じるようにしたため眩しくなったのだ。
ハナは次こそ失敗しないように気を取り直して再び挑戦する。
目に魔力を行き渡らせ、コンタクトレンズのことを思いながら外の魔力が光って見えるように念じてみる。
じわーっと視界が変化し、魔力がぼんやりと光って見えるようになった。
森の所々に白いものが見えている。
自分の手に魔力を流し、その魔力を見て、きちんと見えていることを確認する。
「うん、大丈夫」
こうしてハナはすべての魔力が光って見えるようになった。
魔力を見る魔法は魔力視としてすぐに使えるように繰り返し練習もしてみる。
魔力視のオンオフを素早く何度も切り替える。これはすぐにできた。
一度やったことならすぐに繰り返すことができるほど、ハナの魔法の実力は上がっている。
これで精霊を見る準備はできた。
まだ時間もあるので精霊との初対面するため畑に向かう。
ハナが家の畑へ行くと今日は誰もいない。
みんな『アーの樹』のほうへ行っているのだろう。
畑は家の東側にあり、家の中と同じ広さしかない。
村の畑ではすぐ野菜ができるために広さは必要ないからだ。
村にお金を稼ぐという選択肢があるなら、広い畑で穀物や野菜をいくらでも作って外に売れるだろう。しかし、この村にはそんな選択肢はない。
もったいない話である。
ハナはさっきできるようになった魔力視を行う。
すると光の玉がいくつも飛んでいたり、野菜の上に止まっているのが見える。
これが精霊だろう。
予想外の多さだ。20個以上ある。
少し離れた近所の家の畑のほうを見てみるとやはり光がたくさん見える。
「こんなに見えない何かが居たら普通に怖いよね……」
今まで自分が畑に近づきたくなかった理由と思われるものに納得する。
家に無害でも見えない幽霊が同居していたら怖いだろう。それと似たようなものだ。
「さてと、話てみるか」
ゆっくり近づいて飛んでいる光に話しかける。
少しドキドキしている。
「……こんにちは」
しかし、返事がない。ただの光のようだ。
何も反応がないのは予想外。
何かあると思っていたが、無視されるなんて考えてもいなかった。
「こんにちは」
やはり、返事がない。ただの光のようだ。
2度の挨拶も空振りに終わり、試しに光を触ろうとしてみたが、それすらも空振りに終わる。
手を光がすり抜けるだけで何も起こらない。
この後も何度も触ろうとしてみたが、何の反応も示さない。
何回やっても何回やっても――
今日はさすがにあきらめることにした。
ハナの負けである。
次の日もハナは森でいつも通りの訓練とキノコ狩りをしてから畑へ。
今回は家からあるものを持ってきていた。
前に貰っていた幸せを運ぶリボンである。これも精霊の話がある幸運グッズだ。
こういうものは意外と意味がある。
信仰のためのものだったり、もともと別の使い方があったものが他の使われ方をしているだけだったり。
ファンタジーな世界とはそういうものだ。
まずは6色のリボンのうち、畑っぽい茶色のリボンを使うことにした。
右手でリボンの真ん中をもってひらひらと揺らしてみると、いくつかの光がさーっと寄ってくる。
「なんかすごく来た!?」
ふりふりと振り続けると、他の畑のほうからも少しだけ光が向かってきていることに気が付いた。
しかし、全く興味を示さない光もたくさんあり、違いはわからない。
「うん? とりあえず別の色も試してみるか」
左手に水色のリボンを持ち、同じように振ってみる。
そうすると別の光たちが寄って来たのだ。
光の強さも動きも変わらない。
「これって、好みの違いなのかな? あ、そういえば……」
この時、商人から聞いた話を思い出す。
精霊に関する話で、精霊には6つの属性が存在するという話だ。たしか精霊にも色があるとかなんとか。
ハナは魔力をただ光らせて見ているだけなので違いがわかるはずもない。
出来ないのであれば、出来るようにすればいい。
ハナはそれぞれのリボンに寄ってきている光がリボンの色になるように念じてみる。
魔法なら種類別の色付けぐらいならできるだろうという判断である。
すると茶色のリボンに集まっていた光はうすい茶色っぽく、水色リボンの光も薄い水色に変化した。
精霊の魔力は普通の人の魔力と異なり、それぞれの属性の種類にわかれる。
それぞれの属性に適した魔法であれば、同じ魔力ならより強力に、同じ魔法ならより少ない魔力消費で行使できる。
もし適さない魔法であれば何倍もの魔力を必要としてしまうか、行使できない。
魔力としてはそれぞれ別物なのだ。
だからハナの魔力視でも色分けがきちんと行えたのである。魔力が同じものならこうはいかなかった。
「おお、上手くいった。上手くいった」
他のリボンも同じように使って光に色を付けていった。
この辺りには精霊が多い。1つしか居なかった色もあるが、すべての種類の色付けは完了だ。
色付けが終わるとすべてのリボンをフリフリしながら呼び寄せて挨拶をしてみる。
「こんにちは」
しかし、返事がない。ただの光だった。
しばらく続けていたが、特に変わったこともない。
手で触れてもただ通り過ぎるだけ。
ただリボンを追ってキラキラしているだけだ。
こういう場合は、数で勝負である。
精霊が多いと思われる場所は『アーの樹』の方だ。
あそこでやれば1つぐらいは反応してくれるだろうと考える。
ハナはこうして初めて『アーの樹』に向かう決心をした。
前と違って、今なら行っても大丈夫だと感じているからだ。
これは魂を成長させてきた成果である。